あ、王子


「おい、瀬ノ宮優」


 放課後、優が校門のところまで来たとき、誰かが優の行く手を塞いだ。


 あ、王子。


 名前は……。


 えーと。


「白河高見だ。

 どうせ、お前、俺の名前も知らないんだろう」


 偉そうなわりに、高見は自ら名乗ってくれる。


 意外に親切だな、と優が思っていると、


「ところで、お前……、俺に告白されたことは覚えているか?」

と高見は訊いてきた。


 あのあと、こちらがノーリアクションだったからだろう。


 いやいやいや。

 忘れていたわけではないんですよ、と優は心の中で弁解する。


 でも、あのあとの人の方がインパクト、強くてですねー、と思っていると、高見が言い出した。


「まあ、お前は俺のことをよく知らないんだろうから、返事もしづらいだろう。

 というわけで、これからデートとかしてみようと思うんだが、どうだ?」


 どうだ? と訊いたわりには、まだ返事もしていないのに、

「何処か行きたいところはあるか?」

と続けざまに訊いてくる。


 あのー、まだ、行くとも行かないとも言ってないんですが、王子。


「ないのなら、水族館とか、映画館とかどうだ?」


 ……今からですか?


 どちらかと言えば、それは、休みの日のデートでは、と思っていると、高見は、


「何処でもいいが、デートには行くぞ。

 俺に逆らうことは許さん」

と言い出した。


 何故ですか、王子……。


 王子だからですか? 王子。


「何処でもいいぞ。

 お前の行きたいところでいい。


 ともかく行こう」


 そう言うなり、高見は優の手を握ってきた。

 そのまま、振り返りもせず、歩き出す。


 えーと、王子。

 みんなが見てるんですけど。


 っていうか、妙にぎこちない感じがするんですが。


 私も初めてですが。

 もしや、王子もデートは初めてとか?


 居るよな、そういう人、と優は思っていた。


 モテすぎて、みんな牽制し合って、声をかけないので、結局、誰とも付き合ってない、みたいな……。


 そんなことをぼんやり考えている間、高見に引きずられて行っていたのだが。


 ふと、何処からか、刺すような目線を感じた。


 校舎の方。


 っていうか、ズバリ職員室から。


 校門からグラウンドを挟んで職員室まではかなり距離があるのだが。


 姿も見えないのに、伊吹がすごい形相で睨んでいる気配を感じた。


 ひい……と思いながらも、強引な高見を振り切れずに、そのまま引きずられて行った。




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