せんせー、助けて~っ


 その頃、高見は小うるさい叔父の一人に呼ばれて、叔父の邸宅で行われる食事会に顔を出していた。


「いやー、外でとも思ったんだけど。

 自宅の方が気兼ねがないかと思ってねー」

と叔父はみんなに言い、笑っている。


 いや、気兼ねだらけなんですが……と思いながら、高見は店で食べるのと変わらぬ前菜を口にしていた。


 叔父のお気に入りの店からシェフを呼んでいるようだった。


 優と伊吹をそのまま置いてきてしまっていたのが気になっていた。


 何故、こんな参加することに意義があるというオリンピックみたいな食事会に出席せねばならんのだ。


 俺が此処に混ざってても、おじさんたちの話に笑って相槌打ってるだけじゃないか、と思いながらも、一族の中でのポジションを守りたいので、急な呼び出しでも、断るわけにはいかなかった。


 ……伊吹さんなら、逆にまくし立てて、言い負かしたり、煙にまいたりして、おじさんたちを翻弄できるから、楽しいのかもしれないけどな。


 ってか、なんで、あの人、教師なんてやってんだ。


 まさか、こうして、いつか優の担任になるためというわけでもあるまいに、と思いながら、笑顔で、隣の席のおじ、その2と話していた。

  



「はー、今日も美味しかった」


 優は満足して、電車でつり革を握っていた。


 少し離れてはいるが、抜群に美味しいラーメン屋に舷と二人で行ってきたのだ。


 舷は味に関しては妥協しないので、味は落ちるが、近くのラーメン屋で、などということはしない男だ。


 電車に揺られながら、優はちょっと迷っていた。


 実は、以前から、舷に問いただしてみたいことがあったのだ。


 訊くべきなのか? 今……と迷いながらも、優はさりげない感じを装い、その言葉を口にした。


「おじさんって、そういえば、車乗らないねー」


「ああ、免許証がちょっとな」

と外の景色を見ながら舷は言ってくる。


 ちょっと……なんなんですか?


 更に追求すべきか迷う優の瞳に、駅の近くの予備校の明かりが映った。


 此処まで訊いたんだ。

 行けっ、とおのれを鼓舞し、優はまた口を開いた。


「切れてるの?」


「いや、あるにはあるんだが、名前も顔も違うから」


「へ、へー……」


 へー、以外の相槌を思いつかないんですが……と思う優に追い打ちをかけるように、舷が言ってくる。


「ああ、今のこの顔はホンモノだぞ」


 舷は顎をいかつい手で撫でながら、窓に映るおのれの顔を眺めているようだ。


「……へー」

と優はまた繰り返す。


 やばい……。

 つり革を握る手が汗ばんできた。


 やはり、追求してはいけなかったか。


 さっきから、口を開くたび、やばい話ばかりが、ボロボロとこぼれ落ちてくる。


 もうなにもしゃべりたくないっ。


 たっ、助けて、せんせーっ、と優は何故か伊吹に助けを求めながら、つり革をつかんだまま、固まっていた。


 



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