ついに来たっ!


 今日も食堂にするか……、と昼休み前のチャイムを聞きながら、高見は思っていた。


 もうお昼なのに、今日も優がお弁当を持ってきてくれる気配はない。


 開いたままの窓から廊下を見てみたが、パンを買いに行くのか、食堂に急いで行きたいのか、猛ダッシュをかけている男子生徒が見えただけだ。


 高見は普段はお弁当が多いのだが、昨日から優がお持ってきてくれるのでは、と淡い期待を抱いて、持ってきていなかった。


 作らせておいて残したら、永冨ながとみさんに悪いしな、と気のいい自宅のシェフの顔を思い浮かべたとき、


「王子、王子。

 今日、食堂?」

と前の席の新沢にいざわが声をかけてきた。


 ザックリとした性格で、わりと気が合う。


「お前まで王子言うな」

と赤くなりながら高見が言ったとき、誰かが、ひょい、と戸口に覗いた気配を感じた。


 いや、そんな奴、たくさん居るのだが、なにかこう、特別な気配がした。


 後ろに目があるかのように、その気配を感じ取り、高見は振り向く。


 目が合うと、ちょいちょい、と小さく手招きしてくる。


 自分に釣られて、そちらを見た新沢が、

「おお。

 すげえ、さすが瀬ノ宮さん。


 王子を手招きで呼ぶとは」

と笑っている。


「さすが、キャトルミューティレーションに遭ったことのある人はなにか違うね」


 それは家畜が連れ去られるやつ……。


 人間なら、エイリアン・アブダクションとかだ、と思いながら、

「今日は食堂行かないかも」

と呟き、立ち上がろうとすると、


「なになに、王子。

 瀬ノ宮さんなの?


 まあ、変わってはいるけど、美人だよね」

と新沢は笑っている。


 そのパターンは初めてだな、と高見は思った。


 大抵、みんな、優のことを、

『美人だが、変わってる』

と言うからだ。


 どっちが結論に来るかで、その男が優をどう思っているのかわかるのだが。


 新沢は結構、優が気に入っているようだな、と思いながら、

「優が変わってるって言われるのは、宇宙人に連れ去られたことがある、と言ってるせいか?」

と訊いてみた。


「いやいや。

 あの人、普段から変わってるじゃん」

と言い、新沢は笑う。


 ……よかった。

 俺のせいじゃないぞ、優、と思いながら、廊下に向かう。


 かつてないくらいドキドキしながら。


 うむ。

 なんだろうな。


 廊下までの距離がやけに長いぞ。

 ちょっと眩暈もしてきたかも。


 そんなこちらには気づかぬように、優はいつもの笑顔で出迎えてくれる。


 ああ、優。

 可愛いな。


 もう一度、言わせてもらおう。


 お前が変人だと言われているのは、過去、俺がお前を連れ去ったせいではないぞ。


 だが、優が変わり者だと思われているせいで、言い寄ってくる男が居ないというのなら。


 優、ありがとう。

 変わり者で居てくれて! と自分でもよくわからないことを思いながら、しかし、顔には出さずに、高見は優の許へと向かった。





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