まあ、嘘は言ってない
「お弁当の宅配でーす」
そう笑って、優はゴソゴソと紙袋からランチボックスを出してきた。
……本当に宅配な感じだな、と高見は思う。
紙袋の中に、もう二つ、同じランチボックスが入っているからだ。
「すみません、王子。
予告してなくて。
教室移動が多くて、お弁当持ってきてるって言えなかったんですよ。
もし、今日、お弁当お持ちでしたら、このまま持って帰りますけど」
そんなことをあっさり言ってくる優の手から、高見は慌てて、ランチボックスを受け取った。
「いや、大丈夫だ」
「そうですか。
よかったです」
と優が微笑む。
「作るの大変だったんですよー。
おじさんにスポ根状態で指導してもらって」
そのおじさんが作ったんじゃないだろうなと、疑わしくランチボックスを眺めている間に、
「じゃあ、ランチボックス、あとで回収に来ますね~」
と言って、優はさっさと去っていってしまった。
「なになに?
瀬ノ宮さんから、ラブラブ弁当?」
といつの間にか側に来ていた新沢が、肩に手をかけ、にんまり笑って言ってくる。
「いや……弁当の宅配だそうだ」
「……なにそれ」
周りの女子が聞き耳立てているのがわかっていたので、少し声を張って言う。
「親戚なんだ、瀬ノ宮優。
俺に、弁当渡してくれって頼まれたらしい」
「えっ。
あっ、そうなんだ?
さすが、美形同士だねー」
と新沢が言ったとき、女子たちが、ホッとした顔をしたのが見えた。
これで少しは優が攻撃されるのを防げるかな、と思っていると、彼女らが話しているのが聞こえてきた。
「親戚なんだってー」
「宅配ってなにー?」
「関係ないみたいよ。
だって、彼氏なら、一緒に食べるはずじゃん」
そうだよっ。
普通は、
『これ、作るの大変だったんですーっ』
とか一個一個、中身を解説しながら、食べたりするものなんじゃないのか、手作り弁当ってっ。
何処行きやがった、優っ!
と思い、優が消えた渡り廊下の方を見たのだが。
優が何処に行ったのかはわかっていた。
伊吹のところだ。
残りの弁当二個は、伊吹と優の分だろう。
俺に先に持ってきたってことは、伊吹さんと食べる気かっ、と思っていると、伊吹がその渡り廊下からやってきた。
同じランチボックスを手に、同じように渋い顔をした伊吹が
「王子、ちょっと」
と呼んでくる。
……だから、王子やめてください、と思っていると、目ざとく伊吹の手にあるランチボックスを確認した新沢が、
「あれ?
おそろい?
あれも宅配?
作ったの、瀬ノ宮さんじゃないの?
業者?」
と言ってくる。
もういっそ、そんな気がしてきた。
『仕出しの瀬ノ宮』
秋の行楽弁当。
プロデュース 假屋崎舷。
配達のバイト 瀬ノ宮優。
――と言った感じだ。
ふう、とひとつ溜息をついたあとで、
「……京橋先生も親戚なんだ」
と言って、
「えっ? そうなのっ?
そういや、似てるねっ」
と軽い口調で言われる。
……まあ、嘘は言ってないよな。
嘘は、と思いながら、高見は新沢を置いて、伊吹の許と向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます