間話 歪んだ女子のLove game 1
私は歪んでいると思う。
歪んでいるというか、なんて表現したら良いのかなっ。
ああ、これかな?
私は薄っぺらいんだ。
薄っぺらい上に、歪んでいる。薄い癖に捻れて歪んで絡まって、もう元の形が何だったかなんて思い出せないくらいに。
元の形が有ったなんて、もしかしたら私の希望的観測かもしれないけど。元々はこんな自分じゃなかったはずだ。なんて思っていたいだけかもしれないなー。
まっ、そんな自分が別に好きでも嫌いでも無いからどうってこともないんだけどね。
昔から私は器用だった。人と話すのも得意で、運動も得意。容姿も人並み以上だと思っているし、他人の感情の機微を読み取るのだって、話したり観察していればそれとなくわかるくらいには得意だった。
自分で並べ立てていても、なんて嫌味な奴だって思うんだけど、事実なんだからどうしようもないでしょっ。
そうやって開き直れるくらいには、私は私を理解している。
だから小学校も、中学校も、入ったばかりの高校でだって、トモダチを作るのに困ることなんて無かったし、そうやって皆の中心になれている自分に満ち足りていた。
けどずっと、どこか満たされない嫌な感覚だけは決して埋まらなかったけど。
私は恋愛が好きだ。
恋愛が好きって言うと、どこか語弊があるかもしれないかなっ。
正確に表すのであれば、男の子に好きになってもらうのが好きだ。
いやー、ほんっとに歪んでると思う。
だって、誰のことも好きになったことは無いくせに、男の子に好きになってもらうために思わせぶりな態度を取ってみたりしてしまうのだから。
そうしていると、私を見る視線が段々と『ただの友達』から『好きな女の子』に変わっていく。この感覚が、足りない私の穴を埋めてくれる様な気がしているから。
けど決して私はボロを出さない。自分は変わらず『女友達』で居続けるのだから。
だってそうしないと面倒でしょ?
ヘマをすると女友達から反感を買うのは、小学生の時にもう学んだ。同じ轍は踏まないのが当たり前。
女子は敵に回すと恐ろしいのだから。ほどほどに味方にしておくのが丁度良い。
そんな私は、高校に入ってからこっち、ちょっと気になっている男の子がいる。
最初はパッと見、ただの暗ーい大人しいだけの男の子かと思っていたけど、よく見ると意外と顔が良い。
体型もすらっとしてるし口調も穏やかだ。
ある程度の雑談にも応じてくれるし、クラス内の女子からの人気も表立っては無いけど、それなりにある。
隠れイケメン。しかも地味に人気があるタイプ。
これで食指が動かないワケがないでしょっ。
だから私は近寄った。
ほとんど毎朝、挨拶をしに行って、どうでも良い会話をちょっとして、そうやって少しずつ距離を狭めていった。
他に彼を表立って狙う人が現れない様に、いろんな情報操作も行った。
最初は感じていた彼との会話の距離感とかも、1週間もしたらだいぶ感じなくなって行った。
『これはいける』
そう思っちゃうのも仕方ない。
だって、今までの男の子だったらこれでいけたのだ。
『そろそろかな』
そんな風に思って数日が経った。
けれどどうしてか、ある程度縮まったと思った距離から、中々進展しないのだ。
今までも、彼と同じ様に進展速度が遅い人は居るには居た。
けど、どうにも今回は違うのだ。
私の経験が、何か違うと告げてくる。
そんなある日、まだ朝早い始業前の時間帯。私たちの教室に少しだけ騒ぎが起きた。
同じ学年で、9組の女子。水原笑美。
密かに『9組の女神様』なんて、いかにもなあだ名で呼ばれている彼女が、何故かうちのクラスの前に居た。
同じ女子としてそのあだ名にだけは同情するけど……。
怪訝に思い、彼女の様子を観察する。
登校していた生徒も皆、ちらちらと彼女を見る。
彼女は扉に隠れる様にして、ある人物を眺めていた。
それは、彼だった。
直感でわかる。この人は彼が好きなんだ、と。
その瞬間、自分の中に今までに無いくらいの激しい衝動が湧き起こるのを感じた。
……ああ、この感覚だ。
……私は『これ』が欲しかったんだ。
自分の事を人並み以上には可愛いと思っている私ですら、ちょっと臆してしまうくらい綺麗な彼女。
その彼女が熱心に見つめる『彼が欲しい』
彼女の目の前で、彼が私の事を好きになったのだと知らしめてやりたい。
それは−−−それは、どんな甘さがするんだろう。
思わず喉が鳴る。自分の心が歪んでいるのが、これほどまでに愉しいと思ったことは無かった。
必ず彼を手に入れる。
こんな事、思ったことは無かった。
ひょっとしたら、これが『恋』って奴なのかな?
もしかしたら、私は恋がしたいのかもしれない。
けど、そんなことは後回しだ。
まずは彼を手に入れる。
何としてでも彼を堕とす。
けど、慎重に行かなければいけないのも分かっている。
だから時間を掛けて、ゆっくりと溶かしていくのだ。
少しずつ、少しずつ、私と言う毒を流し込んでいくのだ。
そのために必要な工程を考える。うん。うん、うん。ああ……あー愉しいっ。
長期的な計画になるけど、これならイケると確信する。
その前にまずは、情報の入手だ。
彼女が何で彼を見ているのか、教室にもっと人が増えて動きにくくなる前に確認しないといけない。
後ろ側の扉から教室を出て、彼女に近付いていく。
何があったのか、スッと扉から離れてしまった彼女を追いかける。
自然、心臓が高鳴る。いや、さっきから鳴りっぱなしだ。ああ、愉しいっ!
見れば見るほど綺麗な彼女。普通の女子なら嫉妬してしまうくらいに彼女は整っている。
ああ……そんな整った顔が崩れたら、あなたはどれほど綺麗な顔になるのかなあっ?
「水原さんっ」
「うぇっ!?あ、はい?な、何かな?」
「月岡くんに用でもあった?呼んできてあげようかー?」
「ええ?あ、いや、えーと……ううん、大丈夫っ。特に用があったとかじゃ無いから、うん!本当にっ」
……へ、下手くそっ!?一声掛けただけでこんなに狼狽してどうするのあなたっ!
……いやいや、演技かもしれない。っていうか多分そうだ。警戒してるに決まってる。
……良いよっ。そっちがその気なら、私も仕掛け返すまで。
「ねえ、水原さんと月岡くんって、付き合ってるの?」
彼女の顔に困惑が広がる。
「ええ!?い、いやいや無い無い!えーっと……」
ああ、興奮しすぎて忘れてた。私、まだ名乗ってすらいなかったっけ。
「ああ、ごめんね水原さん。初めましてっ。私1組の−−−
こうして私と彼女は『トモダチ』になった。
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