第2章 推理
「なるほど、そういうことだったんですねえ」黒川はしみじみと言った。
「妹は、助かるでしょうか」心配そうに弘美が聞いた。
「そうですねえ……そうだ、その前に、代金の話なんですが」
「あ、そうや。なんぼですの?」
「そうですねえ。やっぱり、あれですか、格安のほうがいいですか」
「まあ、そらそうやけど。せやけど、格安やわ、何の解決にもならんかったでは、意味ないですからねえ。そうなったら、安物買いの銭失いや」
「そうですよね。そしたら、こういうのはどうですか? もし、今夜中に解決することができたら、費用はタダでいいです。その代わり、弘美さんにも、少し手伝ってもらわなくてはなりませんが」
「タダですか? それはありがたいんやけど、何を手伝うんですか」
「いやあ、大したことではないんです。今、私との通信に使われているノートパソコンを持って、そのまま事件現場へと行ってほしいんです。映像がこちらに届くように、カメラの向きを調整してください。それと、もう一つ大事なことを言い忘れてたんですけど」
「大事なこと? 何ですの?」弘美は不安な表情になった。
「この一連の映像を、私のYouTubeチャンネルで流すことを承諾してほしいんです」
「ええ? ユーチューブで?」
「それを承認していただけるならば、費用はタダでけっこうですよ」
弘美は少し考えた後、「わかりまりました、ほんならそれでお願いします」と黒川探偵に言った。
弘美はノートパソコンを抱えて、芋揚太が死んでいた空き地の近くまで来た。まだ多くの警察官がいて、実況見分などをしていた。
「まだなんかやばい感じやわ」弘美が独り言のように言った。
「そのようですね。それでは、今度は弘美さんたちが芋揚太さんと行った居酒屋のほうに行ってください」
黒川探偵に言われるまま、弘美はさっきまでいた居酒屋の前までやってきた。入口の引き戸を開けると、従業員の女性が後片付けをしており、「すいません、もう閉店なんですが、あ、岩橋弘美さん。何か忘れ物ですか」と弘美に言った。
「いや、そんなわけやないんやけど」弘美はしどろもどろになった。
「弘美さん」黒川探偵がノートパソコン越しに呼びかけた。
「なんですか」弘美が黒川の言葉に応じた。
その様子を見た従業員の女性は、何だか得体の知れないものを見るような眼で、弘美のほうを見た。
「ちょっと、玄関の辺りをなめまわすように撮影してもらっていいですか」黒川探偵が弘美に言った。
弘美は「はい、わかりました」と、ノートパソコンのカメラを、玄関口の四方八方に向けた。
「ちょっと、何やってるんですか」従業員の女性は少し怒った感じになっていた。
「探偵が言うてますねん」
弘美がそう言うと、従業員の女性は首をひねった。
玄関の辺りに映るものと言えば、レジに客用の下駄箱、それに客間へと続く通路ぐらいであった。しかし、黒川探偵は、それらとは別のものに注目した。
「弘美さん、天井に防犯カメラがありますよね」
「え? あ、ああ、ありますあります」天井を見て、弘美が答えた。
「その防犯カメラは、何を映していますか」
「ええと、向きをみたらレジですねえ」
「レジだけですか?」
「ええ、そうですけど。レジだけですよねえ」弘美は唐突に従業員の女性に尋ねた。
「え? 何のことですか」
結局、従業員の女性に聞いても、レジだけを撮っていると言った。
しかし、黒川進は、それに同意しなかった。
「その防犯カメラですと、もっと広範囲に撮影されてて、他のものも映せていると思いますよ。しかも、その映像が妹さんの無実を証明するカギになるかもしれませんよ」
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