第四章 最後に笑うのは(8)

「手錠が解ける瞬間は三つ。一つ目は牢屋にぶち込まれた時、いわゆるチェックインって奴だな。二つ目は看守から鍵を拝借した時、自由に向かって、走れ、走れ。ッハッハッハッハッ」


 床に倒れたアルベルト。ようやく呼吸ができる。見上げると、ロキがギルガメッシュの前で腕を振り上げ、足を高く上げて走る真似をしてみせる。楽しそうに挑発的な笑い。全力でふざけた態度、やはり本物だ。


「さて、三つ目なんだが、カンタンだ。手首ごとナンバーワンに斬って貰えばいい」


 床には手錠グレイプニル・イプシロンと、切断され煙と化して消えゆく両手が。アルベルトの首を絞めていたギルガメッシュが背後から忍び寄ったロキを斬ったのだ。


「テメェ、どこで何をしてた?」


 再生した両手。ギルガメッシュの速く鋭い斬撃を、スリルを笑いながら、ロキがやり過ごしていく。


「透ちゃんがしつこくてさ~。リザに代役を頼んだんだ。でも、その様子だと、ご満足いただけなかったようだねぇ~」


 危なっかしくて凛陽や時雨より余裕が無いのに、とても饒舌で剛胆だ。


「まぁ、しょうがない。この俺を演じるのは、赤じゅうたんを歩く奴でも、一発キメなきゃできないんだ。なんたって、俺は世界一オモシロイ、カミサマだからなぁ~」


 鋭い太刀筋を鼻先でやり過ごし、左腕を構え、緑色の魔法陣を展開。

 白煙が辺りを包む。


「俺、パーティ好きなのに、いつも遅刻してんなぁ」

「ェエッ」


 見失ったアルベルトの傍にロキが現れる。


「何してんだよ」


 察知したギルガメッシュが超速で襲いかかる。床を蹴る足が小さなボールを踏み潰し、スライム塗れになって身動きが取れなくなる。


「見ろよ、アリー。無様だなぁ、二回目だぜ。ハハハハハハ」


 屈辱を表に出さぬ様子をロキが指さし笑う。アルベルトは一緒になって笑う事はできなかった。


「バカが」


 スライムが膨張し、ギルガメッシュを飲み込んだと思ったら、跡形も無く破裂した。

 ロキの背後から襲いかかる剣。


「オチは頼んだぜ」


 そうアルベルトに言い残すとロキの姿が煙の様に霧散する。


「オイオイ、俺のショーは始まったばっかりなんだ。まだ話しは一パーセントもしてないぞ」


 マグナム拳銃その銃口が後ろに跳んだロキを捉え、次々と発砲。


「あ~あ~、今日のギャラも鉛弾かよ。いいかげん単価上げてくれないと、死んじゃうよ」


 限界を超えた速度で飛ぶ弾丸を飄々とした身のこなしでかわしたロキ。新たに現したマグナム拳銃の発砲も余裕だ。


「どうせなら、金でできた弾がいいなぁ。帰りに換金できるし、ちょうどイイと思うんだ」


 処分しようと繰り出す斬撃の数々。一振り毎に変わる剣をロキが左腕に現した水の盾で防いでいく。


「どうして、王様の癖に道化師を拒むんです」


 圧倒的な速さでロキの左右、後方にも回り込んで攻撃してくる。水の盾で防げない分は、お得意の回避を駆使すれば問題無い。


「ちょっと、器小さすぎやしませんかねぇ~?」


 受け止めた直後、ロキがサブマシンガンをギルガメッシュの腹部に向けて掃射するも、手応え無し。

 腰から風穴を開ける一突き。ロキが身を捻りながら直撃を避けつつ、襲いかかる槍を魔法で真っ黒になった左手で受け流す。


 突然、ギルガメッシュの頬が抉れる。

 一方的な攻撃に舌打ちすると同時に姿を消し、再びロキの背後から槍を振り下ろす奇襲。


「あっぶねぇ」


 床に叩きつけられて槍がしなる。軽い調子の声。僅かでも遅れていたら、脳天をかち割られているところだった。


「今さら何の用だ?」


 怒涛の連続突きは範囲が広く、回り込む事も跳び越える事も許さない。


「俺は、本日のメインイベントの前に、場を温めるための余興さ」


 後退しながらロキが余裕の口ぶり。縦横無尽の振り回しを追加されたって、肩をすくめながら話してみせる。


「なんたって、そいつは、俺より断然オモシロイからな。喜んで前座を引き受けるぜ」


 息つく暇を与えぬギルガメッシュの攻撃。繰り出す度に黒衣は破れ、体中が血に染まっていく。一方ロキは、槍を相手に楽しそうに踊っている。


 リズム良く親指を弾く。襲いかかる槍に合わせ、拳に仕込んだ小石を撃ち出していく。

 飛んだ小石が攻撃中の刹那を縫ってギルガメッシュを削る。なんの痛みもない。楽しく遊べる上に、悔しそうにする顔を拝めるのだから、ロキの笑いが止まらない。


 小細工を見切ったギルガメッシュの姿が消える。


「エンターテイナー気取りもいい加減にしろ」


 いつまでも同じ手が通じる相手ではなかった。背後から襲いかかる斧がロキの頭部をかち割り、心臓を引き裂いた。


「害虫が」

「そんな貴方にはコレ」


 くぐもったロキの声。半分に割れた口が動き、気道を失ったのに発声できている。機械的に動いた手が自身の上着を探り、アンティークなオモチャのロボットを取り出した。

 ステレオタイプな顔に付いた口から、ギルガメッシュ目がけて勢いよく炎を噴射。アルベルトに作らせた魔法道具だ。


「お買い上げ、ありがとうございま~っす」


 真っ二つになったロキの肉体が元通り一つに。置いていった斧を力任せに振り回し、ギルガメッシュを襲う。


「俺がいつ、何を買ったって」


 力任せの隙を突かれ、斧を奪い返されてしまい、返り討ちに遭うロキ。


「あら~、キャンセルですか~」

「死ね」


 残念そうにしてみせるロキを見下ろし、追い討ちをしてやろうと腕を振るう。

 現れたのは、優美な金細工を施した剣。限界まで力を引き出した途端、砕け散った。


 細やかな装飾とは違い大きな破片。その全てギルガメッシュに突き刺さる。壊した剣は、ロキが彼の武器庫に侵入した時に残しておいた木馬だ。


「コストカットも考えもんですなぁ。そんなんだから、ここぞと言う勝負に勝てない。ダメな経営の典型ですぜ」


 ここぞとばかりにパンチを叩き込んでいくロキ。殴った分だけ苦痛に殴られてしまうが、しゃべる事さえできれば、へっちゃらだ。


「ところでギルガメッシュ。俺もお前も黒が好きだな。何がいいって、ファッションで外すことはないし、イケメンの俺を更にイケメンにするし。夜の闇に紛れて泥棒だってできる。イイことづくめだ」


 煤けた黒と上質な黒。怪しい暗黒と威圧的な漆黒。笑いと暴力。同じ色を纏えど、はっきり違いが現れる。


「なのに、お前さんのコレクションを飾るスペースには、圧倒的に黒が不足している。ダメだぜ、神器(レアもん)を飾るなら、もっと自分の色を足さなくちゃ、なぁッ」


 ロキがギルガメッシュの横っ面を殴り飛ばす。殴り倒してくる苦痛で歯が二本どっか行方不明に。

 よろめきながら「おっとっと」、あり余る衝撃を利用して、バケツの中身を床にぶちまけるフリ。


「だから、お友達のドゥーカ君で、床を黒く染めてやったぜ」


 口を大きく広げ、再生したばかりの白い歯をキラリ。鼻高々にして自信満々な目で笑う。

 最高のオチを言ったつもりでいる顔。

 僅かの間ギルガメッシュは目を閉じる。


「そうだよなぁ。友達が友達の為にしたんだから、感動して涙がちょちょぎれちまうよなぁ。ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 おもいっきり笑いながら、ロキが殴りにいく。


 背後を取るギルガメッシュ。

 腕を振り下ろし、カラドボルグを現す。

 圧倒的な刀身が肩からロキを壊そうと狙う。柄を握り、神器が持つ絶大な破壊力を一気に解放しようとした瞬間。


 カラドボルグが消える。初めから有りもしなかったように。

 ロキの肘鉄が腹部に炸裂。

 後退りし、俯き気味にギルガメッシュが、何もない両手を確かめている。


「どうした? 神器は出さないのかよ? 出せよ。品切れか? babironってマジで世界中のモノを扱っている大企業なのか? その割にゃ大した事ねぇなぁ」


 指を立ててクイクイ挑発したのに、牙を抜かれた大人しさ。これはもう笑うしかない。

 唸り声が笑い声を塗り潰す。

 とてつもない不協和音が辺りを揺るがす。凶暴な獣の怨嗟。


「テメェは生かすのもメンドクサかった」


 かったるい息だった。それも長い、長い。


「同時に、この俺が殺したら負けな気がしていた。だが、今のテメェには殺す価値がある」


 取り乱した様子は一切無く、ギルガメッシュは悠然としている。


「ハハッ、そりゃ光栄だね」


 半笑いを浮かべたまま、胸に手を添えながら、大げさにお辞儀をしてみせるロキ。

 眩しい光が刃となって一閃。

 次々と描く煌びやかな太刀筋は輝く星となりロキを圧倒する。


「タンマ、タンマ、ノーマルからマストダイに上げんな。初見殺しすぎるって、グエッ、ムリッ、かんにんしてくだせぇ」


 手も足も出せないまま一方的に攻撃を受けてしまう。今までも速かったが、どうにか追いつく事はできていた。だが急に、あの鮮血の髪も、目立つ黒衣も捉えられなくなってしまう。


 攻撃の刹那。

 ロキが懐中電灯を抜き、カンで背後を照らす。


 あまりの眩しさにギルガメッシュは怯んだ。生物に向けると強烈な光を浴びせる懐中電灯型の魔法道具エネミーライトによる奇襲。


「みぃつけたっ」


 パンチを放つも、姿が消えて空を切る。逆に腹部を斬られてしまった。

 体中を光の刃で斬り刻まれながら、なんとかポケットを探り、大きい玉の付いた指輪を取り出す。

 透明な材質の玉の中には、毒々しい緑に気色悪い白の混じった花。次の斬撃が来るよりも早く、それを叩き割る。


 体中の穴と言う穴から水分を持っていかれる激しい刺激。湧いてくるネトネトでギチャギチャな遭遇。気が狂ってないと、立っていることすら困難な悪臭は、中に入っていた不吉な花からだ。


 限界を超えた速さの銃弾が六発。的を取り囲んだ上で同時に襲ってくる。当てる事を前提とした避け辛い弾道をロキがアクロバティックにやり過ごした。

 とてつもない臭害に近づかぬよう、ギルガメッシュは様々な位置から、現れては消えるをくり返し、次々と発砲していく。


「っタッ。ハハ、シュールなギャグはお気に召さないか? ってぇ~。俺は好きなんだけどなぁ。ハハハ」


 臭いは笑っていられるが、避けても避けても避け切れない銃弾にはお手上げ気味。

 高く跳んで、きりもみ回転。姿を現し、こちらを探しているギルガメッシュに六本のナイフをまとめて投げつける。


 消えた。

 直後、ロキを巨大な竜巻が飲み込み天井まで叩きつける。追い討ちに、悪魔ノ尻尾を凌駕する巨大な火炎の刃が斬った。

 動けないロキをギルガメッシュが見下ろす。


「クセェが、処分しやすくなったな」

「ヤだなぁ。リサイクルしてください、ヨッ」


 ロキが跳ね起き蹴りをかますと、見切られてしまい、反対に蹴り飛ばされてしまった。

 吹っ飛んだロキを煌めく刃が一閃。


「危いところを感謝いたしますぅ。あなたは、ワタクシの命の恩人ですわ。青騎士さまぁ~」


 気持ち悪いオカマ口調。

 真っ二つにならずに済んだのは、冴え渡る蒼き力を纏い美麗で艶やかに立ち居振る舞う時雨のおかげだ。

 襲いかかる煌めきを見切り返しの一刀を決める。


「不快で五月蝿い(うるさい)ものだから、来てみれば。ずいぶんな遅刻ね、ロキ」


 冷たく言い放つ時雨。


「いやはや見違えたなぁ~。これが美容整形って奴か。工事費いくらかかった?」


 冗談を言いながらロキが軽く立ち上がってみせる。


「貴方の命を担保にしたわ」


 微笑みながら返す時雨にロキが腹を抱えて大笑い。


「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ。イイねぇ。頭の中までイジれんなら、俺も後百倍オモシロくなれるか、試してみたかったぜ」


 時雨がロキを蹴り飛ばす。


「ッテェー。支払いはbabironって訳か」


 ロキが見上げると、時雨とギルガメッシュの鍔迫り合い。天叢雲剣の力が向こうの剣が放つダイヤモンドの輝きを飲み込み、蒼玉色に煌めく。


 消えて背後に回ったギルガメッシュを納刀する仕草で突き刺す時雨。

 無防備なロキを剣が襲う。


 時雨の放つ神速の突きがロキを吹き飛ばし、ギルガメッシュを掠る。

 死角から斬り込まれても見事に受け太刀。


「なんで俺に追いつける?」


 かったるい息が時雨にかかる。


「貴方の殺気は特に不快なの。だから、死んでくれる」

「いいや。俺がテメェを凛陽""みたいにした方が早い」


 微笑みを失い、天叢雲剣を握る力が強まった時。ギルガメッシュの頸動脈を後ろから太い針が貫いた。

 抜けた針は、しなりながら縮む一本の触手。しゅるしゅる戻っていった先はロキが持っているカラフルな笛。吹いたら軽快な音と共に紙が伸びるオモチャ、ピーヒャラ笛を魔法道具にしたものだ。


「い、やぁ……蛇の舌って、長いんだぜぇ。ッハハハ。つか……女好きだから、お友達エンキドゥがくたばっても、へっちゃらなわけだ。ハハハハ」


 首を押さえながら笑いかけるロキを突然現れたギルガメッシュが斬る。それをまとめて蒼き力が飲み込んだ。


「っぁああ。しべれねぇ。すぐれ、なぬすやがった」


 天叢雲剣が持つ鎮める力を喰らったロキはおもいっきり痺れて動けない。


「ごめんなさい。ちょっとスパイスが効き過ぎたかしら」


 時雨は全く悪びれようともしない。


「ああ、お前の甘口カレーに入れたら最高かもな。スプーンが止まんねぇ」


 ロキが冗談を言っていると、大きな矢が飛んできて黒炎の爆風を起こす。しかも、矢は一発ではなく無数だ。


「オイ時雨。露払いだ。ダメなら傘を貸せ。このままじゃビショ濡れだぁぁぁァァァ」


 遠く離れた場所で、ギルガメッシュが腕を組んでいる。大きな矢を降らす無数の射出口を備えた巨大な樽型の装置。それを二台も従えている。


「左」


 ロキのこめかみが削げ落ちる。時雨の発した言葉を聞いてなかったら、刃に頭を貫かれているところだった。

 死角から狙ってくる光線を時雨は難無く逸らしてみせる。


 大きな矢の雨。辺りに広がる黒炎。その中を縫って飛ぶ光の刀身がロキと時雨を襲う。変幻自在にうねり伸び狡猾に狙ってくる様は魔法道具にしたピーヒャラ笛以上。出力こそ神器に劣るが、力を纏った神の肉体を斬り裂ける事には変わりない。


「まるで劣化カラドボルグみたいだな。まぁ、モノホンは、俺が壊しておいたけどよ」

「それは頼もしいものね」

「あっ、信じてないな時雨。ホントだぞぉ」


 遠距離攻撃である天紅・蒼は目立つから避けられ。神速を発揮し距離を詰めても逃げられてしまう。その度ギルガメッシュは巨大発射装置と一緒に別の場所に現れて攻撃を再開する。

 いたずらに消耗する中、時雨は打開策を考えるも思い浮かばない。


「クチャクチャ、よぉ時雨。グニュッ、眉間ニュッ、シュワが寄ってるぜ。クチャクチャ」

「こんな時にガムを噛んでいるなんて、ずいぶん余裕ね」


 察知した劣化カラドボルグの攻撃軌道を時雨はロキに教えていた。だけど、粘着質な音を立てた咀嚼が不快だし、何もしようとしないので、そろそろ愛想が尽きてしまう。


「このガムいいぞ~、ハバネロエール味だ。噛んでると脳みそも冴えるし、アスリートならパフォーマンスも良くなるんだが、いる?」

「遠慮するわ」


 赤と黄の混じった、いかにも危険なガムを時雨は拒否した。


「んだよ。パッチンしねぇのに」


 時雨が一人。伸縮しては斬ってくる刃をかわし、ギルガメッシュに近づき過ぎない距離で止まる。


「本物のカラドボルグはどうしたの? まさか本当に、ロキなんかに壊されたなんて事はないでしょうね」


 ギルガメッシュが振るう度、複製品の光る刃が鞭みたいにしなり時雨を襲う。


「俺は心優しいんでなぁ。テメェ等にチャンスをやってんのさ。感謝しろ」


 紙一重でかわす時雨。その様子は余裕そのもの。


「どうやら図星みたいね」

「で、テメェに勝算はあんのかよ」


 光る刀身を投げ縄の要領で回し一気に振り下ろす。時雨は跳び退いてやり過ごした。

 捻じれて追いかける。蛇みたいに這いつくばりながら一気に襲いかかる。燃え上がる黒炎から忍び寄り死角を突く。生物的で執拗な攻撃。


「どうして動かないのかしら。葉巻とお酒のやり過ぎで疲れてしまったのかしら? この分だと私が一位に勝つわね」

「だったら逃げてないで、俺を斬りに来いよ」


 矢の雨を吹っ飛ばす先回りを横に跳んで回避。上からの突き刺しは何事も無く。追いかけてきたら、蛇行しながら駆け抜け一気に跳躍。ギルガメッシュを挑発した位置に戻る時雨。


「ただいま」


 浮かべる微笑。後ろから心臓を貫けない光の刃。複雑かつ疾い回避により刀身はこんがらがって解けなくなった。矢の雨や黒炎を避け続けるるよりも遥かに簡単だ。

 その隙に神速で迫る時雨。


「ヤキが回ったのはテメェの方だ」


 眩しい閃光が時雨の視界を奪う。限界を超えた劣化カラドボルグの放つ最後の輝き。

 ギルガメッシュが時雨の背後に現れ雷電迸る大剣を振り下ろす。

 いきなり起こる爆発。吹っ飛んだギルガメッシュの首を伸びてきた巻尺が絞め付ける。

 態勢を立て直した時雨が鞘から天叢雲剣を解き放ち居合斬り。苦痛に怯まずもう一太刀。


「クソがァッ!!」


 怒号と共に絞めつけていた巻尺が更にきつくなると思ったら、ボロボロに朽ち果てる。そして、ギルガメッシュも姿を消す。


「害虫がッ」


 ロキの許にギルガメッシュが現れた瞬間、さっきよりも大規模な爆発が起こる。


「自業自得ね」


 赤々と燃える炎の中で笑っているロキを時雨が咎める。自爆したのだ。


「女の命である髪を、ねちゃねちゃした不快なもので穢したのだから」


 気に入らない様子にロキが残念そうにおどけてみせる。


「けがしてなんかいましぇ~ん。むしろ、高天原名物、お札を貼ったんですぅ~。本家よりもちょいと粘着力がつええけどな。ハハハハハハハハ」


 ロキが噛んでいたガムは魔法道具の爆弾。柔らかくしたら、後は麗しき青い髪や床にくっ付けるだけ。それを切ったり、踏んだりすれば、たちまち爆発する。


 天叢雲剣が持つ清浄な力で時雨はありとあらゆる力を退けてきた。そんな彼女の髪にガムがくっ付いていられたのは、それ事態を認識されなかったから、ロキの嘘の方が勝ってしまったのだ。


 大きな矢の雨の次は真っ黒なエネルギーの大群がロキと時雨を襲う。


「オイ、害虫」


 先進的で曲線美に優れたボードが宙に浮かんでいる。その上に立ち、銃と呼ぶには大きい発射装置を二機携え、無数の射出口から凶星を放つギルガメッシュ。


「今がメインイベントじゃねぇよなぁ?」

「いや、夫婦(めおと)も余興の一つさ」

「初耳ね。そう言う契りは高くつくけどいいかしら?」


 ロキが、見下ろすギルガメッシュ目がけて跳んだ。


「つれないねぇ~。ノリの悪さは相変わらずかい」


 攻撃で体を削られる中、笑っているロキ。二丁拳銃を構え撃ちまくる。

 ギルガメッシュがボードを巧みに捌き銃弾を全て回避。全ての凶星を叩き込む。


「ぐわぁーーーっ」


 情けない悲鳴を上げながら落っこちるロキを跳んだ時雨がお姫様抱っこ。


「こうなる事は、分かっていたでしょう」

「助かりましたわ。青騎士さまぁ~ん」


 ぶりっ子ごと放り投げられても、体操選手ばりにロキが着地。


「オモシロかったり、ツマンなかったり、ムラのある奴だ」


 凶星から一転、今度は火炎の雨が降り注ぐ。


「アーチチッ。お前ら、仇討に時間かかり過ぎィ。凛陽はどうした? またサボりか?」


 逆撫でしてくる言葉に時雨は殺意を抑え切れない。


「教える義務はないでしょ」

「この雨は凛陽の仕業かと思ったぜ」


 ナパームを凌ぐ凍える刃、その切っ先を突きつけられてもロキは楽しんでいた。だが、天から見下ろすギルガメッシュのしつこい爆撃にはいい加減飽きてきた。


「なぁ、時雨先生。凛陽みたいに悪魔ノデヴィルスなんちゃらっぽいのを、ガンガン撃っておくれよ。俺だって鉛弾をバンバン撃って、オトしちゃうよ」

「無駄だから私はやめておくわ」


 ロキの軽いノリに時雨は冷ややかだ。


「んだよ。今のお前、最高にツマンねぇぞ。ギャグがサビついてるじゃねぇか」


 ボヤきながら取り出したペンギン型の付箋。


「ロキの趣味? やけに可愛いわね」

「なんたって、俺は女子力がメッチャ高いからな」


 まとめて引きちぎり、ばら撒くと、付箋の一枚一枚がデフォルメそのままに実体化して大きくなり、ギルガメッシュに向かって突っ込んでいく。


「それに、飛べないって言うし、飛ばしてやりたかったんだ」


 だけど、炎の雨の一発や二発でも浴びれば、消えてしまうペンギン達。ギルガメッシュ本体にこそ当たらなかったが、炎の雨を僅かに晴らし、ボードでどこを飛んでいるかを見つけ出せた。すかさずロキが二丁拳銃で反撃する。


 痛みが襲ってこない。怒号もかったるそうな声も聞こえてこない。ただ、炎の雨が降り注いでくる。つまり全て外れたと言う事を意味する。

 付箋をちぎり、ペンギン達を雨よけにして、その場を凌ぐロキ。


「ったく、時雨がドバーって攻撃しないから、俺、動物愛護団体に怒られるじゃねーか」

「あの子達には同情するわ。でも、私の技には、今のあれに対する決め手は存在しない」


 自己の力量に基づいた時雨の言い訳をロキがツマンなさそうに聞きながら、第二陣、第三陣の弾幕を放っていく。


「オイオイ、同じネタで、舞台に立ってる奴はいくらでもいるだろ。ダサいと思うなら、客を踏み台にするとか、カベを壊して入るとか、首を取ってしゃべるとか、色々やれんだろ」


 ダメ出ししながら、拳銃に黄色いバッタの模様が入った弾倉を装填していた。

 多くのペンギンの犠牲により炎の雨が晴れて、現れた灰色の天井。

 ロキが二丁の銃口を向ける。ギルガメッシュも射出口を向ける。


「まっ、俺みたいにメチャクチャ器用で、ネタのレパートリーが多い奴なんて、そうそういねぇからな。だから、そう気を落とすなって」


 炎の雨が降ってくる中、口と一緒に腕や全身を振るって拳銃をデタラメに撃ちまくる。


 発射された銃弾が床を跳ねて飛び上がる。炎に負けず、天井まで飛んだ銃弾は跳ね返る。時間差と角度差を越えて、銃弾と銃弾がぶつかり合い、それぞれの軌道を修正していく。もちろん標的(マト)が乗っているボードも利用した。


 当たらない筈だった左右合わせて二十四発の銃弾。様々な角度からギルガメッシュに全弾命中。


「ッテテテテテテ」


 全身を抉ってくる苦痛に襲われロキが身悶えする。上から悔しそうな悪態が聞こえてくる。


「器用貧乏とも言うのよ」

「グエッ」


 時雨がロキを踏み台にして跳躍。

 纏った蒼き力で炎の雨を突き破り高みにいるギルガメッシュを奇襲。

 天叢雲剣を抜き打ち。清浄なる刃に籠められた討ち滅ぼさんとする昂ぶりを閃かせる。

 着地。穢れを振り払い、鞘に収める。


「オイオイ、オォイ。主役を食うんじゃぁないッ。主役は、この俺なんだ。分かるかァ?」


 激しい身振りを交え不満を訴えてくるロキ。頭をおもいっきり踏んづけられ、格好付けて撃った銃弾も、かませ犬に成り下がった。これほどオモシロくない事はない。


「ごめんなさい。不肖の身ながら、師匠の仰った通り、芸に一工夫を加えさせて頂きましたけど、何か問題でもありましたか」


 時雨の慇懃無礼を極めた物言いにロキは笑うしかなかった。


「ッハッハッハッハッハッハッハッ。問題ねぇ。流石、ネタの為なら妹ですらポイってかぁ」


 笑っているロキの肩が切り裂け、傷口が一気に凍り付く。


「ッデェーーーッ」


 切ったのは、高速で飛ぶ刃の付いた円盤。シンプルな形状をしたチャクラムだ。遠く離れた所からギルガメッシュが、浮遊する飛び道具を現すと同時に洗練された動きで投げつけてくる。


「テメェ等、片方でもいいから、いい加減、死んでくんねぇかなぁ」


 かったるそうなしゃべり方とは裏腹に、投げたチャクラムの数は優に千を超えている。


「んだよ。この前、お前でアイスキャンディーを作った事が、そんなにイヤだったか」


 標的目がけ自動で飛んでくる円盤にロキは全身を切られ、傷口が凍り砕け散る。ナイフで弾いていくも、刃と刃がぶつかっていく内に得物まで凍り付き、根元から粉々に砕け使い物にならなくなってしまう。


「クッソー、根に持つ奴め。貸したジュース代とか、ワリカンのはみ出た奴とか、絶対忘れないクチだろ。金持ちって奴はセコイ奴ばっかだな。ェエッ、オイ」

「同感ね。でも、余計な挑発はしないでくれる」


 嗜める時雨。纏う力と振るう天叢雲剣でチャクラムを壊すも、膨大な数を防ぎ切れない。

 ギルガメッシュを仕留めようと円盤の海を力任せに突っ切り一太刀浴びせたくても、邪魔が多すぎて掠る事すら敵わず、とてつもなく離れた場所に逃げられてしまう。それを三度も繰り返していた。


「挑発? オイオイ、明るい職場がモットーなんだからもっと楽しもうぜ。ぶっちゃけ俺とのトークが楽しみなんじゃねぇのか? さっきのお前はイキイキしてたぞ。ハハハハハハハ」

「申(さる)の方」


 時雨の発する警告。気付かないロキの死角にギルガメッシュが現れ大剣を薙ぎ払った。


「アギャャアアアアアアアア」


 断末魔を上げて吹っ飛んだ後、ロキがすぐに態勢を立て直す。飛び回る無数のチャクラムに全身を切り刻まれ、傷口のあちこちが血色に凍り付いていた。


「サル? イヤだなぁ時雨。俺は蛇と狼だぜ。俺を人間と一緒にするんじゃないよぉ」


 痛々しい姿で笑っていられる様子に時雨は軽く頭を抱えてしまう。


「いいえ。人間、狼や蛇以下よ」


 ギルガメッシュは遠く離れた所からチャクラムを飛ばし、いきなりロキを斬りつけては、別の場所へと移動を繰り返していた。


「八時の方」


 その度に時雨は警告を発しながら急ぐも、無数のチャクラムどもに阻まれ間に合わず。ロキを守れる範囲に入ったかと思ったら、すぐ距離を離されてしまっていた。


「ああスマンね。占いや時報かと思って、ちょい聞き流してたわ」


 時雨の警告に耳を貸そうとはしなかったロキ。一方的に攻撃を喰らってばかりだが、とても平気そうだ。


「どうして、笑っていられるの?」

「お前さんこそ、どうしてそんなに焦ってるぅ? 余裕の無い女はモテないぜ」


 時雨はロキの言う通り艶っぽさを失い、不快を露わにしていた。


「貴方がそうさせるのよ」

「お熱いねぇ。ここら辺は寒いし、クールダウンにはもってこいなんじゃないかぁ」


 ロキは襲いかかるチャクラムを二丁拳銃で踊るように撃ち落としていた。

 弾切れになったら、空になった弾倉を飛んでくる円盤にぶつけ軌道を逸らし。両方の得物を軽く宙に放り投げたら、新しい弾倉を投げ入れて装填終了。また撃っていた。

 ギルガメッシュに斬られるまでの間は。


「俺のイノベーションに満ちたマーベラスなリロードを以ってしても、売れ残りのドーナッツは処分し切れねぇ。時雨、あの油ギッシュ(””””)な店主を叩きのめしてくれよ」


 全弾撃ち尽くし拳銃二丁を投げ付けた。それでも、飛び回るチャクラムの数の方が圧倒的に多く、むしろ数が増している。


「ぉおおいッ、ドーナッツなんてベタね、とかツッコんでもいいんだぞ時雨。時雨、時雨? ありゃりゃっ。時雨、時雨さん。ちょっと、ちょっと~。ぁぁ、あの日ならしょうがないな」


 ロキが攻撃をかわす中、時雨の姿が見当たらない。彼女が持つ冷気とは異なった冴え渡る自然の流れすら感じない。

 辺りの空気がうねり出す。ロキの周囲を飛び回り襲ってくるチャクラムが凍てつく風に吸い寄せられていく。


「害虫。テメェとなんか、誰も組みたがらねぇよ」


 天井にまで達する巨大な黒い柱。風属性を宿す剣を掲げたギルガメッシュが起こした気流で無数のチャクラムを集約して作り出した。


「お前のバベルこそハエがたかっているから、ハハッ、お友達の死体かと思ったぜ」


 手の平を上に向けてロキが挑発的に指した。


「なら、汚物同士、ちょうどいいなぁ」


 ギルガメッシュが気だるい怒気と一緒に剣から竜巻を発し、ひしめくチャクラムをかき混ぜながら、巨大な黒い柱を叩きつける。

 無数の円盤と風、旋回する刃が切り刻み押し潰す。絶対零度にまで達した魔力が辺りを飲み込んだ。


 冷気と灰に覆われた白世界。主によって限界まで力を引き出された無数のチャクラムの成れの果て。

 静寂を征くのは、鮮血の髪に皇威を放つ黒衣を纏うギルガメッシュのみ。


「よぉ、アイスキャンディーになった気分はどうだ?」


 話しかけたのは、凍ってもはっきり分かるマヌケ面、おどけて馬鹿にするポーズをした像。遠く離れた場所にある美しくも色香溢れる少女の像。時雨も粉々にしたかったが、何よりもロキを優先した。


「そして、このまま一万回。ブッ壊される気分は、どうだァッ!!」


 曲線美にあふれたハンマーを現し、叩きのめす。

 氷像を刃が貫き、ギルガメッシュの心臓を突き刺す。


「……よくないなぁ。二股なんて」


 ロキの胸を貫いた天叢雲剣。刃に流れる清浄なる力が氷を跡形も無く消し去り、しゃべる自由を与えた。


「本命はあっちよ」


 冷然と色香を漂わせた時雨の声。心臓を突き刺した切っ先の方にだけ力を集中し、ギルガメッシュを苦悶に鎮める。


「メ……す……ブ、タぁっ…………」

「ハハ、ハハハ。スランプは、脱したってか」

「おかげ様で」


 傷ついていくロキに守れなかった凛陽の面影を見た時雨。無数のチャクラムが飛び回っている中、冷静さを取り戻そうと戦線を離れ、刃を研ぎ澄ませていた。


 剣とチャクラム、風と氷を組み合わせた強力な一撃を繰り出されようとした時。勝機を見出した。攻撃を受ける刹那、清浄なる力を後ろに集中し、前面だけは凍ったふり。脱した後、殺気を極限まで消して神速を発揮。


 氷像となったロキごと天叢雲剣を突き刺しギルガメッシュを奇襲したのだ。


「ねぇ、レパートリーは多いんでしょう。何かオモシロい事してくれないの?」


 微量に流れ込む力でロキの体は再生を阻害されているが、動かす事ならできる。


「ォイ、オイ、ハードル高すぎだろ。コッチはメチャクチャ大怪我してんのに、更に事故れってか」


 ロキはイヤホンを取り出し、怒ったまま動けないギルガメッシュに付ける。


「代わりに、ご機嫌なナンバーを聞かせてやろう」


 音楽プレイヤーを再生。

 音漏れなんて可愛いレベルの大爆音。暴君の情けない悲鳴と一緒にイヤホンが黒煙を上げて壊れた。


「うるさかったわ」

「そうかぁ」


 不満を口にした時雨。背中越しでも分かる微笑に、ロキは得意になる。


「アリー、アリー。本番だぞ。まさか、ショーの前にくたばっちゃいねぇよな?」


 大声でロキに呼ばれたアルベルト。巻き添えにならないよう、できるだけ遠くへ避難し、戦いを静かに見守っていた。


 本当なら、ロキが現れてから姿を消したリザを探したかったが、ギルガメッシュの放つ大規模攻撃の中に飛び込む。そんな勇気を持ち合わせていなかった。


「アリー、マクスウェルの悪魔を起動しろ。お前がショーのフィナーレを飾れ」

「持ってません。確か、ギルガメッシュに渡した筈じゃ」


 ロキが笑いながら、ブルゾンやカーゴパンツのポケットを叩いてみせる。


「ハハハ、魔法使いのくせにポケットに夢一つ無いなんて、情けねぇなぁ、オイ」


 言われた通りポケットの中を探ると、紙切れが見つかる。広げてみたら、紅く描いた九芒星の魔法陣。アルベルトが描いた本物のマクスウェルの悪魔だ。ロキが煙幕でギルガメッシュの目を盗み、傍に現れた時には既に仕込まれていた。


「よ~し、これで準備万端。この日の為に時雨はオシャレしてるし。俺なんか、一万年前からチケットを予約してたからな。さぁ、もっと近くで俺達に見せておくれ」


 ワクワクした様子の手招きに、アルベルトは躊躇し、足が動かない。


「どうした、どうした、早く舞台に上がれ。本日のメインイベントなんだから、もっと胸を張れよ。お前の作った魔法が楽しみでしょうがないんだ」

「できません」


 アルベルトの即答。ギルガメッシュを倒す決め手を初めて起動する魔法に賭けてしまうなんて無茶苦茶だ。


「完成してたんじゃないのかよ」


 それは、集めた資料と照らし合わせ、自身の直感に基づき判断しただけ。六割まで完成させて以降、研究室を壊してしまう恐れがあったから実験していない。


「どうなっても知りませんよ」


 失敗する可能性も含めて不安要素が多すぎる。発動したら、空間にある魔力を全て一箇所に集約する。それだけかもしれないし、大爆発を引き起こすかもしれないし、何が起こるか予想できない。


「そうね。でも、メイジ五級程度の失敗。私ならどうにでもできるわ」


 時雨がコンプレックスを抉りながら冷たく言い放つ。アルベルトは、それが励ましである事を理解する。


「まっ、俺も魔法に関してはプロ中のプロだ。何が起こるかだいたい分かる」


 ずっと押してくれていたロキの更なる後押し。

 俯き気味だったアルベルトが、ちゃんと前を向いて歩き出す。皆が信じてくれている。何が起きても大丈夫。そんな安心感がある。


 今、時雨がギルガメッシュの力を封じている。倒すなら今しかない。これ以上、大事な者が倒れるところは見たくない。

 アルベルトの内にある魔力を魔法陣に注ぎ込む。

 紅い魔法陣が虹色に輝く。


「マクスウェルの悪魔よ。姿を現せ」


 光が消えた。

 もう一度、魔力を注ぎ込む。

 今度は光さえ発しなかった。


「どうして」


 もう一度、もう一度。

 もう一度。


「……どうして………………」


 起動を何度も試みた。少ない中で注げる分の魔力を注ぎ込んだ。だけど、魔法陣は最初の一回以降、兆しすら見えない。つまり。

 マクスウェルの悪魔は失敗した。


「アリー、どうした? お前さんには本物を渡した筈だぜ。まさか、俺が古いファイルにでも上書きしちまったのか」


 冗談を口にしているロキだが、落胆の色がおもいっきり出ている。


「ほぉ」


 凶暴な唸り声。天叢雲剣によって沈黙したギルガメッシュから聞こえてくる。


「テメェは、この俺に、偽物をよこした、わけだ、なぁァァッッ!!」


 耳を潰す激昂。心臓の刺し傷から盛大に溢れ出す金色の輝き。暴力的な力が清浄なる力を凌駕する。

 今度は、強大なエメラルドの煌めきが炸裂。視界を奪い取り、全てを一掃した。

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