異世界鉄道殺人事件

5、復讐包丁

 ホテルでの事件を解決した異世界探偵。その謎は単調であり、問一というには相応しいものであった。皮肉なことに、それはあくまでも序章に過ぎなかったのです。

 男はこれから起こる数多くの事件に巻き込まれ、密かに世界の真実を知ることになるだろう。

 その時、彼はどのような選択を選ぶのだろうか。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 屋上から去った異世界探偵は、静かにその歩みをゲームセンターへと進めていた。そこにはかんなと蜂巣賀小十郎がいるはずだ。

 そこへついた異世界探偵が見たのは、暗い表情を浮かべて立ち尽くしていた。異世界探偵は駆け寄り、二人へと訊いた。


「何があった」


「戸賀伊万里が、凶器である包丁を持って去っていきました……」


「何!?」


 異世界探偵は唖然とした。だがすぐに切り替え、二人へ言った。


「かんな、お前は蜂巣賀を王宮へ案内しろ。さすがに兵が来るのが遅い。何かあった可能性が高いからな。俺は奴の部屋に何か手がかりがないかを探す」


 焦る異世界探偵の声が響くゲームセンター、そこへ一人の男が腰に刀を提げながら現れた。彼は状況を瞬時に察するや、ゆっくりとした口調で呟いた。


「やあ。単刀直入といえば良いのか分からないのだが、私は元ではあるが王国兵だ。彼を囚人要塞へと案内しようか?」


 辻村霧太刀。

 彼の突然の発言に硬直するも、異世界探偵は短い時間で考え、答えを出した。


「辻村さん、是非ともお願いします。かんな、俺たちは逃げた戸賀の手がかりを探る」


「分かったのです」


 異世界探偵とかんなは階段を駆け上がり、戸賀が泊まっていた部屋へと入った。

 どういうわけか、その部屋には多くの荷物が残されていた。


「なぜ……」


 持っていたのは恐らく必要最小限の持ち物ということか?

 そう考える異世界探偵であったが、その部屋には衣服などの着替えが残されており、思考が読めないような者であった。


「ねえ夏。自殺でもしようとしているのかな?」


 かんなの問いに、異世界探偵は首を傾げた。根拠はない。だが彼には一つ気がかりがあった。


「もし自殺するのなら、財布すらも置いていくはず。だがご丁寧に財布は持っていっている。そして問題は包丁を盗んだ点。つまりは……戸賀は殺人を犯そうとしている」


 その根拠は二つあった。

 一つは先ほど述べたとおり財布を持って包丁を盗んだ点。つまりどこかにいる何者かを殺そうとしている。

 もう一つの根拠、それは先ほど起きた男が殺された事件の際、戸賀は神崎冬花と食事をしていた。そこで神崎に何か言われたという可能性がある。


「かんな。行き先の手がかりを探そう。この部屋のどこかになければ追えないがな……」


 冷や汗を流しつつ、異世界探偵は部屋を漁る。漁っている最中、異世界探偵はある物を見つけた。


「かんな。戸賀の向かった先が分かった」


「どこ?」


「お金がかかり、だがこのホテルに近い場所と言えばたった一つしかない。鉄道だ」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 そこは線路の上を走る鉄道の中。その中で貴族は口にワインを含むや、憤怒してワイングラスを床に叩きつけた。


「どうかなさいましたか?」


 偶然そこを通りかかった男は怒る貴族へと問いかける。すると貴族は鋭い目付きでその男へと突っかかる。


「おい。こんなまずいワインを出したのは貴様か?」


「この鉄道内の全てのワインの管理は私がしております」


「そうか。ではお前はすぐに辞めた方が良い。才能ないぞ」


 そう呟くと、貴族は男の頭に札束を乗せた。それほどの大金があれば高級ワインを何杯も買えることだろう。

 貴族は退屈そうに立ち上がる。


血吸ちすい様。どこへ行かれるのですか?」


「トイレだよ、トイレ。その間に少しは仕事をしたらどうだ?給料泥棒」


 貴族の男は秘書である女性へそう怒鳴ると、笑みを浮かべながらトイレへと去っていく。

 重たい空気が流れ、列車内で盛り上がっていた客たちも静かに黙り込んでいた。


「早くワインの厳選を」


 そう呟き、頭に札束を乗せた男はトイレとは真逆の方向へと走っていく。


「あれ……。ハンカチを忘れてトイレへ行かれたのですか。早く届けなければ」


 秘書である女性はハンカチを片手に、トイレへ向かった貴族の男の元へと走っていく。

 秘書はトイレを数度ノックするも、返答は返ってこない。それに不信感を抱いた女性は、駅員を呼んで再度トイレの中へと声をかける。だが返答はない。


「おかしいですね。ではマスターキーで開けますので、」


「はい。お願いします」


 鍵穴へとマスターキーを差し込む駅員であったが、そこで違和感に気づいた。


「鍵が……空いている?」


 駅員は恐る恐る扉を開けた。すると扉の向こう側では、貴族の男が心臓に包丁を一突きにされて死んでいた。

 駅員は腰を抜かし、女性秘書は悲鳴を上げて顔を覆った。

 その悲鳴で駆けつけた男は、トイレで死んでいる男を見るや確信した。


「歴史あるこの列車で事件ですか。不気味ですね」


 まるで遺体になれているかのように呟く男が着る服には列車が無数に描かれており、肩には一両だけ列車を乗せていた。


「あ、あなたは!?」


「鉄道探偵。これより謎を解決するであります」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る