第3章 解決
事件は意外とあっさりと解決した。犯人は芋揚太のマネージャー、西山夏美だったのだ。芋揚太は妻と子がありながら夏美に接近し、深い仲になった。夏美には、
「妻とは別れる」と言い続けていたが、いっこうにその気配がなく、苛立った夏美は、発作的に芋の顔を平手打ちしてしまった。酔っぱらっていた芋はよろけて倒れ、運悪く、空き地に落ちていたバールの先が後頭部に刺さり、帰らぬ人となってしまったのである。それはリモート探偵、黒川進によって明るみになった。
「弘美さん、その防犯カメラの映像を見せてもらえるよう、お店の人に頼んでもらえませんか?」黒川が弘美に言った。
「ええと、はい、わかりました」
弘美は従業員の女性に防犯カメラの映像を見せてくれるように頼んだ。彼女はすぐさま、店のオーナーである店長に判断をあおぎに行った。店長は店の常連であり、有名歌手である岩橋弘美の頼みということで、すぐさまオーケーした。
弘美はノートパソコンを持って、居酒屋の奥にあるスタッフルームに入った。そして、店長がセッティングしてくれた、この日の開店から閉店までのレジ付近の映像を、ノートパソコン越しの黒川進といっしょに見た。
映像のメインはレジであったが、黒川の言う通り、レジだけが映っているのではなかった。
「ね、映ってるのはレジだけじゃないでしょ」黒川が弘美に言った。
「どういう意味ですの?」弘美は首をひねった。
「レジ付近も映ってるじゃないですか」
「まあ、そう言うたらそうですけど。そんな細かいこと、関係あるんですか?」
「関係おおありですよ。むしろレジなんかどうでもいいんです」
「レジはどうでもええことないですやんか。お金がぎょうさん入ってるのに」
「それは今回の事件の解決には関係ないということですよ」
黒川進にそう言われても、岩橋弘美には何のことかさっぱりわからなかった。
やがて映像は岩橋弘美・好美が店に入ってくる映像をとらえた。二人がレジの前を通り、レジの後ろにある下駄箱に靴を入れ、店内に入っていく様子がうかがえた。それから数分して、今度は芋揚太と西山夏美が入店してきて、同じように弘美・好美姉妹が靴を入れたところに近い場所の下駄箱に靴を入れ、店内へと入って行った。その後はしばらく単調な画像が続き、弘美は見ながらあくびをした。
「ちょっと早送りしてもらってください」黒川が弘美に言った。
「え、あ、はい」弘美はあくびをかみ殺して、早送りするよう、店長に頼んだ。
画面は早送りとなった。すると、芋揚太が店の奥から出てくる場面になった。
「早送りをやめて普通のスピードに戻してください!」
黒川の声が大きかったので、今度は店長がすぐに機器を操作し、画面を通常速度に戻した。
芋揚太は下駄箱から自分の靴を取り出し、外へと出て行った。そのすぐ後に、今度は西山夏美が店の奥から出てきて、下駄箱から靴を取り出し、店を出て行った。
「すいません、今度は画面を巻き戻してもらえませんか」黒川が言った。
画面が巻き戻され、弘美・好美姉妹が下駄箱に靴を入れる様子が再び映し出された。
「今度は芋さんたちが出て行くところを、もう一度見せてください」
店長は「私もいろいろやることがあるんだけどなあ」と文句を言いながら、黒川の言う通りにした。
黒川は画面を見ながら、「本当にごめんなさい。でも、もうわかりました」と言った。
弘美は驚いて、「え? もう犯人がわかったんですか」と言った。
「たぶん、ですけど」
「たぶんて」弘美はガクッときた。
「でも、おそらく間違いありません。犯人はマネージャーの西山夏美です」
「ええ? 今の見ただけで、なんでそんなことがわかるんですか」
「今、見て気づきませんでしたか」
「何をですのん?」
「西山夏美は、好美さんの靴をはいて出て行ったんです」
「ええ? 何でですのん」
「おそらく、よく似た靴なんで間違えたと思うんです」
「なるほど。でも、それで何で犯人になるんですか。靴を間違えた犯人を探してるんやないんやから」
「事件現場には被害者の芋揚太さんと、好美さんの靴の跡しかなかったんでしょ?」
「……あっ、そうか!」
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