第二章 魔法使いと神(8)
突然、ビルの階下を破壊する派手な激突。大きな揺れが全ての動きに割り込んだ。
「地震? 違う。撃ってもいない? それなら、モンスターがぶつかった? いったい」
体勢を崩していたアルベルトは、揺れの原因を考えていると、応接室の窓が強烈に光る。
派手に砕け散る窓。大穴が空いて応接室の風通しは良くなった。
舌打ち。銃の規格を超えたキャノン砲を消し、ギルガメッシュが窓のあった方へと向かう。そこに、たくさんのボールが投げこまれたので、その全てを剣で吹き飛ばす。
応接室に所かまわずバンバン熱烈な爆発と、七色に彩られた火花が咲き乱れる。アルベルトは情けない悲鳴を上げながら、魔法で防御もぜずにしゃがみこんでしまう。
火花が全て散り、黒い煙の幕が開く。そこから、銀髪と不敵な笑みが浮かんだ。
「ロキさん」
すっとんきょうな声を出すアルベルト。
「イッテェ~」
ギルガメッシュが立っていた場所に、ナイフを持ったロキが仰向けに倒れていた。
黒煙ごともう一人のロキを切り裂き、ギルガメッシュが現れる。足下には、ロキの写真を貼り付けた立体ミラーが粉々になっていた。
「ペテン師が。下らねぇ真似しやがって」
「なんだよぉ。隠密Aのこの俺が、いとも容易くやられちまったぜ」
ニヤけながら立ち上がり、すぐ的へ何かを投げつける。
姿を消すギルガメッシュ。いた場所にはギターのピックが落ちていて、バチバチと勢いよく放電し、すぐ消し炭になった。これはロキがbabironの倉庫から盗み、アルベルトに作らせた魔法道具ピッカーだ。
「よぉ、アリー。元気そうじゃねぇか」
後ろから襲いかかる縦斬りをロキは片手で側転しながら回避しつつ、空いた手でピッカーを発射。だが、剣で弾かれてしまった。
「ロキさん。港からどうやって………いや、どうして来たんですか?」
「聞いてくれよ、アリー。ギルガメッシュの奴、冷たいんだぜぇ~。俺とのパーティをすぐに切り上げて、一人でそそくさと、二次会に行っちまったんだからよぉ~」
ロキはアルベルトに話しかけながら、ギルガメッシュにピッカーを投げつけ、相手の斬撃をトリッキーな動きで回避していく。
「パーティを盛り上げるなら、俺でしょ、俺。今日の為にジョークを考えて、パーティグッズをしこたま用意したんだ。使わなきゃもったいないじゃん」
ピッカーが応接室中に飛び交い、現れては消える素早い剣捌き。エンキドゥによって床に叩きつけられたリザが、気付いたのか顔を上げる。
「気を付けろ。ギルガメッ――」
リザの背中をエンキドゥが口封じに叩く。
「おやおや、いけない護衛だ。レディは大切に扱わなくちゃ。まぁ俺も、借りた車を壊しちまったからなぁ。他人(ヒト)のこと言えないけど」
「ここまで、どうやって来た? テメェの足は口よりノロい筈だ? なぁ」
距離を詰められても、ロキは距離を取りながら、ピッカーを大量に投げて弾幕を張る。
「知ってるか、最近の警察は親切なんだぜ。頼めば、足を貸してくれるんだよ。だから、パーティに相応しい、ハイソで空も飛べちゃう奴を借りたらさ~。駐車方法が分かんなくてね」
弾幕を当然の様にすり抜けていくギルガメッシュ。
「それで、ビルにぶつけたってわけか」
「オイオイ怒んなよ。レクリエーションの一つさ。正面から入らなかったのだって、サプライズの一環なんだ。必要経費だと思っちゃくれないか」
背後を取られたロキはギルガメッシュに剣で薙ぎ払われてしまう。
「俺のパーティにはなぁ。ネズミにゴキブリ、詐欺師はいらねぇんだよ」
見下すギルガメッシュ。ロキは立ち上がりつつ、逃げながら拳銃を発砲。
「次はおはじきだ」
弾はもちろんのように避けられてしまい、ギルガメッシュが立ち塞がる。ロキは対応して拳銃を二丁に増やし、素早く卓越した銃さばきを発揮。
「なぁ、あそこでバラバラショーをした奴と、酔って吐いた奴は、なにか知ってるかい?」
ロキは撃ちながら、体をバラバラにして倒れた凛陽と吐いてしまった時雨を話題にする。
「始末した。それよりテメェ、ナンバーワンの俺が選んだ優秀なインターン生のアルベルトの周囲を、あのできそこない共に探らせてたよな?」
問いに対して、目を狙って撃つ事で注意を逸らす。その上、飛び込み前転をしながら弾倉を装填。背後から仕掛ける。
「さぁ、知らないね。ありゃ、俺より目立つんでね。ちょっと説明を聞きたかったのさ」
「テメェとできそこない共は、アルベルトとは顔見知りだよなぁ。例え、互いを知らねぇつっても、ここに、ただ偶然遊びに来ましたなんて通じねぇ。繋がりがあると見ていい」
素早く隙の無い斬撃をかわしながら、コートから弾倉を取り出し、一丁ずつ素早く装填。
「あれは、俺が貧乏で、あの娘達に百万で雇われた時だったかな~。それとも、情報屋でヘマして、恐いお兄さん達に追われていた所を助けられた時だったかな~。あ~、あの娘達の寝床だと知らずにボロ屋へ入ったら、裸を見ちゃって。妹にコテンパンにされた時だったかな」
ネタが尽き、カチャカチャと虚しく鳴るのみ。
「ありゃ、弾切れだ」
下らない話を聞かされたギルガメッシュは拳銃二丁と射手をまとめて斬り伏せた。
「本題だ。babironの社員じゃねぇテメェが、どうやってアルベルトの事を知った?」
「へへッ、俺は魔法の創始者でねぇ。魔法使いはみんな友達なのさ。よく言うだろ、友達が困っている時は助けてあげましょうって。アリーが困っているみたいだから、俺は友達として助けに来たってわけさ」
答えに納得のいかないギルガメッシュが倒れたロキを踏み付ける。
「あるbabironのビルでは、梱包システムが壊れ、警報器が鳴り、ダクトがいくつも壊れた。一人の社員が、ある日を境にイカレやがった。アルベルトの家を探る奴に、神器に関する売買のメール。そして、目の前には、港にいた取り引き相手。これが偶然か?」
嗤うロキ。
「俺は使いパシリ。まっとうに働こうと、スミス・ガーランド商会に入ったら、マーケティングに成功したのか、ギルガメッシュさんが神器をご所望と知ってね。メールを送って、オーケーって返事があったから、そのビジネスマンとして俺が選ばれたってわけだ」
舌打ちして、ロキの脇腹、頭を中心に蹴りつけ、しまいには全身にまで及んだ。
重い蹴りを喰らい呻くばかりのロキを、見ていられないリザが叫ぶように言った。
「ギルガメッシュ。私だ。私がロキに頼んだ。私とアルベルトが自由になる為に」
止まる蹴り。ギルガメッシュがリザを見下しながら、剣を取り出してロキの背中に深く刺した。
「テメェが黒幕だったところで、この詐欺師が許されるってわけじゃねぇ」
ロキから剣が抜け、そこからたくさんの血が噴き出す。それをリザが苦々しい顔で見る。
「すまない、ロキ…………正直、私は期待してなかった。あの時、外の騒ぎを聞いたから、合わせただけなんだ」
神々の宴で初めて会った時、リザはロキの存在を知らなかった。雷神トールに追われ、逃げ切る事のできた普通じゃない人間。その特異性に、ほんの少しだけ賭けてはみたが、何も起こりはしないだろうと期待していなかった。
立ち上がったロキは笑みを浮かべている。大きな傷口や服の破れた部分は既に再生して元通りだ。
「オイオイ、八日以上も経ってるし、俺をキャンセルなんてできないぜぇ~」
「そこまでして、僕たちを助けるなんて…………」
俯きがちなアルベルトは手で口を隠す。
ロキはコートから、大きく反った刃のナイフを取り出し、逆手に持って戦闘態勢。
「そういや偉い人が言ってたなぁ。接近戦ではナイフがナンバーワンだと」
鼻で笑うギルガメッシュ。
「いい姉を持ったな、アルベルト。テメェの姉は弟を自由にする為に、わざわざ神みたいなものを雇ってくれるんだからよぉ」
皮肉を言って姿を消す。強襲してくる剣戟を、ロキがナイフで受け流そうとすると、いとも容易く刃が吹っ飛んでしまった。
「折れたああああああ」
現れる追撃にロキは後退しながら、またナイフを取り出す。
「こんな事もあろうかと、もう一本」
斬り上げてくる刹那をかわし、ロキがギルガメッシュに急接近して新しいナイフを払うように振る。
残像。外した代償は背中に強烈な斬撃を貰うこと。よろめきながら振り返るロキ、相手を剣で斬る為に腕を振ろうとしたギルガメッシュが。
だが、すぐに姿を消して、側面から斬りかかってくる。それを見切ったロキが黒衣の足下を踏んでやろうとしたら、また消えてしまった。
ロキの正面にギルガメッシュが現れる。
「詐欺師、リザに何か投資して貰ったのか? 勝てない勝負をする価値はあんのか? よく考えろよ」
「さぁね。ブラの一つも、ベットされちゃいねぇぜ」
ロキが仕掛けたら横一閃が迎え撃ってくる。這うように駆け抜け懐に潜り込むと、ナイフによる抉り込んだ斬り上げを放つ。紙一重でギルガメッシュが後退し、半分に斬り落とそうとするので、強引に体を捻って軽減した。
「だったら、でき損ない共みたいに、この俺に恨みでもあんのか?」
ロキが首を傾げる。
「あったかなぁ…………………あるとすれば、俺よりオモチャをたくさん持ってる事かなぁ」
鼻で笑った後、ギルガメッシュが迫り、斬撃を次々と繰り出していく。
「ハッ、テメェはヤキトリ以下のつまらなさ。セコイだけでチープにも値しない」
速い斬撃を避けきれず、ロキはどんどん切り刻まれていく。ただ、つまんないと言われて黙っていられないのか、僅かな隙を突いて蹴りを放つと、かわされた上に足を損傷してしまう。
「ヤキトリって凛陽の事かよ。まぁ、たしかに、火遊びでアイツには勝てねぇかもな。けどよ、この俺がツマンネェって? 心外だね。お前のナンバーワンの方がナンバーワンに面白いってわけかい? ポケットの種よりおもしろいんだろうな。ギルガメッシュ」
足を再生させたロキが飛び出し、ナイフでギルガメッシュを何度も突く。
「ナンバーワンになってどうすんだよ。世界の王にでもなるつもりか。そんなのになったって忙しいだけじゃねぇの」
連続突きがギルガメッシュに一切当たらない。
「俺なら余裕でこなせる。俺にはその資質があるからな。だから、ナンバーワンなんだ」
ナイフによる乱れ切り。牽制と本命をおり交ぜた蹴り。俊敏且つ軽業師に匹敵する身のこなしで四方八方から攻撃を繰り出すロキ。なにより、しゃべる事も忘れない。
「そしたらお前は、オーディンの旦那より物知りで、ゼウスより女とヨロシクしていて、天上の主より高い場所に住んでいて、シヴァより強かったら、ナンバーワンなんじゃねぇの」
全ての攻撃をかわしながら、ギルガメッシュが笑う。
「ハハハハハ。だから、邪魔な奴を潰してくんだよ。そうすりゃ、俺がナンバーワンになるだろ」
「ハハハハハハハハハ。じゃあ、なんで、babironの幹部なんかに甘んじてるんだよ」
ギルガメッシュが蹴りを放つ。ロキとは比べ物にならない程の速さと重さの一撃だ。
「うるせぇ、機会を伺ってんだよ。待つ事においても、俺はナンバーワンだからな」
「へッ、だったら、俺はオンリーワンにでもなろうかな」
立ち上がり、もう一度ロキが切り込んでいくと、その背後を取られた。
「そう言う奴もいるよなぁ。自分がかけがえのない存在だとか。けどな」
飛び込み前転で逃げたロキだが、その先に立ちはだかるギルガメッシュの一閃。
「何も無かったらその他大勢」
喰らった直後、別の場所から現れたので、不意を突かれないよう、すぐにナイフを振り回すと、柄にずっしりとした重みが伝わる。
「価値はあっても安い」
刃が折れた。
追い討ちの斬り上げがロキを吹っ飛ばす。
「だいたいテメェ、そのナイフをどうやって選んだ。テメェにとって何か特別だから選んだんだろ。だが、俺には安物の果物ナイフにしか見えねぇ。オンリーワンだと言いたきゃな、誰からも、モブだと見られない事だ。つまり、誰からも一目置かれた特別な存在、ナンバーワンになるしかねぇって事だ」
言った後、気だるげなため息を吐いた。
倒れていたロキが飛び起きる。直後、子供向けヒーローが使いそうな銃のオモチャを取り出す。
「ビ~~~~~~~~~~~ム」
赤いビーム。不意打ちしても当然の様に当たらない。発射後、オモチャの銃がブッ壊れる。
「下らん」
命中した壁の一箇所が黒焦げだ。
「あ~あ~壊れちまったよ~。子供の遊びだぜ。大人気ないにも程があるんじゃないか~」
コートに手を伸ばし一気に飛び出すロキ。迎え撃つ為にギルガメッシュの腕が動く、とても速い。同時、相手の足下にピンポン玉を投げつける。
「ちょいと小さいが、ドッジボールだ」
白煙。それを突き破る白い玉。冷静に払いのけられ、あらぬ所にぶつかると、ピッカーよりも強い電撃を放った。
距離を取っていたロキは追加でギルガメッシュに二つ投げる。一つは避けられて床に炎を起こし。避けた先をカンで当てても、いなされるだけ。遠くで旋風の刃が虚しく唸る。
「オイオイ、こりゃあ、野球じゃないか。あのデッカい奴をキャッチャーに貸してくれよ」
「一人でやってろ」
ロキが襲ってくるギルガメッシュに電撃を放つ玉を投げつけた。すぐ横に回り込んで来たので、離れながら足止めのもう一発。
追撃をやめ、離れたギルガメッシュに天井から炎の嵐が降り注ぐ。ロキが炎を放つ玉と風の刃を起こす玉の二つを天井にぶつけたのだ。もちろん、涼しい顔でこれも避けられた。
「あちゃぁ、これもダメか。自身あったんだけどなぁ」
「相手が三流でも当たんねぇよ」
「つか、お前さんは一発でも喰らったら死ぬのか? ちょいとした段差から、落ちただけで死ぬ体質かい」
「テメェの攻撃なんざ痛くもかゆくもねぇ。喰らう事が王者の証だとほざく奴もいるが、あんなのテメェで、どん臭ぇと宣伝してんのと同じだ」
「さぁて、じゃあ俺も本気を出すとしますか」
足を広げ、深い伸脚を何度かしてから、ピョンピョン跳ねて準備運動。
宣言通りの速い走り出しをするロキ。正面にはいかずジグザグと移動しながら、三種類のピンポン玉を投げる。それをギルガメッシュが鮮やかに回避していくから、あちこち炎や風、電撃に包み込まれる。
「当たらねぇ。CGじゃねぇよな」
ロキは横っ飛び、正面や横にも宙返りと忙しなく動き。投げ方も、相手の後ろに回りこむように、山なりに、下手投げ、バウンドを追加。その甲斐あってか、やたらめっぽうに飛んでった炎、風、雷の精度が上がり、ギルガメッシュを包囲して逃げ道を塞いだ。
「ヒャッハー」
ロキがハイテンションに炎から飛び出し、殴りかかるも不在。代わりに、包囲ごと壊す強烈な斬撃を貰ってしまう。
「俺のショーが終わっちまった。グスン」
不様に倒れたロキの姿を、ギルガメッシュが鼻で笑う。
「茶番とショーを一緒にしてんじゃねぇよ。詐欺師が」
「イヤだなぁ。そんなに茶番、茶番と仰いますなら、ナンバーワンがここをバーンと盛り上げるか、幕を引けばいいだけの話しじゃないんですかぁ」
既に立ち上がっていたロキは、スポットライトを浴びた様に生き生きと腕を広げ、サーッと下ろす仕草をする。
「テメェは何がしたいんだ? そこの姉弟を助けに来たんじゃねぇのかよ」
「俺はいつだって真剣そのもの。けど、どっかの誰かさんは、手を抜く事においてもナンバーワンの様だ。もし、お前さんが本気を出してたら、俺なんてプチっと終わるよ。でも、俺のしゃべりの熱烈なファンみたいだから、トークショーの時間は無制限ってなもんだ。違うか?」
挑発的な身振りをした後、ロキがギルガメッシュを指す。
ロキに急接近してくるギルガメッシュ。織り込み済みなのか、引きつけるだけ引きつけて跳び退く。
「サインは後にしてくれ」
ロキの立っていた場所には、置き土産のピンポン玉が二つ。踏んだとほぼ同時にギルガメッシュは跳躍。僅かに遅れて床から炎が噴き出す。
「ヘェ、ナンバーワンも動じるんですねェ」
腕を大きく振り、膝を高く上げて、ロキが部屋中をコミカルに駆け回る。
ギルガメッシュの舌打ち。剣を取り出して、上から凛陽みたいに真空の刃を放つ。
ロキは飛び込み前転で回避。当たった場所にはピンポン玉が落ちていて、炎に電撃、風が吹き荒れる。
「凛陽のパクリか? ハハッ」
挑発を無視して着地。直後にギルガメッシュが跳んだ。電撃が床に迸る。
「テメェ………………」
怒りで口元を歪ませ、風車をかたどった鍔の曲刀を一振り。
応接室にゆったりとした気流が発生し、大量のピンポン玉が埃と一緒に浮かぶ。全てロキがギルガメッシュの隙を突いてばら撒いたものだ。
「なんですか、コレ!!」
「こいつで宝を探したら、簡単に見つかりそうだな」
悠然と滞空しながら、もう一振り。風がギルガメッシュの指揮の許、ピンポン玉の群がロキに向かって集中砲火。
電流を帯びた炎の竜巻が発生。ロキが出す「ギャアアアアアアアアアアアア」の断末魔。
ピンポン玉の全てがロキに飛んだわけではない。指揮から漏れた一部が余波となる。アルベルトは魔法でやり過ごし。リザはエンキドゥに踏み付けられながらも、守られてもいた。恍惚とした時雨は災禍になすがままだ。
竜巻が治まり、ボロボロに倒れたロキの姿が現れる。
「どいつもこいつ散らかしやがって、掃除する方の身になりやがれ」
「ハハハハハハハハハ。全部ロストボールになっちまった。さすがナンバーワン、豪快なOBだぜ」
悪態に答えてあげるロキ。
「ツマラねぇ上にメンド臭ぇ奴だな」
「ハハハハ、電気の威力は透ちゃんの足下にも及ばないし、炎はありゃぬる火だな。これじゃあ、お互い死ねねぇや」
ロキに頼まれてコツコツ製作したアルベルトは「どうせ」と陰ですねてしまう。
「こりゃ、意地でも一発決めてぇな。もちろん一発とは言わず、百倍決めたいけど」
気合いと共に拳を鳴らし、広げた手の平から閃光手榴弾が落ちる。
眩しさを鼻で笑っていると、今度は咽るような煙が辺りを包む。
「さて、かくれんぼといこうか」
動じないギルガメッシュ。辺りを煙幕が破裂する音と、そこから生じる白煙が塗り潰していく。
「ピィーッ、ピィーッ。火災発生、火災発生、babironの応接室で火災発生。大人しく係員にぶちのめされて下さい。ってか。ハハハハハハ」
それにロキのふざけた声だけ。
完全に視界が白むと、不意を突く二つのピンポン玉。
煙もろとも吹き飛ばそうとギルガメッシュは剣を振るう。衝撃波がへこんだピンポン玉を壊し、眩しい炎の旋風が壁となって視界を遮る。
連鎖的に電撃が発生し包囲。意表を突いた。
天井近くまで浮いた六つのピンポン玉。炎の旋風による上昇気流で浮いたものだ。それが重力に従い、ギルガメッシュに落下。ぶつかると同時に破裂、ネバネバでグッチャリした粘液に絡めとられる。
驚愕、嫌悪、屈辱、恥辱、激昂。
「よぉ、イイ面だな。俺がもっとイケメンにしてやるぜ」
悪辣に笑うロキ。重さの乗った勢いあるパンチを、身動きできないギルガメッシュの頬に叩き込んだ。
野性味ある端正な顔がおもいっきり歪んだ。
そのすぐ後、ロキの顔面が、さっきギルガメッシュを殴った様に歪んだ。体もその衝撃に屈して床に倒れ転げる。
「い゛っでぇぇえええ」
そんな中、粘液で自由に動けないギルガメッシュが、低い唸り声を上げて力任せに縛を解いた。
「テメェはヤキトリより弱ェくせに、ウゼェにも程がある」
踵を返し離れていく。倒れても、ロキはそれを煽らずにはいられない。
「なんだよ。俺はここだぞ。俺がお前の一張羅を台無しにするのが怖いのか? そんじゃあ、お前だってナンバーワンのチキンだぜ」
ギルガメッシュが立ち止まり、背中越しに見てやる。
「ほざいてろ。テメェの処理はナンバーワンのする仕事じゃねぇ」
「仕事を選ぶのは贅沢だって、キャリアカウンセラーのお姉さんが言ってたぜ」
指を突きたて、舌を出しても、余裕を醸した歩みを止められない。
ギルガメッシュが静かに止まり、ゆったりと手を挙げる。
ピィィィィンッ。頭を揺さぶりそうな高い音が響いた。
「グホォッ」
ロキが吐血した。脇腹に食い破るような惨たらしい穴が空いた。そこから光る甲虫が飛び出し、瞬く間に霧散した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます