優に弁当を渡してもらった罪で、お前を殺す


 やはり、高見にも弁当を、と思いながら、伊吹はまったく同じランチボックスを持って、こちらを渋い顔で見ている高見を見た。


 自分に向かって来かけた高見に、

「ちょっと高見、来い」

ときつい言い方で言ったので、高見は周りの男子生徒に、あれ? 高見怒られんの? という顔で見られていた。


 だが、まあ、自分が可愛らしい北欧風の花柄ランチボックスを手にしていたので、そんなに迫力はなかったかもしれないが――。




 高見を連れて下に下りながら、伊吹は言う。


「やっぱり、お前に先に弁当渡してたんだな」

と。


「もはや、鷹月たかつきの家がどうとか関係ない。


 俺より先に、優に弁当を渡してもらった罪で、お前を殺す」

と言ったが、高見は、


「いや、俺は、俺に先に弁当を渡して、伊吹さんと食べるんだと思って、伊吹さんを殺そうと思ってたんですけどね」

と言い返してきた。


「優なら、此処に来る途中で見たが、教室で友だちと弁当広げてたぞ。


 そして、舷さんと作った弁当だと女子にバレて、おかずを次々と奪われていた」


 舷さん、大人気だな、と言いながら、階段を下りる。


 ついて下りて来ながら、

「だいたい優はわかってませんよね」

いきどおったように高見は言ってきた。


「男が弁当を作って欲しいって言うとき、問題は中身じゃないのに」


 そうだよな、とこういうときは、一致団結しながら、そのまま、外に出て、校舎と木の隙間に二人でしゃがむ。


 二人で見つめ合ったあとで、

「せーのっ」

と弁当を開けてみた。


 ひとつでもおかずが多かったら、こいつを殺す……と思いながら。


 だが、蓋を開けたまま、二人とも動きを止めていた。


 おっさんプロデュースとも思えない愛らしい配色の弁当のご飯の部分に、カラフルな食材を使って、

『LOVE』

と描かれている。


「……わかってるじゃないか、優」


「伊吹さん、なんて書いてありました?」

と言いながら、高見が覗いてくる。


 こちらも高見の弁当を覗いてみた。


 向こうは、

『すき』

という言葉のあとに、人参のハートマークがのっている。


「でもこれ、どっちがどっちってわけでもないようだったな」


「そうですね。

 先に出会った方に上の奴から渡してっただけでしょうね」


 そう言いながらも、高見もちょっと嬉しそうだった。


「お前、どっちがいい」

と伊吹は蓋をつかんだまま訊いた。


「……やっぱ、『LOVE』ですかね?」


「……じゃあ、俺はストレートに、『すき』で」


 そっと弁当を取り替えると、昼の光に温まった白い側溝の蓋の上に腰を下ろす。


 優があんな装飾を考えるとは思えないから、『LOVE』も『すき』もあのおっさんが考えたのだろう。


 そう思うと、ちょっとむなしいが、このランチボックスを差し出してきたときの優の笑顔を思い出しながら食べる。


「どうでもいいが、一番むなしいのは、男二人で、『LOVE』とか『すき』とか書いてある弁当食ってるってことじゃないか?」


「そこは言わないでくださいよ、伊吹さん」


 そんな話をしつつ、木々の隙間から、校庭を眺め、二人で弁当を食べた。



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