終章 カミサマの退屈(4)

 真新しいセーラー服に身を包んだ凛陽は、鏡の前で忘れものが無いかを最終チェック。


 ポニーテールの位置はバッチシ。地味なゴムから、茶髪に合わせた黄色いリボンはカワイくてサイコー。


 リボンと同じ色のヘアピンで留めた前髪も、イイ感じに分かれているからオッケー。


 そしてラスト。

 とびっきりの笑顔をキラリ。


 完璧っ。


 洗面所を出てすぐ玄関。金糸に輝く白い髪をした時雨が真新しいセーラー服を着て通学バッグを提げている。

 時雨と凛陽は警察機構ヴァルハラの監視下の許、名字を変えて新生活を送っている。今日から転校生として新しい高校へと通う。


「行きましょう」


 時雨が玄関のドアノブに手をかけると、後ろから凛陽に抱き付かれてしまう。


「ひゃ」


 か細い悲鳴を上げてしまう時雨。


「お姉ちゃん、緊張してない?」

「遅刻する。話しなら外でできる」


 時雨の身体は雪の様に冷たいのに、心臓の鼓動はとてつもなく速い。


「お姉ちゃん、人見知りハンパ無いけど大丈夫?」


 この質問は十七回目。その度に時雨は「大丈夫」と頷くけど、抱き付く前から凛陽は気付いていた。不安で小刻みに震えていた事を。


「すっごく、すっごく、イヤだけど。アタシ達、超高確率で離れ離れになるかもしれないじゃん」


 昔からクラス分けの際、双子の時雨と凛陽は離れ離れになっていた。だから、今回もそうなってしまうだろう。


「もし、一人で挨拶する事になっちゃっても平気? 新しいクラスの皆からいっぱい質問されちゃっても、イイ感じに答えられる?」


「問題……無い」


 仇討ちが終わってから時雨は、また口数も最低限まで減り、透き通る様に繊細な人形の佇まい。覚醒状態だった頃に見せた艶に溢れる氷の華の面影を感じさせない。

 強がっているんじゃないかと、ため息をこぼす凛陽。


「また、そんなこと言うんだから。休み時間はなるべく様子見るし、友達できたらちゃんと紹介するし、エロい目線を送ってくるヤローは全員フルボッコにするけど」


 クラスで時雨がいじめられないか。行方不明のギルガメッシュによる報復。不正に塗れたヴァルハラの悪だくみに巻き込まれないか。新たに神器を狙ってくる脅威。何が姉妹の絆を引き裂いてくるのか、不安を上げていったらキリが無い。


「困った事があったら――」

「大丈夫」


 凛陽を見つめる時雨。いつの間にか、玄関のドアを開けて外に出ていた。


「ちゃんと相談する。凛陽も、困った事があったら言って」


 可憐な美しさからは、いつもの無機質さを感じさせず、ほんの少し生き生きとしている。


「もちろん」


 強くなった時雨。

 一人でも大丈夫。もう姉を守る妹でいる必要はない。いつかその日が来てもきっと。


「行きましょう」


 差し出してくる手はどこかぎこちなく、ちょっと震えている。


「うん」


 手を握る凛陽。その笑顔はとびっきり眩しく、キラキラ輝いている。

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