第3話 柊アリサ2

 アリサの住む三上市は人口二十万前後の中規模都市だ。そこで彼女の父は、探偵業を営んでいた。


 市の中心から外れた小さな駅。そこを降りたそばに、古い雑居ビルがある。入った店は軒並み潰れ、今では三階にあるアリサの父の探偵事務所しか残っていない。


 外壁はヒビと蔦に覆われて、もはや廃墟寸前と言った有様だが、それでもネットや口コミの効果もあってか、客は度々入っていた。


 しかしそれも、アリサが小学生だった時までの話だ。父は彼女が中学に上がるとほぼ同時に海外に出張に出かけ、それから今に至るまで帰ってきていない。父がいなくなれば当然依頼人も減り、今では古い看板に騙された人程度しか新規の客はやって来ない。


 家にお金は振り込まれて来ているから、生きてはいるようだ。母もあまり心配した様子はない。家のことは母が大抵はやってくれるから、父がいなくてもアリサが生活する分に困ったことはなかった。


 アリサは昔から事務所に入り浸っていた。そして、父のする解決した事件の話を楽しみに聞いていた。アリサは父が好きだったし、探偵に憧れていた。


 アリサはずっと、父の探偵活動を手伝いたいと言っていた。しかし当然ながら聞き入れてもらえなかった。彼女はその時小学生かもっと幼い頃で、父の仕事を手伝うのは危険だったからだ。


 仕事は手伝わせてもらえなかったけれど、代わりに父からは探偵の心得を教わっていた。武器の扱い方、調査のやり方、そして探偵としての信念と心構え。それは、今でも彼女の心に深く根付いている。


 父が海外へ行き、アリサはさらに事務所に入り浸るようになった。毎日父の残した書類を読んだり、部屋の掃除をしているうちに、ふと思いついた。


 ──私は探偵になりたい。けれど今まではまだ子どもという理由で仕事を手伝わせてもらえなかった。だが、もはや自分を止める父はいない……。


 アリサは探偵になることを決意した。


 事務所を勝手に使い、父の『柊探偵事務所』を引き継いだ。


 もちろんアリサは、自分がまだまだ未熟であることは自覚している。父のように探偵として一人前になれているとは到底言えないだろう。


 ゆえに彼女は、こう名乗ることに決めていた。探偵……ではなく、探偵見習いだと。


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