ゲーセンの王子様


 なんだかんだで結局、高見と一緒に近くのゲーセンに行くことになった。


「優、お前、よくゲーセンに来てるのか。

 危ないじゃないか」


 不良のたまり場だぞ、と説教してくる高見に、


 いや、王子。

 なに時代の人間なんですか、と思っていた。


「この時間ならまだ大丈夫ですよ。

 っていうか、この時間帯は大丈夫ですよ」

と優は言う。


 この時間なら、たぶん……居るからな、と思いながら、会話も出来そうにない騒がしい店内を見回していると、高見が、

「優、何処行くんだ。

 俺はこれをやるぞ」

と言ってきた。


 振り返ると、高見は、クレーンゲームの前に張り付いている。


 王子、やる気満々じゃないですか……。


「見てろよ、優」

と高見は入念に景品である保温ランチボックスの位置を確認しながら、


「俺が華麗にこれを取ってやるから、お前、毎日これで俺に弁当を作ってこい」

と言ってくる。


「なんでですか……」


「付き合うってそういうのじゃないのか」

と言いながら、高見はコインを入れている。


 ……普通の人にこんなことを言ったら、失礼になるかもしれないが。


 王子と呼ばれるほどの人だ。

 モテないわけではないのだから、別にいいだろうと思い、優は高見に訊いてみた。


「あのー、王子。

 もしかして、今まで、誰とも付き合ったことないとか」


「……あるよ」


 なんでだろう。

 これだけ堂々としたイケメンなのに、嘘つけ、と思ってしまうのは。


 なにかこう、慣れてない感じがするからか。


「あ、王子。

 それは角をアームじゃなくて、本体で押した方が……」

とつい、優が口を出すと、高見は少し赤くなり、


「外で王子とか言うな、恥ずかしい」

と言ってきた。


 うーむ。

 そんなにキラキラと無駄に目立っているのに、恥ずかしいとかあるのか、と優は妙に感心してしまう。


 今も学校帰りらしい他校の女生徒たちがチラチラとこちらを窺っている。


「優、これは、本体で押すより……」

と高見は自分で思うようにやっていたが、アームは景品にかすりもせず、閉じて上がってしまった。


 高見は無言でもう100円入れ、なかったことにしようとする。


「……王子」


「うるさい。

 誰にでも失敗はある」


 そう言うと、今度は優の言うようにやってみていた。


 意外と素直だな、と思って見ていると、角を押されたランチボックスは上手い具合に転がり落ちた。


「上手いじゃないですか、王子」

と手を叩くと、高見は赤くなり、


「お前の言う通りにやっただけだろ」

と言ってくるので、


「いえいえ。

 実は、私も人の受け売りなんですよ。


 こういうの上手い友人が居て」

と言ったあとで、優は周囲を見回す。


 その間に、コツをつかんだ高見はもう一個落としていた。


「王子。

 上手いですね。


 こんなものしたことないのかと思ってました」

と優が言うと、高見は、しゃがんでランチボックスを取りながら、


「……お前、俺を王子王子と呼んでいるが、本当に俺が王子だと思ってるわけじゃないだろうな」

と胡散臭げに言ってきた。


 いや、王子だと思っているというよりは……と少し上を向いて少考えていた優は、覚悟を決め、訊いてみた。


「さっきから王子の顔を眺めていて、思ったんですが。


 王子は、もしや――」

と言いかけると、高見はどきりとしたような顔をしていた。


 だから、確信した。


「王子。

 王子は、やはり、あのときのタコなんですか?」


「お前……」

と高見は絶句したような顔をする。


 伊吹に、宇宙人に連れ去られたことがある、と言ったときと同じ顔だ。


「それはなにかを誤魔化そうとして言っているのか?

 それとも本気か?」

と高見が訊いてきたとき、優は背後に誰かが立ったのに気がついた。


 振り返ると、金髪で少し長髪気味の、いかにもヤンキーでございます、といった風情の男がそこに居た。


「あ、薫ちゃん。

 やっぱり居た」

と優は彼を見上げ、微笑みかける。





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