第三話 うそのつきかた

 昔から、顔色を隠すのが得意だった。


 昔から、と言ってもそれは妹−−−八色水月。改め、月岡水月が生まれて少ししてから、である。


 下に弟ないし、妹を持つお兄ちゃんお姉ちゃん諸君には少なからず共感してもらえる事と思うが、両親。

 とりわけ母親の「お兄ちゃんなんだから」と言う伝家の宝刀の威力たるや、まだ幼かった僕にはそれはもう効いた。

 クリティカルヒットを初めて受けた日である。

 しかも何が恐ろしいって、その言葉は、その場だけではなく、その後のお兄ちゃん人生にも常にダメージを与えてくる、永遠のデバフなのだ。と言う事である。


 そんな母親の(父親については特に語ることはない)「お兄ちゃんなんだから」攻撃を受けた僕は、親鳥の刷り込みもかくやと言う勢いで、自分を矯正していく事となった。

 きっかけは母だったが、それをしようと決めたのは、僕だ。

 ちなみに、母の名誉のために付け加えるが、僕は母から愛されていると自負している。


 そんな風に妹、水月が出来てから僕は僕に対して『お兄ちゃんでいる事』を、課してきた。

 当然、それまで一人っ子だった僕が急にあれやこれやと我慢できるなんてことはもちろんなく、最初の頃はそれなりに駄々もこねたし、拗ねたりもした。

 しかし、そんな僕ではあるが、その度に目にする母の困った顔を見るのは、幼いながらも、やはりどこかムズムズするものがあったのか、駄々をこねる頻度も、拗ねる事も、日を追うにつれて加速度的に少なくなっていった。

 それに比例する様に、負の感情を自分の表情に出す頻度も低下していったのである。


 そんな普通の『きょうだい』が居る家庭の兄ないし、姉であれば経験していったであろう過程を、僕も享受してきたし、表情を隠すのが上手くなったからと言ってそれが悪いことだと考えたことは無かった。

 むしろコミュニケーションを円滑に進める上で、嫌な顔を出さないということは得だ。とすら考えている。


 僕がそんなことになった要因の一つである妹に対しても、僕は怒ったりすることはあれど、愛情を無くしたことはないと、ここに言い切っておく。

 家族、とりわけ妹に対する愛情は、誰にも負けない。


 なぜなら僕は『お兄ちゃん』なのだから。


 成長し、お兄ちゃんとしての地位を確立した僕。

 そんなポーカーフェイスを気取る僕ではあるが、家族に対して以外に人生で3度、自分の表情を御しきれていない。と、感じた出来事がある。


 

 一つは、中学時代に出来た彼女。厳密に言うと元彼女−−−水原笑美。

 彼女に交際を申し込み、交際が成立した日、である。

 

 不覚にも、今にして思うと尚のこと、本当に本当に不覚にも、この時の僕は人生で一番じゃないのかってくらい舞い上がっていた。

 この嬉しい気持ちは、どんなに頑張って抑えようとしたって、どうしようもなく、表情に現れていたと思う。

 家族に対してそうである様に、彼女に対しても、一生大事にして行こうと、そう決めた日だった。




 もう一つは、中学時代に出来た彼女。厳密に言うと元彼女−−−水原笑美。

 彼女に別れを申し込み、関係が破局した日、である。


 不覚にも、今にして思うと尚のこと、本当に本当に本当に不覚にも、この時の僕は人生で一番、一番……………。

 ……この時の気持ちは、何がなんでも、何に変えたとしても。気取られるわけにはいかなかった。だからどうしようもなく、意識して表情を作っていたのだと思う。

 彼女に対して決めた事を、遂行できなくなったから。だから必ず、家族に対してだけは、必ず、必ず自分の決めた事を守ろうと、改めて決意した日だった。




 最後の一つは、中学時代に出来た彼女。厳密に言うと元彼女−−−水原笑美。

 もう会うこともないと思っていた彼女に再会してしまった、口に出すとなんてことない。




 ただそれだけの日である。






※※※






 県内有数の進学校、その1年1組。

 入学式の翌日という、未だどこか浮ついた空気を漂わせながら、一部を除いた誰も彼もが新しい関係の構築に勤しむ。そんなホームルーム前の朝の時間。

 

 僕−−−月岡悠は一人で前日の再上映を行なっていた。

 詰まるところ、机に突っ伏していた。



 今朝、家を出る前に妹にしてもらった励ましも、「お兄ちゃんだってバレなきゃいいじゃん!」というありがたい開き直りも、それで安心して決めていた覚悟も。

 その何もかもが学校にたどり着くその前に、おじゃんになっていた。


 そうなるに至った経緯を、教室の自分の机という、昔からの学校での、僕のパーソナルスペースにて思い返していた。






 

−−− 「全然関係ないんだけど。あんたなんで名字変わってんの?あと、絶対に学校で私に話しかけてこないでよね」






 まだ人通りもまばらな、学校へと向かう住宅街を歩いていた矢先。

 急に横合いから伸びてきた手に掴まれ、文字通り横道へと引き釣り込まれた僕に、その犯人である水原笑美はそう言ったのだった。




 −−痛いじゃないか。


 −−何をするんだ。



 本当に唐突な出来事に、その一瞬前まで、朝っぱらから尻餅を着かせてくれた文句を言おうと思っていた口が閉じる。




 −−−顔を、見てしまったのだ。




 立ち上がる直前、呆けた様に水原の顔を眺めてしまった後、これ以上彼女の顔を見るのはマズい。と、意識的に向けない様にしていた目を、向けてしまったのだ。



 僕よりも15センチほど低い身長、先ほどは見上げる形だったけれど、こうしてみる彼女は、記憶の中の彼女よりも少しばかり背が伸びていて。

 


 記憶の中の彼女よりも、髪の毛が整えられていて。


 記憶の中の彼女とは違って、野暮ったい眼鏡は掛けていなくて。


 記憶の中のどの彼女よりも、綺麗になっていた。



 単純に見つめてしまったのが悔しくて。

 言おうと思っていた言葉が出てこないのがもどかしくて、記憶の中の彼女と嫌でも比べてしまう自分が、酷く浅ましく思えて。


 そんな権利もない事は、他でも無い僕が、一番わかっているのに。


 それでも僕は、彼女から目をそらすことが出来なかった。


 それは、水原がどこか居心地悪そうに視線を逸らすまで続き、そこでようやく僕は、彼女に話しかけられているのに、なんの返答もまだしていないことに気がついた。



 言いようのない感情が吹き荒れるのを自覚しながら、僕は、努めて冷静に表情を作った。

 わざとらしく咳払いなんかして、お尻についた埃を払いながら、しっかりと彼女の目を見据えて、先ほどの言葉への返事を行った。




 「それこそ関係のない君に話す義理がない。それと君から話しかけて来なければ、卒業まで君と僕が話すことはまず無かったよ」

 



 途端、それまで何かの美術品ではないかと思うくらい整っていた水原の顔が、何かを堪える様に歪められた。

 しかし、何かの見間違いではないかと思うほど、瞬時に水原の表情が消える。




 「……それもそうね。とにかく、そういうことだから……」




 そう僕に告げるなり、人二人通るのがやっとという程に狭いこの路地を、学校に続く通学路に向けて、去っていく。


 水原が通学路に戻るのを見届けて、僕はずっと押し殺していたものを吐き出すかの様に、ため息をついた。



 「……なんなんだよ、いったい」



 そう口には出したものの、頭がいまだに混乱している。


 久しぶりに話したことが、こんな内容だったのか。とか。


 もうこれで、水原にバレない様に行動しないで済む様になる。とか。

 

 本当に水原で間違いなかったんだな。とか。


 ずいぶん垢抜けたじゃないか。とか。


 ごめん、とか。ありがとう、とか。


 今更口に出したところでなんの意味もない、むしろ今更だからこそ言ってはいけないことも頭の中に去来する。





 −−−あぁ……でも、そうか……。





 不意に、すとんと僕の心に落ちたものがあった。






 「……勉強、頑張ったんだね。水原」





 頭の中は未だにさっぱり整理出来ていない。


 自分の感情が酷く曖昧になっている。


 昔の僕らとは何もかもが違っていることもわかっている。


 僕と水原は事実として、ただ高校が同じになっただけ。わかっている。



 ……ただそれでも。


 彼女が頑張ってこの学校に、それも主席として入った事実ってやつを、それがどれほどの努力の上に成り立ったのかっていうのを、僕は純粋に嬉しく思ったんだ。






 水原との予期せぬ邂逅を終え、ある程度落ち着きを取り戻した僕は通学路に戻ったのだが、思いの外時間が経っていなかったのか、僕からさほど遠くも無い距離を歩いている水原に気を使い、ゆっくりと学園へと向かって、今に至るのである。


 今朝の一連の出来事を思い返し終わると同時に、担任がやってきて朝のホームルームが始まった。

 簡単な挨拶の後、今後予定されているカリキュラムや行事の説明が紙を使って行われていく。

 そうした用紙にさっと目を通しながら、僕は放課後に待ち受けるあるイベントについて考え、緊張をほぐす様に、浅くため息を吐き出すのであった。




※※※




 時刻で言うと14:20分。

 学校が始まって2日目ということもあり、午前中のみで日程を終えた僕は、学校とは駅を挟んで反対側に位置するファミリーレストランに来ていた。

 クラスの友達と食事をするでもなく、ただ遊びにきていたわけでもなく、かと言ってなんの用事もないか、と言ったらそんなこともなく。

 つまり、面接に来ていた。


 まあ関係ないのだけれど、学校からここまでの間に水原とはエンカウントはおろか、その姿さえ見てはいない。

 昨日と同じ様に、下駄箱の辺りで水原についてああでもない、こうでもないと論じ合う男子には遭遇したが。


 今の水原の容姿では、噂になるのも当たり前か……。


 せめてこれが、悪い噂に変化していかない事を、少しだけ願った。



 近くのコンビニでサンドイッチを買い、軽く時間を潰した僕は、面接予定時刻の10分前に予定地であるここ、『プレミアムホスト』にやって来ていた。


 レジに立っていた、バイトの大学生であろうと思われる女性に面接に来た旨を伝え、控室で待つ事数分。店長と思わしき男性が入って来た。

 僕も立ち上がる。



 「月岡悠と言います。よろしくお願いします」



 深くお辞儀をし、顔を上げ、しっかりと相手の目を見て反応を待つ。



 「どうもどうも。店長の小千谷おじやです、座っていいよー」



 そう言って自分も席に座った小千谷さんは、三十代半ばくらいで、制服の上からでもわかるほど筋肉質なおじさんであった。

 目元が優しげで、清潔感も感じられ、飲食店の店長っていうよりも外回りの敏腕サラリーマン。みたいなのが似合ってしまうなーと、そんな事を思っていた。


 それにしても、受験を除いて面接を受けるのは初めてだが、履歴書を見られている間のこの言いようのない緊張感はなんなんだろう。もっとずっと後のことだけれど、就活を始めることになったら大変そうだ。


 そんな事を考えていると、小千谷さんから質問が来る。



 「んーこれを見る限り、ほぼ採用で決定なんだけど、一応決まりでさ。バイトに来た動機みたいなのって教えてもらってもいいかな?あんまり緊張しないでいいから、気楽にね」



 そう笑って話す小千谷さんに「ありがとうございます」と、答えてから、



 「正直に言うと、ここじゃなきゃ嫌だって言う理由はないんです。すみません。……うちは母子家庭なので、少しでも家計の手助けがしたくて、それで、学校から近いここに応募させていただきました」



 ここじゃなきゃ嫌だなんて理由はない。なんて、普通なら言っちゃダメなんだろうけど、小千谷さんの僕を見る澄んだ目を見て、全然、本当にこれっぽっちも似ても居ないのに、僕は、水原を重ねてしまった。

 なんの気の迷いか、どうしてそう思ったのか、自分でもはっきりとしなかったけれど、この人に嘘は付きたくない。そう思った。

 だから、紛れもない本心で話した。


 その後もいくつか質問をされたりしたけれど、段々と雑談というか、人生相談みたいになってしまっていて、まず誰にも言わないけれど、少し感情が昂ってしまったりもした。

 誰にも言わないように、しっかり小千谷さんにもお願いした。


 まあ、結果は採用だったから良しだ。


 ……怪我の功名っていうのを、身を以て体験したと、そう考えることにしよう。



 小千谷さんと相談した結果、働き始めるのは学校のカリキュラムが通常の授業内容になる、来週の頭から。ということになった。

 今日が火曜日なので、まだ日にちに余裕はある。

 その間に、働くにあたって買っておかなければいけないものなどを考えながら、『プレミアムホスト』を後にした。


 店を出る時、店内にうちの学校の生徒が居たような気もしたが、反対とはいえ、同じ駅の側にあるのだからまあ、当たり前のことなのだろうな。





※※※




 夕飯の買い物を終え、家に帰り夕食を作りながら妹にバイトの報告をする。


 「水月。この間話してたファミレスなんだけど、兄ちゃん来週からそこでバイトすることに決まったからね」


 「ふ〜ん。よかったね!ところでさ、そんな事よりも!そんなことよりも!だよ!」


 「……なんだよ?」



 妹の反応が薄い。兄の初めてのバイト決定報告を一蹴してまで言いたいことがあるのか。



 「やだなー!水原さんだよ〜。どうだった?その後!……あっ!もしかして今日あっけなくバレちゃったとか?」


 「……ないない。」



 さすが僕の妹。慧眼である。しかしここで発揮しないで欲しかった。



 「……え?マジ?」



 さすが僕の妹。僕の嘘なんてものはお見通しである。しかしスルーして欲しかった。



 「ほっほーう。よしよし悠くん!わたしに洗いざらい吐きたまえ!」



 水月が僕の事を『悠くん』と呼ぶときは、なにがなんでも話を聞き出したり、妹のくせに姉ムーブを起こしたいときに決まって発動するのである。

 こうなった水月は止められないと、兄としての15年の経験からわかっている。



 「……はぁ。わかったよ。もうご飯できるから、食べながらな」



 その後、今朝あった事を白状し、昨日のように何かアドバイスを言ってくるかと身構えていたのだが、妹から帰って来たのは「……そうなんだ。へぇ……なるほどなぁ」だけであった。


 その煮え切らない反応を訝しみながら、なんの含みなんだよ、と追求しようとすると、水月は食器を片付け、そそくさと自室に戻ろうとする。

 今日話すことで、水月にまだ伝えていなかった事があったと思い出し、告げた。



 「そういえば水月。今週の日曜に母さんのところ行くから、水月も一緒においで。」


 「……ん。わかった。おやすみ〜」



 そう言ってとことこと自室に引っ込んだ水月を見届けて、一人になってなんの音も発さないリビングを見渡す。



 ため息が出そうになるのをグッと堪えて、感情の澱を飲み込むように、残りの晩ご飯をかき込んだ。




※※※




 昨日、初めてのバイトの面接で疲れてしまったのか、僕は自分でいうのもなんだが、珍しく寝坊してしまっていた。

 慌てて起床し、自室にて丸まっている水月を起こし、弁当を準備する時間がない事を確認して自分も登校の準備を行った。

 昨日までは午前中のみ学校であったが、本日から僕も水月も1日を通して学校があるのだ。

 まだ寝ぼけ眼の水月に昼食代を渡し、学校へ急いだ。



 なんとか遅刻する事なく教室にたどり着いた僕は、どうせ弁当が準備できなかったのなら、学食でも使ってみるか。と思い直し、昼休みまで過ごしたのだった。


 一昨日、昨日と諸事情により、級友とコミュニケーションも取らず、机に突っ伏していた僕は、それはまあ見事に孤立していた。

 寝不足だったこともあり、昼休みまでの休憩時間も机にて睡眠をとっていた僕に話しかけてくる人はおらず、その流れのまま昼休みを迎えた。

 

 まあ勉強にバイトにと、僕が卒業までにやることは学校に入る前から決めていたのだし、煩わしいこともある友人関係なら、いっそのこと中学と同様になくても良いか、なんて。誰に話すわけでもなくひとりごちていた。


 水原が言うとは思っていないけれど、同中から来た他の学生が僕の事をバラしてしまうって言う可能性はいまだにあるのだし、仮に仲良くなってから掌を返されるよりは、初めから誰とも親しくない方が良いか。というのも少なからずあった。



 そんな事を考えながらカフェテリアへと移動すると、まずその人の多さに驚いた。

 一学年10クラスからなるこの進学校であるが、敷地が広いこともあり今まであまり人の多さを実感することは無かったのだが、ここに来ると流石にそれを感じざるをえなかった。

 比較的早めに着いたにも関わらずこの多さだと、もう数分もしたら更にすごいことになりそうだ。


 何を頼もうかなと券売機に並ぶ寸前、カフェテリアのカウンターのちょうど反対側に小さな屋台があるのが見えた。

 なんだろうと眺めていると、一目散に屋台目掛けて歩く先輩と思われる女子グループが目についた。



 「早く早く!今日こそ限定プリン買うんでしょ!」

 

 「そ、そうだけど、ちょっとまってー」



 そんな先輩方の会話に釣られ、僕も屋台へと並ぶことにした。


 『1日50個!限定プリン売ってます〜1人1個までだよ〜』

 

 ……良いじゃないか、限定プリン。


 とりわけ甘いものに目がないわけではないけれど、僕は基本的には弁当を持参して静かなところで昼食は取るつもりだったし、こんな機会でもなければ買うこともないのだと考えると、途端にプリンに興味が湧いた。

 別にとりわけ甘いものに目がないわけではない。

 特に大事なことではないけれど、あえて2回言っておく。

 

 幸い、昼休みを告げる鐘が鳴ってすぐに教室を離れた僕は比較的早めにカフェテリアについた方だろう。それは屋台の前に並んでいる人数を見てもわかった。


 屋台のショーケースに陳列された50個のプリンが着々と減っていく様を見ながら列に並んでいると、後ろで息を飲む音が聞こえ、反射的に振り返ってしまった。




 水原笑美が、そこにいた。



 水原は恐らく同じクラスであろうお友達を僕との間に挟んで、会話をしながら一瞬だけこっちを見た。

 咄嗟に目を逸らし、前を向いて何も見なかったことにする。


 もう僕と彼女はなんでもないのだけれど、それでも昨日の通学路で水原に言われたように、僕から水原に話しかけることは誓ってない。



 体を流れる嫌な汗を感じながら、いっときの欲、もとい興味に負け、プリンの屋台に並んでしまった事を深く後悔していると、列の先頭まで後数人というところまで進んでいた。

 後ろからは水原と、その友達と思われる女生徒の会話が聞こえてくる。それを意識して聞かないようにしていると



 「限定プリン、本日残り5名様でーす!すみませーん!」



 屋台で販売している生徒(部活動か何かの活動なのだろうか)が申し訳なさそうに告げるのを聞き、すぐに先頭から僕までの人数を数えた。




 ……これじゃあ今日は買えないな。




 そう結論を出した僕は、後方で諦めて屋台を離れる人に混じるように、足早にカフェテリアを後にする。



 教室に戻ってから、何も食べてない事を思い出した僕は、次からは絶対に寝坊しないと、そう硬く決意した。



 しかし、限定プリンとはどんな味がしたのだろうか?興味深かったけれど、まあ良いか。




 何度も言うが、とりわけ甘いものに目がないわけではないからね、僕は。










 

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