第153話 冒険者の休憩
「できるかできないか、それを口にするのは容易い。だが未来を観測する力を持っていない以上、これから起こす予定の成否を語ることにどれほどの意味があるだろうか。いや、例え未来を観測する力があったとして、それがどうして真実これから起こる未来であると分かるのだろうか。過去からの経験? だとしらそれはどれほどの期間とそして客観性を用いられたものなのか。いや、そもそも主観と客観という概念そのものが時間と言う概念とーー」
「ほら、ドルド。これも美味しいですわよ。召し上がれ」
「むぐ」
アイスを乗せたイリーナさんのスプーンがドルドさんの口の中へと飛び込んだ。
「ドルドの話を要約しますと、やってみないと分からないが、恐らくは出来ると言っていますわ」
「では引き受けてくれるか?」
「アリリアナ組への依頼であれば、リーダーの意見を聞いてみないことには何とも言えませんわね」
アリリアナにドルドさん以外の視線が集まる。彼女はそれに対して親指と人差し指で丸を作った。
「オッケー。ドルドちゃんがやれるっていうならその依頼受けましょう」
「感謝する。私は皆に伝えて来るので、一時間後にここに集まってくれ。その後すぐにラミア退治を始めたいと思うが問題ないか?」
「私は大丈夫な感じだけど……」
アリリアナが確認するようにドルドさんへと視線を向けた。
一時間。ちょっと性急な気もするけど、現状を考えると今すぐ行動しても良いくらいなんだよね。
「どうですの? ……そう、では頼みますわ。ドルドは問題ないと言ってますわ」
「なら決定な感じで。あっ、ちなみに報酬とか消耗品の補償とか細かい打ち合わせは後日でオッケーなんで」
「助かる。それではまた後ほど」
よほど時間が惜しいのか、話が纏った途端メローナさんは部屋を出ていった。
「報酬について勝手に決めちゃったけど、大丈夫な感じ?」
「うん。私はいいと思うよ」
「私もですわ。この状況では協力するのはお互いの為ですし、報酬は少しもらえればラッキー程度で、今はラミアという共通の脅威に立ち向かうべきですわ」
「アハハ。ありがとね。それじゃあ話はまとまった感じで、またも駆け出し冒険者にはキツイ仕事だけど、今回はあのエルフがいることだし、注意深く、それでも気負いすぎない感じで頑張ろう。おー!」
アリリアナが拳を頭上に上げた。
えっと、ここは合わせるべきだよね?
「お、おー!」
「おー! ですわ」
ロロルドさんやドルドさんはやってくれなかったけど、イリーナさんが続いてくれてホッとする。
「それで一時間空いたけどどうする? 貸してもらった部屋で各々休んじゃう?」
ドルドさんが箸を置いたのを確認してから、アリリアナがそう切り出した。
「大して時間もありませんし、どうせここに集合なら私はここで待ってますわ」
「ドロシーは?」
「私もここでいいかな」
馬車の中で少し眠った影響か疲労などはまったく感じない。頭痛を除けば体調に不安はなかった。
「アリリアナこそ一晩中御者やってたんだから少し休んできたら?」
「ん~。なら隅っこでちょっとだけ仮眠取ろうかな。あっ、ガッツリ寝る気はないから普通に喋ってていい感じだからね」
そう言ってアリリアナは座布団を持って部屋の隅に移動した。
イリーナさんと目が合う。
「中途半端に時間が余りましたわね」
「そ、そうだね。イリーナさんは休まなくて大丈夫なの?」
「騎士を甘くみないでくださいな。必要なら今から三日三晩、不眠不休で戦えますわ」
「それは……えっと、凄いね」
ううっ、我ながらなんて面白みのない言葉。考えてみればせっかくクランを組んだと言うのにイリーナさんと二人で会話をする機会ってあんまりなかったかも。せっかくの機会だし、何か喋らないと、えっと、えっと……。
「ドロシーさんは休まなくて平気ですの?」
「え? う、うん。大丈夫だよ」
「そう。ならせっかくの時間ですし、冒険者らしい休憩をしてみませんこと?」
「冒険者らしい休憩?」
なんだろ? 冒険者に伝統的な休憩方法があるなんて聞いたことないんだけど。
「ロロルド。持ってまして?」
「ございます。お嬢様」
イリーナさんの背後に控えていたロロルドさんが対面へと移動する。そんな彼が取り出したのは……
「トランプ?」
「どうです? お小遣い程度の金額を掛けて」
なるほど。冒険者はギルドによって暴力行為を徹底的に禁じられているから、その代わりとばかりに賭けごとに興じる人が多いって聞いたことがある。ギルドもガス抜きは必要と考えているようで、賭けごとについては禁止どころか、むしろ賭場を開くなど推奨しているふしさえある。
私としては友達と賭けごとってあんまりしたくないんだけど……
「どうします? やりますの?」
ううっ。イリーナさん、すごくやりたそうな顔してる。ひょっとしてギャンブルが好きなのかな? そんなに時間もないし、ちょっと遊ぶだけなら大丈夫だよね?
「じゃあ、少しだけ」
こうしてイリーナさんと初めてトランプで遊ぶことになった。……だけれどもーー
「レイズ! レイズですわ!!」
「ええっ!? あの、そろそろ止めた方が」
既にお小遣いと言うには些か大きい額が動いた後なのに、ここに来てポットが今まで最大に膨れ上がっちゃった。
「お黙りなさい! どうしますの? 受けますの? 降りますの?」
目、目が怖い。イリーナさん、もしかしなくても負けた分を一気に取り戻そうとして負けを重ねるタイプだ。助けを求めたいけど、アリリアナは寝てるし、ロロルドさんはディーラーに専念。そしてドルドさんはポーカーに興味があるのか、イリーナさんの背中に抱きついてハンドを見てる。
イリーナさんが怒りに体を揺らす度に背中にいるドルドさん(少女姿)が揺れて、ちょっと、いや、かなり可愛い。私の背中にも来てくれないかな?
ドルドさんを見てたら血走った瞳と目が合って、私は慌てて視線をそらした。
正直、ここで降りて少しでもイリーナさんにお金を返したい気持ちはあるけど、多分イリーナさんは相手がわざと負けたら嫌がると思う。それにアリリアナだってここでそういうことはしない気がした。
「……コール」
「ふっ。掛かりましたわね。キングのスリーカードですわ」
「えっと、ストレートフラッシュです」
「んなぁあああっ!? つ、つ、強すぎますわ」
イリーナさんの額が盛大にテーブルへと突っ伏した。それから程なくしてアリリアナが起き、そしてメローナさんが戻ってきた。
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