間話 ゴールデンウィークその1
高校に入学してから初めて迎えるゴールデンウィーク。その初日。
普段よりも1時間くらい遅く起きた私は、すぐに枕元にあるスマホを手にとった。
高校に入り、中学時代よりもメッセージのやり取りを行う人が増えた私の朝の日課。
何件か入っているそれらの差出人の名前を順繰りに見て、一人の名前で目を止める。
《特に決めてないけど、午後はバイトまで図書館で課題をやる予定。》
あまりに簡潔な文章。私、もっと他にも質問していたと思うけど??
決めてないけど、とか言ってしっかり決めているじゃない。
……でもまあ、返事が来るのは、やっぱり嬉しい。
朝食を済ませ一休みした私は、出かける準備に取り掛かる。
いつもより少しだけ、早めに準備に取り掛かった。
※
昼食を終えて駅に向かっていると、前から部活終わりと思われる中学生のカップルが歩いてくる。
「絶対あの子翔太のストーカーだよ!ちょっと可愛いからってほいほい付いていったら許さないからね!」
「わーかってるって。どんだけ心配性なんだよ」
すれ違いざまに聞こえてきた会話にくすりとする。
楽しそうだなあ。ほんとに彼が好きなんだろうなあ。
関係ないのに、あのカップルのことを少し応援してしまった私は、彼らの会話から少しだけ昔のことを思い出す。
『わ、私っ。……八色くんのストーカーかもしれない……』
『え?どうしたのいきなり?』
『だ、だって気持ち悪くない?休みの日、何してるのかな、とか。どこ行くの?とかいちいち聞かれるの、嫌じゃない……?』
『うーん、そういうの考えたことないかな。まあでも、水原の思うストーカーがそれ位なら、別に君がストーカーでも良いやって思うけど……』
……あの頃の私はストーカーの定義すらわかってなかったのね。
それはストーカーではなくてただの独占欲よ……。
わざわざ変なカミングアウトする必要なかったと思うけどなあ。
なんて、中学時代の無知な私の一幕を思い返していると、目当ての場所まで着いていた。
※
図書館へと入った私は、空いている席を探す為に館内を歩き回った。
やっと席を見つけて腰を下ろす。
私が座ったことに気付いたのか前に座っている人が、ついっと視線を向けてきた。
それには構わずに鞄から課題を出す。
「なんで、君がここにいるんだ?」
「空いてる席がなかったんだもん、しょうがないでしょう?」
じとりとした目で見られる。
「……何よ」
「別に。君がどこにいようが僕にあれこれ言う理由は無かったなと思って」
ちょっと拗ねた様な口調に笑みがこぼれる。
「そうね。ところで、課題はどう?」
「まだ初日だぞ?大して進んでいないよ」
「ふ〜ん。そうなんだ。まあ……それもそっか」
そこまで話して、咳払いが聞こえた。
少しだけ視線を合わせた後、黙って私も課題に取り組む。
……あなただって話してたんだから、そんなに睨む必要ないじゃない。
※
時計を確認すると、1時間と少し進んでいた。
視線を上げる。変わらずに課題に取り組んでいる様だ。
相変わらず長い睫毛に少しだけ見惚れてしまう。
「……ねえ、ここ、わかる?」
「……ん?ああ、ここなら……って、君仮にも学年首席だろう。わからないわけないじゃないか」
「そ、それはえっと……八色くんがわかるか、試しただけ……と言うか……」
「はぁ……さっきと言ってることが真逆だけど」
……ぐぅ、痛いところを突かれた。
不意に質問したら、昔みたいに教えてくれるかなって、思ったんだけどな……。
ちょっとだけ落ち込んでいると、彼がサラサラと私の課題の横にペンを走らせた。
「あ、ありがとう……」
また一瞬だけ、ついっと私に視線を向けて、彼は課題に戻っていく。
「……ストーカー、ね」
館内に流れるBGMが途切れたタイミング。ほんの囁く様な声が耳に届いた。
驚いて顔を上げると、彼は口元に手をやりながら課題に目を落としていた。
……ふ〜〜ん。ふう〜〜〜んっ!
課題はそんなに進まなかった。
まあけど、悪くない一日だったかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます