お前が変わっていると言われているのは、子どもの頃、宇宙人に連れ去られたことがある、と言ったせいではない
あ、優だ、と
……彼氏なのだろうかな? と思いながら、すうっと気配もさせずに近づくと、二人の話し声が聞こえてきた。
優に、
「王子は、やはり、あのときのタコなんですか?」
と言われ、王子と呼ばれたそのイケメンは絶句している。
優は、自分が変わっていると言われるのは、子どもの頃、宇宙人に連れ去られたことがある、と言ったせいだと信じているようだが、そうではない。
……ほんっとうに変わっているのだ。
黙っていれば、品のいいお嬢様風の外見なのに。
口を開くと、かなり残念な感じだった。
まあ、そんな優だから、気が合うんだろうな、と思いながら、ぼうっと突っ立っていると、
「あ、薫ちゃん。
やっぱり居た」
と優が自分に気づき、微笑みかけてくる。
「王子。
幼なじみの
昔は、女の私より可愛かったんですけど。
今ではすっかりおグレになられて、世に言うヤンキー様に」
どんな紹介だ、と思う薫を、高見はマジマジと見たあとで、
「今でも可愛い顔してるじゃないか」
と言い放つ。
「あ、薫さ……」
とやって来かけた、いつもつるんでいるヤンキー二人に、ちょうど聞かれしまい、笑われた。
ちょっと不機嫌になりながら、
「優、こいつ、誰?」
と訊くと、優は少し返答につまり、
「この人?
えーと、この人は……
……王子?」
と言ってくる。
「王子?
何処の国の?」
と思わず、訊き返してしまい、イケメン王子に、
「……優。
やっぱりお前の友だちだな」
と言われてしまった。
「違うだろ。
そこじゃないだろ。
こっちをまず……」
と言う薫に、高見が、
「うるさいっ。
俺は男の指示は受けんっ」
と怒鳴り返している。
いや、貴方、女の指示も最初は受け付けませんでしたけどねーと思いながら、優は、エキサイトしつつ、クレーンゲームをやっている二人を見ていた。
薫の舎弟たちも一緒に眺めている。
「王子、薫ちゃんの言うことは聞いといた方がいいですよ。
薫ちゃん、クレーンゲームの達人なんで」
と後ろから言うと、
「いやっ、俺は俺の正しいと思う道を行くっ!」
と場所がゲーセンでなく、やっているのがもっと違うことなら、立派な宣言だろうなー、と思われることを叫びながら、高見は、更に百円突っ込んでいた。
……この人、パチンコとかやったら、際限なさそうだな。
金持ってるだけに、と思ったそのとき、ついに高見がランチボックスを落とした。
「王子、またまた、すごいじゃないですか」
と優が素直に賞賛すると、
「ああ、しめて、三千八百円のランチボックスだがな」
と高見は言う。
そこは冷静に計算していたようだ。
「優、もう一個いるか」
「いえ、結構です」
「じゃあ、ヤンキー、どうだ?」
と高見は、薫にそれを差し出していた。
王子、ヤンキー、名前じゃありません。
っていうか、可愛らしい保温ランチボックスを持ち歩くヤンキー、どうなんですか、と思っていると、薫は案の定、
「いらない。
そんな北欧風の花柄の弁当箱」
と言って拒絶する。
北欧風とか。
細かいな、ヤンキー……と思っていると、取ったことで、もう満足らしい高見は、ランチボックス自体には興味ないらしく、
「じゃあ、そこの者ども、どっちか彼女にでもくれてやれ」
と言って、舎弟二人に向かい、それを投げていた。
ところで、いつの間にやら、私がこの最初に取ったランチボックスで王子にお弁当を作ってくることになっているんだが。
「ありがとうございますっ、王子っ」
と何故か感激している舎弟その1に、うむ、という感じで頷いている高見を見ながら、いろいろと考えていた。
ランチボックスをもらった手前、一度は作っていかないと悪いだろうかとか。
私の料理では自信がないので、舷おじさんに作ってもらった方がいいだろうかとか。
そんな算段をしていると、いきなり後ろから腕をつかまれた。
えっ? と振り返ると、背後に、息を切らした伊吹が立っていた。
「なに、いきなり腕つかんでるんですか」
と伊吹に向かい、言ったのは、優ではなく、高見だった。
「補導だ」
と言い放つ伊吹に、
いやいや、ゲーセンで補導って。
小中学生じゃあるまいし。
っていうか、捕まえるのなら、何故、全員捕まえない?
とみんなの顔に書いてあった。
「いや、お前が、王子と手をつないで帰っていると通報があったんだ」
と伊吹は言い出す。
誰が通報したんだ、そんなもの……。
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