13、謎めいたその者

「夏、何か分かったの?」


「ああ。いたって簡単なこの謎に、終止符を打とう」


 異世界探偵は笑みをこぼし、持っていた紙を見ながら言った。


「まずこの紙に書かれている文、それはバルーン君の像が持っている風船の色と七つの大罪を掛け合わせている」


「どういうこと?」


 首をかしげるかんなとコタロー。異能探偵はそれだけで分かったらしく、なるほどと言った感じで笑みを浮かべる。

 異世界探偵は分からない二人へ導きだした答えを話し始める。


「まずここに書かれている文章をよく見てみろ」


『怒りは時に心を黒く染め上げ、見下す者は時として毒である。大食いな彼女は血を好み、夕焼けを見る彼女の背中からは色気が漂っていた。欲張りな彼は黄色く輝く世界を見てそこへ歩き出し、浮気性の彼をもつ彼女はよく青ざめた表情で浮気相手を妬んでいた。怠けている彼女は白霧の世界を漂った。』


 そうその紙には書かれている。


「怒り、これは憤怒のことだ。見下す、これはつまり傲慢のこと、そして大食いは暴食で、色気から連想されるは色欲。欲張りは強欲で、妬みは嫉妬、そして最後に怠けているは怠惰、つまりここには七つの大罪のことが書かれている」


 かんなはひらめいたのか、風船の数を数え始めた。


「風船の数と同じだ」


「そう。つまりここには大罪と色について書かれている。まあ作者の個人的見解で書かれたものだろうが」


 異世界探偵はもう一度文を読んでいる。


「憤怒は黒、傲慢は……紫か?暴食は赤で色欲は夕焼けだから橙か。強欲は黄色で嫉妬は青、怠惰は白か」


「でもどれに爆弾が入っているか分かりませんね」


「コタロー、私の弟子はいつからそんな馬鹿になった。もっとよく考えてみろ。どこに爆弾が入っているかを」


 異能探偵はコタローの背中を優しく叩き、異世界探偵の持つ紙をコタローへとよく見せた。


「よく思い出せ。この文の最後にはなんと書かれていたかを」


 コタローは必死に考える。

 かんなは言った。この文が書かれている本の最後には、『怠惰は貫かれた』と書かれていた。それとこの紙に書かれている七つの大罪と色について。


「怠惰は貫かれた……。怠惰……怠惰!」


 コタローはひらめいた。


「爆弾が入っているのは怠惰……つまりは怠惰の色である白を空に飛ばせば良い」


「ああ。正解だ」


 コタローは嬉しそうに笑みを浮かべていた。コタローを頭を異能探偵は優しく撫でていた。

 異世界探偵は余っている時間を有意義に使い、バルーン君の像についている風船の内、白い風船を空へと飛ばした。


「これで……一件落着だな」


 異世界探偵はホッとため息を吐いた。

 今回の事件では一人の死傷者も出さず事件は解決した。


「異世界探偵、一息つくのはまだ早い。恐らくこの事件はただの前触れに過ぎない」


「前触れって……そういえばもう一つあったな」


「ああ。三日後、この未来特区で殺人事件が起こる。その事件を解決するに相応しいか試されていたんだよ。最初から差出人はここにいる者たちを殺すつもりはなかった。なぜなら私たちはこの謎を解くと確信していたから」


「その事件は誰が起こすのか、多分それはこの爆弾の事件の犯人ではないだろう」


「なぜそう言える?」


「電話して何となく感じた。手紙の差出人も爆弾の犯人も恐らく同じ人物がしたことだろう。だが何というか、その者からは殺意とかを感じられなかった。人を殺そうとはしていなかった。それに楽しいとかいう感情も抱いていなかった。今まで会ったことのある犯人とは全く別次元の存在に思えてならない」


 異世界探偵が感じた何か、それを異能探偵も少しは感じていた。

 目的は楽しむことではない、それに人を殺すことでもない、ただ息を吸っているように、まるで息を吐くように、その何者かは何もしていないような雰囲気を漂わせつつ何かをしている。

 説明しきれないことの『何か』、その『何か』に彼らは戸惑っていた。


「異能探偵、今日のところはこれまでにしておこう。恐らくこの犯人はこれ以上のヒントは与えてくれない」


「ああ。明日になっても教えてくれないとは思いはするが、今日のところはこれまでだ。そもそも、こんな広い場所での捜査をヒントなしですること自体、無謀な賭けだがな」


 そう言いつつ、異能探偵はコタローとともに駅とは逆の方向へ去っていく。

 異世界探偵は事件に終止符は打たれていないようなモヤモヤを抱えつつも、かんなとともに駅に乗って家へと帰る。


(犯人は何が目的だ?恐らく三日後に起こる事件もこの者がしたいことではない。じゃあ何がしたい?こいつは一体、何をしようとしている?)


 どう考えても解らない。

 まるで掴み所のない犯人に、異世界探偵は今までにない大きな疲労感を味わっていた。家へと帰った途端、足は自ずとリビングのソファーに向かっていた。

 そこへつくなりすぐさま横たわり、疲れを吐き出すように特大大きなため息を吐く。


 まだ解決したわけではない。

 今日を過ぎればあと二日、そんな短い時間の中で、広い未来特区の中からこれから起こる事件の犯人を見つけられるだろうか。










 ーーいや、できない。

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