王子に従者は付き物です


 結局、伊吹は途中で店員に補充してもらいつつ、連続で、三つもランチボックスを取って、ひとつを優にくれ、残りを薫の舎弟その2にやっていた。


「片方だけもらってたら、可哀想だからな」

と言って。


 そして、こちらを振り向き、


「優。

 これで俺に弁当作って来い。


 ああ、職員室以外で渡せよ。

 クビになるから」

と言ってくる。


「……実は王子と発想似てますよね」


 しばらく、舷おじさんが朝、忙しくなりそうだ、と思ったとき、いつの間にか、王子が消えているのに気がついた。

 



 その頃、高見はトイレに行くフリをして、外に出ていた。


 まあ、そんなフリなどしなくとも、みな、伊吹の動かしているアームの方を見ていて、誰もこちらを見てなどいなかったのだが。


 店の前に、ファスナータイプの紺の学ランを着た茶髪の男が暇そうに立っていた。


 身長は優より少し小さいくらい。

 結構可愛らしい顔をしているが、毒舌な男だ。


「小次郎。

 思い切り見つかってるじゃないか」

と高見はその男、小次郎に向かい、文句を言ったが、小次郎は、


「あー、さっき、伊吹さんが通っていきましたねー」

と呑気に言って、笑っていた。


 ……隠れろ、お庭番、と高見は思っていたが、小次郎は、しれっとして言ってくる。


「いやあ、ゲーセンの周りなら、堂々としてた方がいいかと思いまして。


 変でしょ?

 ゲーセン来て、コソコソしてる学生」

と。


 そのうち、中に入って、ゲームでもやりだすに違いない。


 まったく……と思いながら、高見は小次郎に言った。


「なあ、優には、もしかして、あのときの記憶があるんじゃないだろうか?」


 なにやら俺を警戒しているようだし……と言った後で、その先の言葉を口にするのをためらった。


『俺をタコだと言っていたから』

 と。


 言った俺が阿呆かと思われそうだ……。


 だが、あの言葉には深い意味がある気がする――。


 そう高見は思っていた。


「記憶があるのなら、もっとなにか言うんじゃないですかねー?

 それに、当時の記憶があるとしても、王子、昔はもっと女の子っぽかったし。


 わからないんじゃないですか?」

と言う小次郎に、


「待て。

 なにお前まで優につられて、王子とか呼んでるんだ……」

と高見は文句を言う。

 



 高見は小次郎と別れ、ゲーセンに戻った。


「業者を呼んで来いっ。

 こんな可愛いサルが叩けるはずがないじゃないかっ」

とまた伊吹がなにやら叫んでいる。


 どうやらハンマーで画面のサルを叩くゲームをやっているようなのだが、サルの絵が可愛すぎて叩けないらしい。


 試しにか、伊吹が軽く叩いてみると、可愛いサルがキューッと悲しそうな顔をして、ヤシの木から落ちていく。


「……なんて残虐なゲームだ」

と伊吹が呟き、優がその横で、


「ひどいですね。

 業者を訴えましょう」

と言っている。


 妙に息が合っていて、その辺に居る莫迦ばかなカップルのように見えた。


 面白くないな、と思いながら、高見は二人の様子を眺めていた。












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