3、推測
『食べられませんの小包』
それについて長い間考えていた異世界探偵は、ようやく答えを出した。自ずとその足は蜂巣賀のもとへと向かっていた。
大広間でくつろぐ蜂巣賀を呼び出し、個室へと案内した。
「何だ?まるで俺が犯人とでも言いたげな表情だな」
蜂巣賀は鋭い目付きで異世界探偵を睨んでいた。それに対して異世界探偵は、何とも言えぬ表情で男を見ていた。その異様な目付きに、蜂巣賀は冷や汗をかきつつあった。
何を考えているのか分からない。そう誰もが思うだろう。
そんなことを相手が考えているとも知らず、異世界探偵はその口をゆっくりと開いた。
「蜂巣賀小十郎、お前、異世界転移者だろ」
異世界探偵の口から出た突拍子もない言葉に、蜂巣賀は思わず吹き出して笑った。
それほどまでに面白いのか、文字通り椅子から崩れ落ちて腹を抱えていた。
「はあ、苦しい。なるほどな、そういうことか。俺を呼んだのは容疑者としてではなく、それに気づいたからか。だがなぜ気づいた?普通分からないと思うが」
「それは極めて簡単だ。『食べられませんの小包』だ」
「ちょっと理解が追い付かないのだが……」
「よくお菓子とかに入っているあの袋はな、酸素を抜いたりして食品に害を持たせないようにするために入っている。だがこの世界ではそれはあまり意味のないものだ。なぜならそんなことはこの世界に存在する異能でカバーできるから。だからこの世界のお菓子などには一切そんなものは入っていない」
詳しく語る異世界探偵に感心した蜂巣賀。
「なるほど。それで正体がバレちゃったってことか」
「ああ。で、蜂巣賀、異世界転移した理由は分かっているのか?」
「いや、分かるはずもないだろ。俺よりもお前の方が頭が良いんだ。何か知っていないのか?異世界転移の真相とか」
「さっぱりだ。正直この謎はでかすぎる。だから簡単には解けないし、下手したら死ぬまで解けないかもしれないな」
「へえ。で、この事件の謎の方は解けたのかな?」
「いや。まだ気になることがあってな。それにこの事件には動機がないと踏んでいる。いや、確信している。だから犯人は分かっているのだが、どう殺したのかが解らない以上は、迂闊に手が出せない」
異世界探偵の考える姿を見て、蜂巣賀も考えていた。
「なあ異世界探偵。犯人は誰だと思う?」
「予想では、犯人は辻村霧太刀だ」
その答えを聞き、蜂巣賀は予想が外れていたのか妙に驚いていた。それを横目に入れた異世界探偵は訊いた。
「お前は誰だと思っていたんだ?」
「氷室竜次とか、そこらへんかと思っていたんだがな」
「氷室竜次とお前は真っ先に犯人候補からは外れていた。犯人が倒れていた場所はホッケー台のすぐ真下。つまりはホッケーをしていた最中に殺されたのだろう。普通は風呂上がりに運動するというのは不自然な行動だ。だから消去法で犯人は辻村霧太刀しかいないというになる」
その推理を聞くや、まるで大統領の演説でも聞いたかのように蜂巣賀は拍手をして称賛した。
異世界探偵はその行動に微塵の興味もないのか、「じゃあ」と言い残してその場から立ち去った。
「さてと、奴と話している内に色々と事件のことを整理できた。あとは証拠だな。この異世界だ。先に証拠を提示しないと」
異世界探偵は現場へと足を戻しつつ、何度も頭の中で考え付いた事件の真相を事細かに流していた。だが一向に証拠には追いつかない。
現場へついた異世界探偵が目にしたのは、遺体を必死に漁っているかんなの姿であった。
「なあかんな。何をしている?」
「だってもしこの人が死ぬ前にエアホッケーをしてたならさ、どうしてお金持っていないのかなって」
確かにこのエアホッケーを行うにはお金がかかる。そしてこれは二人専用。
「そうか。エアホッケーをしていた最中に殺された……だが恐らく彼は一人でエアホッケーをしていたのか。そういうことか」
異世界探偵は何かに気づいたのか、笑みを浮かべて帽子の柄を掴んだ。
「どうかしたの?夏」
「ああ。事件が解決した。この忌々しい事件の犯人は単純だ。あの者しかいないってことを証明しよう」
「犯人は誰?」
「かんな。ーーをここに呼んできてくれ。事件について、全て語って論破する」
自信満々に笑みを浮かべる異世界探偵は、自分の推理が全て正しいことを確信した。そしてその後、証拠がある場所へと足を進めた。
「さあ犯人。推理ショーを始めよう」
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