間話 中間テスト最終日


「いらっしゃいま−−お? 月岡くんだ。やっほーってあれれ、こないだの子? また泣かせたの?」


「人聞きの悪い事言わないで下さい宮内さん」


「じょうだんだって〜怒らないでよっ! あ、いつも通りだから好きなとこ座ってね」


「はい、ありがとうございます」


「ドリンクバーいるでしょ? 入れとくから〜」


「すいません、ありがとうございます」


 な、なんですかあのお姉さんはっ!

 前回来たときもにやにやとしてる人がいるなあなんて思っていましたけど、あの流れる様な会話!生粋の陽キャってやつですか?眩しいです。


「奏。ぼーっとしてないで、行こう」


 軽く鞄を引っ張られ、我に返りました。


「あ、ハイっ。ただいまー」


 前を歩く悠くんの背について行き、ソファ席へ腰を下ろしました。


 ようやく一息つけますね。あ、ドリンクバー取ってから座れば良かったです。


「飲み物とってくるけど、奏は何が良い?」


「え? えっと……じゃあ、烏龍茶にシロップ1つでお願いします」


「……分かった」


 そう言って颯爽とドリンクバーに向かって行った悠くんの背中をぼうっと見つめます。

 え?なんですかあれ!立ち上がる隙もなく取りに行ってもらってしまったのですけど!これが、これがファミレスデートの真髄ですか。私今日最後まで保ちますかね?かっこいい成分の過剰摂取で倒れてしまいませんかね?


 今日で無事に入学後初の中間テストを終えた私と悠くんは、彼のバイトが始まる時間までの暇つぶしと、テストお疲れ様ですを兼ねて、ファミレスに来ていました。テスト期間は初日を除いて午前授業になるので、もちろんお昼も食べる予定です。


 つい最近来たばかりな気がするんですけど、あれももう2週間近く前になるんですねえ。


 なんて事を考えていたら飲み物をとってきてくれた悠くんが戻ってきました。


「お待たせ」


「あ、ハイ……えっと、ありがとう」


「いーえ。ついでだしね」


「悠くんは、紳士ですね」


「いや、これくらいで紳士だったら誰でも紳士になっちゃうだろ」


 なんてちょっと呆れながら突っ込んでくれます。でも、本当にそう思っているのですから仕方がありませんよね。ここに来るまでの間も、当たり前の様に車道側には悠くんが居ましたし、当たり前みたいに歩幅は私に合わせてくれてましたし。段差があったりすると、躓かないか見ていてくれるんですよ!それに見惚れて躓いたなんて、きっと彼は思ってないでしょうけど。

 ひょっとして女慣れしているのでしょうか?って、水原さんと付き合ってたんですからそりゃあ慣れてますかね。なんて、ちょっとだけ水原さんが羨ましくなります。


「奏、奏ー」


「え? あ、ハイっ」


 いけません、トリップしていました。悪い癖ですね、気をつけようとは思っているんですけど……。


「メニュー、見ないの? ご飯食べるだろ」


「あ、ありがとう……ございます」


「どうした? 何か気になる物でもあったか?」


 さすが悠くんです。私が考え事をしていたことなんてお見通しなんですね。まあ、あれだけ話を聞いていなければ誰にだって分かってしまいそうな物ですが、それはそれです。

 なので私はこの嬉しさを伝えるために、そのまま伝えます。


「いえ、悠くんは紳士だな、って」


「この速さで会話がループするのはどうしてなんだ……」


 言われて気付きました。そういえばもう言ってましたね。さっきとはまた少しだけ気持ちの大きさに違いがあるんですけど、そこまではわかる筈ありません。


 でも、やっぱり嬉しく思ってしまいます。変な事を言っている筈なのに、嫌がりもしないでこうしていつも通り会話をしてくれるのは、私にとっては特別で、ずっと欲しかったもので、すごく幸せなんだって。


「うぇへへ……」


「何も褒めてないぞ……ほら、メニュー決めよ」


「あ、ハイっ」


 気持ちを伝えるのは難しいですねえ。


 まあそれを考える前に、ご飯にしましょうっ!

 あれ?もしや私、悠くんとお外でランチを一緒にするのは初めてじゃないですかね?ふわああああ!これは、記念日ですねっ。是非とも記念日っぽい料理にしましょう。





「お待たせいたしました。Aランチセットとゴールデンストロベリーパフェになります」


「ありがとうございます」


「あ、ありがとう−−ございます」


「いえいえ〜ごゆっくり〜」


「……奏」


「ハイ?」

 

「本当に昼飯、それで良かったのか?」


 彼は何を言っているのでしょうか?


「ハイっ。えっと……この間来た時思ったんですけど、ここのスイーツ、だいぶレベル高いと思い、ます」


「あーありがとう。−−じゃなくて、お昼がスイーツでも大丈夫なのか?」


「あ、ハイ。全然……だいじょうぶ、だよ?」


 なるほど、そういう事でしたかー。あんまり気にした事ないから解りませんでしたけど、別に甘いものだけがお昼でも問題ないですよね。普通は違うのでしょうか?


「奏が良いなら、まあ良いか。じゃあいただきます」


 しまった、「いただきます」言う前に食べ始めてしまっていました。お行儀の悪い子だと思われてしまいます。今はちょっと喋れないので、手だけ合わせておきましょう。


 しかし相変わらず美味しいですね。本当は後2〜3個頼みたいんですけど、悠くんはどうやら私に大食いのイメージを持ってしまっている気がするので我慢します。私だってそれくらいの我慢は出来ますとも!








「お待たせしましたー。わらびもちソフトになります」


 ハイ、無理でした!3つ目ですっ。


「あ、ありがとうござい、ますっ」


「いーえっ。たくさん食べてくれて嬉しいよ〜」


「あ、ハイっ……美味しい、です」


「やーん可愛い! ねえねえ、ほっぺ触っても良い?」


「え、え?」


「きゃーっ! めっちゃ困ってる! 月岡くん、良い子捕まえたね!」


「誤解を招く様なこと言わないでください……」


「わー柔らかい! ねえねえ、お名前なんて言うの? 月岡くん全然話してくれなくてさあ」


「は、へっほ……ひゃひろかなひぇでふ」


「引っ張ったままじゃ話せませんよ……奏も嫌がっていいんだぞ」


「へえ、奏ちゃんって言うんだ。よろしくね〜私はー、コレ」


 陽キャお姉さんになすがままにされつつ、指で示された名札を見ました。

 宮内さんっていうんですね。わかりました。ほっぺが引っ張られたままなので返事はできません。指がひんやりしてて気持ちいいです。あとすごくいい匂いがしてちょっと興奮します。

 というかもう陽の許容量が一杯なんですよ。私みたいな陰の者には眩しすぎます……。


「宮内さん、そろそろ開放してあげてください」


「あっごめんねー。あんまり可愛くてつい……ごめんね奏ちゃん」


「あ、ハイ……大丈夫、です」


「はあはあ……現役JKのほっぺ。はあはあ……」


「……通報しますよ」


「……はいはい、わかりましたよー。全くもう、嫉妬しちゃって。じゃあ、ゆっくりしていってね! ほっぺちゃんっ」


 バチンっと華麗にウインクを決めて颯爽と去っていきました。

 スタイルも良いですし、モデルさんみたいな人ですね。悠くんとも仲が良さそうですし……。私、ほっぺちゃんになっちゃいました。

 嫉妬しちゃってって言ってましたけど、どうなんでしょうか?悠くんの顔をじっと見てみるも、よくわかりません。ああいえ、今日も素敵でかっこいいっていうのはよくわかるのですけど……。でも、もし嫉妬してくれてたら、嬉しいな。

 なんてことを考えながら、陽キャさん−−もとい、宮内さんに引っ張られたほっぺを触ります。自分でも小さい頃から思ってましたけど、やっぱり柔らかいんですね。自慢の一つに加えられるでしょうか?というか、悠くんがめっちゃ見てます!ほっぺを見てるのでしょうか?


「あ、あの……」


「ん? どうした奏。宮内さんに文句があるなら僕が言っておくけど」


「あ、いえ……そうじゃなくって、えっと……ほっぺ」


「ほっぺ?」


「う、うん。えと……ほっぺ、触る?」


 なんとなくほっぺに視線を感じたので聞いてみました。まるっきり無表情ですよ!どうしましょう?というかこの無言の時間なんなんですかあ……。

 

「……どうしても触れっていうなら、触る」


「かっ」


「……?」


 可愛いぃいいいいい良ぃ!です!!なんですかそれっ!なんですかそれえ!

 ああやって見てたってことは、ちょっと触ってみたかったってことですよね?今もしっかりそっぽ向いてますし!水原さん、ありがとうございます。貴女の言う通り、照れ隠しの時は口元に手を当ててそっぽを向くんですね!眼福です。


「えと、えっと……じゃあ。どう、ぞ」


「え、あ……うん」


「ひゃっ……」


 さ、触られましたあっ。心臓が、心臓が麻痺してませんか!?

 人差し指ってこんなに……こんなにおっきかったでしたっけ。ああもう、無理ですっ。自分から触る?って聞いたけど、ちょっとこれ恥ずかしすぎます!


「も、もうおわりっ」


「あ、ああっごめん」


「えと、ハイ……あの、ありがとうございまし、た」


「うん、こちらこそ」


「うぇへへ……流石に、恥ずかしいですね」


「君が触るかって聞いたんだろう……」


 呆れた様に、いつも通りに返してくれる悠くんが、今ばかりはありがたいですね。きっと今、私の顔は赤いんだと思います。自分でもわかるくらいなので、悠くんもきっと気付いていますよね。

 でも……それでもこうやって指摘してこないところが、少し寂しいけど、あったかいんです。


「えと、また今度。その……触ってください」


「あれだけ恥ずかしがってなんでそうなるんだよ」


「うぇへへ……なんででしょう?」


 ほんとうに、なんででしょうね。

 あんなに恥ずかしかったのに、気絶しちゃうんじゃ無いですかって思ったのに、それでも悠くんが触ってくれて、ちょっとでも私で照れてくれてるのが見れると、どうしても欲張りたくなっちゃいます。


「うん……まあ、気が向いたらね」


 優しいですね。私に恥をかかせない様に言ってくれているのでしょうか?

 でも悠くんは分かってません。そうやって優しくされると、もっと欲張りになってしまいます。

 こんな風になるなんて、自分でも知らなかったんだから、悠くんが知るわけも無いですけどね。


「あ、触り心地は、どうだった……かな?」


 彼の全部を見逃さない様に、じいっと見つめます。

 今はまだ、この気持ちを伝えようなんて思いもしないですけど。でも、ちょっとでも私の気持ちが伝わる様に、じいっと見つめるのです。矛盾です。それくらい、わかってる。


「……まあ、悪くなかったと思う」


 優しい声。胸が跳ねます。


 綺麗な手。触りたくなります。


 少し斜めを向く顔。見つめたくなります。


 ちょっとだけ赤い耳。一緒だねって、言いたくなります。


 水原さんがかつて見てきた彼の表情を、今は私も見れるのです。


 ああ、ほんとうに幸せですね。


 「うぇへへ……」


 だから私は笑います。


 嬉しくて、あったかいから笑うのです。


 ああ、ほんとうに楽しみですね。


 私1人でもこうして照れてくれるんですから、水原さんと2人で攻めたらどうなるのでしょう?


 その時悠くんは、どんな顔を見せてくれるんでしょう?


 ああ、ほんとうに−−



「楽しみ、だね?」


「……?」


 

 その為にもまずは、ちゃんと”台本”を完成させないといけませんね。
















 

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