『LOVE』か、『すき』か


 お、優だ。


 昼休みが終わり、教室に向かっていた伊吹は、ちょうど階段辺りで優に出くわした。


 お前、もうチャイム鳴るぞ、と思ったが、何処から走って戻ってきたのか、頬を上気させ、息を弾ませている優は可愛い。


 ……可愛いから仕方ない。

 叱らないでおいてやるか。


 と、なにが仕方ないんですか、と教頭に怒られそうなことを思う。


 ちょうど周りに人気がなかったので、

「美味かったぞ、弁当」

と優に声をかけてみた。


「えっ? 本当ですかっ?

 ありがとうございますっ」

と言う優は嬉しそうだ。


「でも、あの『LOVE』とか『すき』とか言うのはなんだ」

と言ってやると、


「あれ? 王子のお弁当も見ました?」

と優は笑う。


 両方の弁当のメッセージを知っていたからだろう。


「おじさんが、男の方に作って差し上げるお弁当は、ああいう飾りをつけるのが礼儀だって言うから」


 あれでよかったですか? とまっすぐに見つめて訊かれ、

「うん……まあ、よかったかな」

と答える。


 おっさんの指示に寄るものだとわかっていても、優が作ってくれたのだと思うと嬉し……


 と思いかけ、はた、と気づいて、確認する。


「おい、あの文字もお前が作ったんだよな?」


 小器用に、海苔を切ったり、人参をハートにくり抜いたり、ゆでたりしている舷の姿が頭に浮かんだからだ。


「はい。

 私が作りましたよ」

と言われて、ほっとした。


「でも、お前、ひとつ文句をつけるなら、業者が配るように弁当配るのはやめろ。

 あの感じだと、どの弁当を誰に渡してもよかったんだろ。


 上から適当に取って渡しやがって」


 そう言うと、優は、

「いやいや。

 適当に取って渡してはいませんよ。


 ちゃんと紙袋に入れてある順番があったんです」

と言ってきた。


 それを聞いた伊吹は足を止めかける。


 じゃあ、俺がLOVE!?


 高見がすき!?


 LOVEとすきはどっちが……っ!?


 俺が古い人間なのかもしれないが、俺のLOVEより、高見のすきの方が本気度が高い気がするのは気のせいかっ。


 などと思っていると、優が、

「一番下のが私のだったんです。

 あれには、おじさんが、今日も頑張れって書いてくれてたんで」

と嬉しそうに笑う。


 ……まあ、自分が自分でLOVEとか書いた弁当食べないよな。


 いや、こいつの場合、平気で食べそうだが。


 しかし、あとの弁当はやはり、どっちがどっちでもよかったってことか。


 どっちに向かって、なに言ったってわけじゃないんだよなー。


 雑な女だ。


 LOVEと好き、ハート。


 うーん……。


 っていうか、舷さんに、頑張れと書いてもらって、すごく嬉しそうだが。


 ある意味、あの人が一番の強敵かも……と思いながら、教室が近づいてきたので、声を落として訊いてみた。


「お前、日曜は暇か」


「えっ?」


「暇ならちょっと付き合え」


「え、えーと、特に用事はないですが」

と言いながら、優は何故か警戒している。


「どうした?」

と訊くと、


「いや、先生。

 最初に私を使って復讐したいとかおっしゃってたんで、なにをされるのかな、と」

と言われた。


「そうそう。

 お前は俺と結婚してくれなきゃ困るんだ。


 だから、日曜は出かけよう」


「……出かけませんよ。

 そんなこと言われて」

と言った優は、何故か呆れたように、こちらを見ていた。





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