12、解決への糸口

 そこに書かれていた謎に、異世界探偵たちは固まった。

 しばらく考えていると、異世界探偵はその文を見て電流が脳内を駆け巡った。まるで何かが思い出されるような、そんな感覚。


「なあ異能探偵、この文章、どこかで見たことがないか?」


「うーん?私には分からないな。何か見覚えでもあるのか?」


「ああ。弟子は本が大好きでな、よく本を読むんだ。俺も時々本を借りて読むことがあるんだが、一度この文は読んだことがある。結構印象深いないようだったからな」


 異世界探偵は必死に記憶の箱をこじ開けようとするも、それを阻むように白霧が目をくらませた。

 見えそうで見えない解答がそこにはあり、その答えを異世界探偵は思い出せないでいる。


「かんなさえいれば……」


 千人以上の命を守る。

 だがそのためにはかんながいなければ守ることはできない。


「かんな。早く戻ってきてくれ」


「ねえ。それなら僕の能力でかんなっていう子を連れて来るよ」


 コタローに異世界探偵は聞き返す。


「何の能力だ?」


「僕の能力は『探し物』、僕の能力があればかんなの居場所はすぐ分かる。だから異世界探偵さんの所有しているかんなの記憶をお借りしますね」


 コタローは突如異世界探偵の腹に手で軽く触れた。たった数秒の出来事。

 異世界探偵は特に変な感覚はなかったものの、コタローにはしっかりとかんなについての記憶が流れていた。


「なるほど、この子ですか。居場所はそこですね。ではすぐに連れてきます」


「任せたぞ。コタロー」


「了解です、師匠」


 コタローは人混みの中をかき分けて商店街の中を走り抜ける。

 残り時間は四十分。それまでにコタローがかんなを連れ戻してくれなければ、ここにいる民間人は爆発によって死ぬことになる。それだけは断固として阻止しなくてはいけない。


 焦る異世界探偵を横目に、異能探偵は他に手がかりがないかバルーン君の像の周囲を見て回る。だがヒントは何もなく、時間が過ぎるばかり。


「あのー、落としましたよ」


 バルーン君の像を見つめる異世界探偵は、突如話しかけられ振り向いた。そこには帽子を深くかぶった中学生くらいの髪の長い女性?が怯えつつ何かを持っていた。

 異世界探偵が手に持っている物を取ると、逃げるようにして去っていく。


「いや、あんな子が犯人なわけ……」


 受け取った物を見た。それはこの世界では高級品であるいわば携帯電話というやつだった。

 この世界の携帯は少し変わっており、円形の形をしていて四つのボタンが上下左右につけられているだけ。


「っていうか俺の落とし物じゃないんだが……」


 追いかけようにも既に消えた彼女を追いかける時間は異世界探偵にはなかった。

 後でコタローに探してもらおう、そう思った矢先、異世界探偵の持つ携帯電話は振動し始めた。


「何だ?」


 出方が分からないせいか、異世界探偵は慌てふためく。


「異世界探偵、携帯じゃないか」


「出方を教えてくれ」


「持っているのに使えないとは、何たる矛盾か。まあ仕方ないな。電話に出る際は右のボタン、出ない際は左のボタンを押してみろ」


 出ない、という選択肢も良かったが、電話の持ち主がかけてきているかもしれない。渋々異世界探偵は右のボタンを押した。


「やあ、異世界探偵君。推理の方は順調かい?」


 異世界探偵の表情は一瞬にして曇り、怒りがこみ上げていた。


「お前から掛けてくれるとはな。この事件の犯人さん」


「当然だよ。だってここままでは君たちはそこにいる何千何万という人たちを救うことができないだろ。だから手助けをしようとしているんじゃないか」


「自分で仕掛けておいて、自分で解除しようと言うのか?」


「だって君は諦めそうな雰囲気じゃないか?私はどうでも良いんだよ。結局私は面倒だからね、もっと早く解決してくれると思ったけど、本当に遅いよ。早く解決してくれないかな」


「諦める、なんて選択肢は俺にはない。今ここにいる何千人という命を易々と奪わせてたまるか。俺は必ず、ここにいる者を誰一人として死なせない」


 電話相手はその言葉を聞き、静かに微笑んだ。


「そうかい。なら期待はしておく。だが君の弟子が戻ってくるまで、時間があると思うかい?」


「ああ。間に合うさ」


「たとえ帰ってきたところで、君たちが謎を解決できなければ意味はないんだよ。それでもかい?」


「なら見ておけ。貴様の作った謎など、簡単に解いてやるさ」


 異世界探偵はそう言い残し、左のボタンを押した。後には引き返せない。そんな状況の中、コタローはかんなを連れて戻ってきた。

 残り時間は三十分。


「案外早くついたな」


「ねえ夏、何が起きているの?」


「なあかんな、この文を見て、何か思い出せる本はないか?」


 かんなは紙に書かれた文を見て、すぐにひらめいた。


「『優しい大罪』、その本に書かれている文と全く同じ。でも何でその本の内容が?」


「暗号だよ。なあかんな、その本の内容で何か特徴的なこととかなかったか?」


「そういえば、その話はバッドエンドなのかハッピーエンドなのか分からないんだけど、最後の文にはこう書かれていたの。『怠惰は貫かれた』って」


「怠惰は貫かれた……」


 異世界探偵はその言葉と文の内容を頼りに、謎を解いた。


「なるほど、そういうことか」


 笑みをこぼした異世界探偵は、バルーン君の像が持つ七つの風船を眺めた。

 そして疑心が確信に変わった彼は、勝利の笑みを浮かべた。

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