第一章 探しもの(4)
夜、ロキ、時雨と凛陽がアパートの前まで戻ってきた。
「あーー疲れた。疲れだけ、捨てられないものかねぇ」
ロキは戦利品に満足していたが、ガラクタでパンパンになったゴミ袋を二つも提げて、一時間以上の道のりを歩くのには参った。
「お姉ちゃん。アタシが、体中に付いた穢れを隅々まで落としちゃうからね」
凛陽もゴミ袋を二つ提げている。ロキの持ち切れない分を時雨が持とうとしたから、代わりに持ってあげたのだ。
「アパートが危険、離れた方がいい」
大家の部屋には灯りが点いていない。それだけなら時雨は警告しない。二階にある、全ての部屋のドアが開いていたからだ。
一斉に開く一階のドア。そこからギャングが続々と出てきて、その数は十二人。皆、黒いスーツに身を包み、アサルトライフルを携えている。
一斉射撃。
気付いた時には既に手遅れ。押し寄せてくる弾丸。衣服を破り、肉を引き裂き、内臓を遠慮無くかき回し、脳を無慈悲に壊していく。
二階の玄関の影から小さな光弾が無数に発射される。命中すると小さな爆発が発生し、周囲の壁や道路を簡単に陥没させる。四肢をもぎ取り、胴体なら大きい穴を空けてしまう。
砲火が止む。十秒にも満たない時間だった。
ロキは脳みそをぶちまけ。左肩を失い、左腕は遠くに持ってかれた。身体は無数の弾丸で蜂の巣になり、脚はひしゃげていた。
時雨の顔はきれいなまま人形の様。ただし、夜に輝く様な髪は鮮血に染まる。防御しようとした両腕は跡形も無く吹き飛び。腹部から道路が見え、辺りは臓物の破片で色づいていた。
姉を庇おうとした凛陽。いたずらに弾丸を顔に浴び、伸ばした指はズタズタに千切れ。身体は光弾によって、あちこち破裂し捩じ切れそう。脚に至っては両方とも失っていた。
「片付いたな。後は刀を二本回収して、ランギさんに届けるだけだ」
「今日の仕事はいつもより楽だったな」
ライターに火を点ける音、笑い声、ギャング達は完全に仕事が終わった様子。その中で、昨日ポーカーをしていたサングラスの男が倒れているロキに近づく。
「昨日、俺にイカサマしたヤローじゃねぇか。ザマァみろ」
ロキの顔に唾がかかる。
口元が歪んだ。これから驚くマヌケ面が楽しみだ。悲劇的な死を嘲笑え。安穏とした生者を欺け。殺した奴が、殺された奴に殺される様子を哄笑(こうしょう)しろ。
「クックックク、ハッハッハハハハハハハハハハ、ヒッヒッヒヒヒヒ」
ぬらり、ロキは操り人形の如く立ち上がる。脳みそぶちまけられた頭は時を巻き戻したみたいに埋まっていく。吹っ飛んだ左腕は何事も無かったかのように元通り。かかった唾を左手で拭いてみせる。
死者の復活。寄って来るロキにサングラスの男は怯える。
「なぁ、ハンカチ貸してくれないか。手が汚れちまってさー」
左手を、唾を吐きかけた男の頬でねっとりと拭う。
「ありがとう」
ロキのニコリとした笑顔に男が後ずさる。見ているギャング達も銃を構えてはいるが、不気味な相手に引き金を引けずにいた。
凍える風が吹き荒び雨を呼ぶ。一滴、一滴が暗澹(あんたん)を謳い、怨念を唱え。それが狂おしい叫びの如く降り注ぎ、水面から蒼い幻影が浮かんだ。
霞の如く漂う蒼い幻影。金糸に輝く白き髪を持つ亡骸へと集約し。美しくも畏怖すべき力に満ちた光の柱が立ち昇る。
雨は止んでいた。凍える寒さから動きやすい温かさに。水たまりは一切無く、衣服も全くと言っていいほど濡れていなかった。
今度は辺りに火花が散り。やがて発火。火は燃え滾(たぎ)る業火となり、壁や道路を侵略していく様は地獄を彷彿とさせ、銃器を構える賊を圧倒する。
灼熱の真っただ中、ロキが手で扇ぎため息をつく。
息を絶え絶えにして立ち上がる時雨。苛まれた様子で憔悴している反面、傷は跡形も無く治り、ボロボロに破れた制服も新品そのものに。
「ちが………う……………私は………………………………」
「時雨、見ろよ。お客さんだ。盛大にもてなしてやろうぜ」
「熱い………………」
「………お姉ちゃん?」
凛陽はむくりと立ち上がるが眠そうだ。
「ロキ、生きてたんだ。あのまま死ねばいいのに」
「うっせ、こっちはお前のせいで、バーベキューの肉なんだよ。火力下げろ」
灼熱にまいる時雨。その様子に心を痛めた凛陽は「ごめんね」と謝る。
凛陽が腰に差した刀を握り、気合いを溜める。溜める。頂点に達し、解き放った一閃(いっせん)が辺りを焼き尽くさんとする業火を鎮めた。
火は消えず、凛陽だけが燃えていた。否、力を纏っていた。ポニーテールを結んだゴムは弾け飛んで消し炭に。髪は茶から荒ぶる炎を体現し。持っている刀からも絶えず炎熱を発している。
「ブッ殺す!! よくも、太陽だって霞んじゃうくらいキレイなお姉ちゃんに、物騒なモンをブッ放したな。この虫ケラが!!」
「ば、化け物」
サングラスの男が発砲する。凛陽は構わず突進。弾が命中しても肉は抉れず、ちょっと痛いだけ。間合いに入った瞬間に斬り上げ、力任せの薙ぎ払いを喰らわせる。
吹っ飛んだサングラスの男が苦痛の叫びを上げる。凛陽に斬られた箇所は燃えていた。にも関わらず、まだまだ戦えそうな雰囲気で立ち上がる。
「なんでぇ。アタシ、ちゃんと斬ったよ。どうして死なないの」
凛陽が意味分からないと、刀を振ってむかつきを表す。
「おいおい、俺がぶちのめす筈だったのに横取りすんなよ」
ロキがニヤけた調子で凛陽に声をかけた。
「ありゃ人間じゃねぇ。化け物だ」
「どうする。逃げて体勢を立て直した方がいいんじゃないか」
「戻ってどうすんだよ。ランギさんにブッ殺されるぞ」
ギャング達は戦意を喪失するどころか引き金を引く。
飛んでくる弾丸、降ってくる光弾に、意を介さない凛陽とロキ。ただ時雨だけは身がすくみ震えていた。
「だいじょうぶ、お姉ちゃん。あんな奴らアタシが全部片づけるから」
「時雨は特等席かよ。まぁ、ゆっくりしとけ」
凛陽が素早くサングラスの男に斬りかかる。と見せかけて、その脇を横切る。代わりに、遅れてきたロキのパンチが顔面を陥没。
砲火を駆け抜ける凛陽。ギャング達を次々と炎の刃で斬っていく。逃げた奴には、人間離れした脚力を活かした鋭い突きを喰らわす。暴れた跡に残る炎が花の如く咲き乱れる。
二階から狙ってくる光弾が凛陽の頭に命中。脳震盪を引き起こしそうだ。
「あーっもう。ウザい。ロキ、サボってないで、撃ってくる奴らをどうにかしてよ」
「オイオイ、観察は大事だぜ。オーディーンの旦那だって言ってたんだからよぉ」
起き上がろうとするサングラスの男を踏み付けながら、ロキは呑気に言った。
「サイテー、サイテー。全部アタシがやりゃいいんでしょ」
凛陽が二階へと跳躍する。しかし、アパートのフェンスに足が到達する前に、隠れていたギャング達が撃つ光弾の餌食になってしまう。体は耐える事ができても、受けた衝撃により吹っ飛んでしまい、地面に叩きつけられ伸びてしまった。
「あちゃぁ。こうなるから観察してたんだよ」
ロキが額を押さえていると、銃弾と光弾が飛んできたから、体を反らす、横っ飛び等の動きで回避していく。
倒れていたギャング達もすぐに立ち上がり攻撃再開。ロキに当たらないと見るや、戦場の隅っこで責め苦にうなされている時雨に狙いを変える。
撃たれるままの時雨は苦悶の表情を浮かべ、小さな悲鳴を上げる。
「お姉ちゃん!!」
姉の危機に火が点き、凛陽が飛び起きる。すぐさま一直線で駆けつけ盾となる。
「いいぞ。このままガキ共に集中。ブッ殺せ」
しつこく体中を突っついてくる銃弾、破裂するたび激痛が襲ってくる光弾。纏う炎でも無力化できないけど凛陽は我慢できる。
「リ……ヨ……」
守るよりも前に出て、ギャング共を片っ端から斬ってった方が手っ取り早い。そんなの分かっている。でも凛陽は、攻撃を浴びて苦しんでいる時雨を放っておく事なんてできない。
「ロキ、サボってんだったら、アンタがお姉ちゃんの盾になりなさいよ」
攻撃が飛んでくる中、ロキは反撃しようとせず様々なストレッチに励んでばかり。
「イヤだよ。俺がやったって誰も感動しないだろ。準備運動の方が百倍楽しいぜ」
走り出すロキ。低い姿勢でジグザグに動きながら、手近な奴の懐に入り込んで殴る、殴り倒す。それを踏み台に高高度な前宙を披露。一人を巻き込みながら着地すると、光弾が飛んでくるので、それが追撃になるようギリギリで回避した。
ロキが機敏に走り回り、あちこち飛び跳ね、ギャング達をかき乱して攻撃を分散させる。
「ごめんね、お姉ちゃん」
背を向けたまま謝った。攻撃が向いていない内に終わらせようと、凛陽が時雨を置いて斬り込んでいく。
「凛陽。俺はパーティの準備で忙しいから、下で無様に踊ってな」
「ハァッ、またサボる気」
怒るのも無理もない。共闘しようとしたら離れてしまうからだ。
凛陽にギャングの相手を投げたロキは、銃弾や光弾の雨あられに遭いながらも無事だったゴミ袋を一つ拾い、時雨がいる方へと向かう。
「銃弾で腹いっぱいか。なら、少しは運動しねぇとな」
横切って後ろにあったゴミ袋を回収。急旋回してアパートを囲う塀へと突っ走り、軽々と飛び越える。
光弾が塀を削り、逃げ込んだロキをあぶり出そうとした。
「|腰抜け(チキン)はどうでもいい。巨乳を殺(ヤ)れ」
再び的にされてしまう時雨。さっきは動こうともせずされるがままだったが。今はふらふらと虚ろな足取りで避けようとする。
アパートで待ち伏せして、刀を持っている奴等を殺し、それを回収する簡単な仕事。
二階の角部屋。ドアを全開にした玄関の暗がりに隠れ、光の炸裂弾を発射する、散弾銃やライフルに近い形状をした魔法道具バーンショットを撃つ。一階のアサルトライフルを持った仲間よりも安全だし、防御魔法を施したスーツも着ている。
襲撃は成功。だけど失敗した。神と魔法が存在する世界で想定外と言うのはいくらでも起こるものだ。標的が三人生き返った。冷たい嵐を起こし、紅蓮地獄を見せた。怪物じみた素早い動きと炎の刀で反撃してきた。
動けない白髪の巨乳を撃てば火の玉ガールが庇ってくる。うるさい男は逃げた。後は死ぬまで撃ち続ければいい。唯一残念なのは、女を生かしたまま持ち帰れない事だろうか。
アパートの手すりを颯爽と走る影。
「ヤローがそっち行ったぞ」
警告しながら前に出て男の背中を撃つ。
「落ちろ」
「くたばれ」
各部屋に隠れた仲間が走る男にバーンショットを撃っている。
持ち場に戻ろうとすると、顔面を襲ってくる衝撃。
全身が痛い。突然体が六畳間まで吹っ飛んだ。
影よりも濃い影が迫ってくる。
不気味な笑い顔が足音も無くこっちに迫ってくる。
ロキが手すりの端で急に止まる。
手すりを走っていたのはロキじゃない。捨てられた暗幕を人型にし、頭部に銀色のスプレーを吹きつけた身代わり。
アパートの雨どいに、針を付けたワイヤーを投げ縄の要領で引っかけピンと張る。それに身代わりを吊るして、二階のギャング達の注意を引くようシャーッと滑らせたのだ。
「チクショウ、ダミーだ」
「女だ。弱っちいのを狙え」
時雨と凛陽にギャング達はすぐ狙いを変える。
角部屋から「助けてくれぇ」と振り絞った叫び声が。
隣の部屋にいた仲間が様子を見に中へ。
バーンショットを構えたまま、ぐったりと座り込んでいる。顔はトマトを潰したくらい血で真っ赤。
引き金を引く。様子を見に来たギャングの胴体に光弾が炸裂。腕に、脚に、頭に次々と衝撃が襲う。やがて倒れた。
座り込んだギャングの後ろから、ほくそ笑むロキ。二人羽織をするように座り引き金を引いていたのだ。
駆けつけて来る足音。見えたギャングの姿に引き金を引く。
カチッ、カチッ、カチッと言うだけで、バーンショットは光弾を発射しない。
「なんだコレ、安物をつかましやがったな」
「ヤローだ。ヤローがいるぞーーーッ」
撃たれる前に、ロキが使えなくなったガラクタをギャングの頭に勢いよく投げつける。
怯んだ隙にロキが鋭い飛び蹴りをかます。
「やりやがったな。クソが」
アパートから飛び出したロキに、ギャング二人からバーンショットを向けられる。
「パパラーッチ」
突然、眩しい光がギャング二人の目を眩ます。壊れたデジタルカメラのフラッシュだ。
手すりを支えに体を浮かしたロキが二人をまとめて蹴り倒す。
床に落ちたバーンショットを二丁持ち、トドメを刺そうと撃ちまくった。
「二階がやられた」
「アンタもやられんのよッ」
時雨への攻撃が手薄になり、動きやすくなった凛陽が下のギャング達を一掃していく。
呻き声に気付いたロキ。さっき飛び蹴りを喰らわした奴が逃げ出そうとするから、顔面に膝蹴りを見舞う。
「俺から二度寝のプレゼントだ。グッスリできるぜ。ハハハハハハハハ」
冗談を飛ばし笑った。
「もう大丈夫だよ。お姉ちゃん」
刀を収める凛陽。髪は赤から茶に、ポニーテールも元通り。
初めてやった命のやり取りの後にも関わらず、凛陽には恐怖や罪悪感が見えない。むしろ充実感に満たされた晴れやかな笑顔をする。
目覚めてから戦いが終わった今も、時雨はとにかく不快だった。辺りには銃、血、火傷、死があちこちに蔓延している。
「お姉ちゃん大丈夫? こっち来れる? 傷とか服とか、パッと見大丈夫そうだけど、痛いとこあったら遠慮せずに言ってよね。それとも、穢れたしお風呂入りたい?」
なにより死に近づいてしまった妹。獅子奮迅(ししふんじん)にギャングを殺していった凛陽が、今はとても不快(とおい)。
呼ばれたから行こう。そうしないといけない気がする。小さく頷き、歩き出す。広がっている死に一歩でも近づかぬよう俯き気味に。
「お姉ちゃん!!」
制服が真っ赤に染まっていた。鈍痛が襲いかかり呼吸が苦しい。腰から腹部にかけてコンバットナイフが刺さったからだ。
「見たか、イカれシスコン。俺達ギャングはただじゃ殺られねェぞォッ」
刺したのは、凛陽に額や胸を斬られて大火傷を負ったギャングだ。
死。死が襲ってくる。でも死なない。手を血に染める凛陽の姿が時雨の脳裏をよぎる。それが不快。
「妹を穢したくなければ、怒りに身を任せろ時雨」
入ってくる声に従い。よろめきながらも体を柔軟かつ機敏に捻り、鞘に収めたままの天叢雲剣でギャングの側頭部を殴った。
気が付いた時雨。自分が倒したギャングを前に顔を青ざめる。天叢雲剣を落とし、息苦しいから胸を押さえてしまう。体が再生する過程で、刺さったナイフを追い出すのが分かる。なのに痛くてしょうがない。吐き気が催してくる。
後ろから温もりが伝わってくる。ほんの少し不快じゃない。
「ごめんね。アタシがお姉ちゃんを守らなきゃいけないのに、ごめんね」
「………凛陽………………………………」
凛陽が時雨を後ろからそっと抱きしめてくれていた。もう大丈夫になった。
生き残ったギャングが目を覚ます。スーツを脱がされ下着姿だから体が冷える。待ち伏せしていたアパートの二階の手すりに手首や胴、足首を縄できつく縛られていて身動きできない。
「うわぁあっ」
眼前に広がる死屍累々の山。仲間のギャングが下着姿で深い火傷や血に塗れていた。おまけに辺りがとても酒臭い。
「よかった。作るのに苦労したぜ。どうだ美味そうだろ。俺特性のケーキって奴だ」
「ふざけんなっ、なんのつもりだ」
覗きこんで笑いかけるロキに、狼狽えながらも抵抗するギャング。その首筋に刃が突きつけられる。
「ふざけんな? それはこっちの台詞よ。ウチに帰ってきたら、いきなり銃撃とかありえないし。てか、生き返ったからよかったけど。普通だったら死んでたからね。なんでアタシらを撃ってきたの?」
「チクショウ、クソアマ。化け物女。消し炭にしてみろバーカ。呪われた姉妹め」
質問に答えず悪口ばかりでうるさいから、凛陽が刀の柄でギャングの頭を殴る。
「呪われた姉妹? ハァッ、美人姉妹の間違いでしょ!! アンタ今の立場分かってんの」
もう一発、凛陽がギャングの頭を拳で叩いた。
「ランギはどうやって刀の事を知ったの? 言いなさい」
「さぁな。俺は下っ端だから、このボロアパートで仕事だって言われただけだ」
「嘘つくなし」
納得のいかない答えに凛陽が更に一発喰らわせる。腕を振り上げると、ロキにつかまれてしまう。
「なに? こいつ絶対知ってるでしょ」
「違うんだよなぁ、ネタが単調なんだよ。俺ならアイツをもっと楽しませられる」
凛陽は「ハイハイ」と気だるそうに壁へ寄りかかる。交代したロキがギャングの肩をバンバンと叩いて勝手に盛り上がる。
「よぉ、俺が作った特性ケーキ。せっかくだから、君にも分けてあげようかなと思うんだ」
「いらねぇよ。この野郎、解けよクソがッ」
きつく絞められた縄から脱出しようとギャングが暴れる。二階だから落ちたところで逃げる事はできる。
ロキがナイフを躊躇いなくギャングの手の甲に刺す。痛みと血、叫びが噴き出す。
「簡単な質問に答えるだけだ。そうすりゃ、後は自由だ。第一問、オーガのランギはどこから刀の情報を手に入れたんだい?」
「大家だよ。ここの大家がランギさんに、珍しい刀があるってチクったのさ」
痛みを我慢しながらギャングは口にする。
「あのクソ大家。帰ってきたらブッ飛ばす」
凛陽は怒りを露わにして床を蹴る。
「オッケー。その調子で第二問いってみようか。オーガのランギは今どこにいるぅ? ランギさんが欲しい刀を、君の代わりに俺がお届けしちゃうよぉ~」
「嫌だね。死んでも答えるもんか」
「おもしろくねぇなぁ。話した方が楽になるぜぇ」
耳元でロキが囁く。ベッタリと血の付いたナイフを、答えないギャングに見せつけてみる。でも動揺しない。
「オーガのランギはどこに住んでんだ? 俺にも教えてくれよ」
腕を広げながらロキはギャングの頭上で質問する。返答は無い。
ナイフを刺した手じゃない方、ロキは小枝を折る感覚で指を一本だけ折る。悲鳴が。
「オイオイ、もっと盛り上がっていこうぜー。だんまりとかありえねぇよ」
「ぅぐっ、ボスの場所をテメェらに売るわけねぇだろ。意地があんだよ」
口笛を吹きながら、もう一本の指を折ろうと力を加えるロキ。じりじりと伝わる痛みをギャングは我慢するが、痛みが長引いただけでけっきょく折れる。
「カッコイイね。感動しちゃうよ、俺」
ロキが白い蛇を腕に這わせ、ギャングの肩を強く握る。
白い蛇がギャングの首に巻きつき、舌を出して威嚇。
「いいだろぉ、この蛇。俺のなんだぜ。コイツに噛まれたら、ゆっくり、ゆっくり、ゆーっくり、ドクドク、ビリビリ、体が重たくなって、なのに痛くて熱い、最高の体験ができるぜ」
ギャングの引きつった笑い。全身に立つ鳥肌、増えてくる汗。
「こ、ここんなことししたって、俺が死ぬだけでランギさんの居場所はわからないぜぇ」
白い蛇は首に巻きつくのをやめて、舌をチョロチョロと愛嬌を見せつつ縛った腕へ。
「だなぁ。凛陽、そろそろ、そこのケーキをお前の刀で焼いてくれねーかな」
ため息。それでも凛陽は一気に走りだし、ギャングの頭を踏み台にして跳ぶ。
「ハァァァァァァァァァァァッ」
雄叫びと共に宙を舞う凛陽。再び赤くなる髪、吹き荒れる熱風。気化したアルコールに引火し、辺りは炎に包まれる。
燃え盛る紅蓮の刃を凛陽が着地と同時に地面へ突き刺す。猛火がギャングを積んだ山を飲み込み火葬場へと変える。
「ヒィャァアアッッホォーーウゥ」
盛大に歓喜するロキ。山の中には生き残りがいたのか、生きたまま燃やされる断末魔が。仲間の惨たらしい死にギャングが悲鳴を上げてしまう。
「さぁ、選べ。生きたまま燃やされるか、毒でゆっくり死ぬか、出血大量で死ぬか。それともランギの場所を吐いて生きるか。選べ」
「さっさと殺せーーーッ!!。どのみち助からねぇじゃねぇか」
「ロキ、アンタが楽しそうで羨ましいわ。人でなしって感じがして」
燃やした凛陽が冷めた様子でロキを見上げる。
ロキが嬉々としていると、ナイフを刺したギャングの手に白い蛇が噛みつく。みるみる内に傷口がきれいに塞がった。
「朗報だ。死んだら俺が蘇らせる。そして、また質問する。どうだ、安心して死ねるだろ」
ズキズキとした痛みが消えた。突然の出来事に、訳が分からないギャングは声も出ない。
「時雨―、時雨―、時雨―っ。ちょっとこーい」
ロキに大声で呼ばれて時雨が出てくる。燃え上がる山に目を背けてしまう。倒れたギャングを運ぶのが嫌で大量の酒を買いに行ったら、こんな光景を目にするなんて思考が及んでいなかった。
「できたか? その~、ろっくかいじょってやつ」
「なにをした、テメー。俺のスマホで何をする気だ。なにをするきなんだ」
頷く時雨。ロキは持っているスマートフォンを奪い、まじまじと見てみる。
「このすま~とふぉんで、どうやってランギに話しかけるんだ?」
「ヤメろ。やめてくれ」
時雨は無言でロキからスマートフォンを借りて素早くランギに電話をかける。
「耳に当てて」
時雨の言った通りにすると「誰だ」と野太いランギの声が聞こえてくる。
「……エリックです。ランギさん、例の刀を二本きちんと回収しました」
初めての電話に少し戸惑ってしまったものの、ロキが声色を変えて部下を装い、ランギと話しをする。ただ本物がうるさいから、奪っておいた銃を口に突っ込んで黙らせといた。
怪しまれずに話しを終えた。スマートフォンを時雨に預け、突っ込んだ銃を口から抜く。
「さて、ランギに刀を届ける約束をしたし。俺が届けてあげたいんだけど、場所を知らないんだよな~。この新人に道案内をしておくれよ。セ・ン・パ・イ」
「知るか。殺せ」
唾を吐き捨てるギャング。その態度にロキは「ふ~ん」とわざとらしく唸る。
「いいぜ。望み通り殺してやるよ。ランギさんの手でな。俺が故売屋に回収する筈の刀を、お金に換えてやる。お前は高級ホテルでお金と一緒にグースカピー。風の噂で聞きつけたランギさんがお前を探し出して、ドーーーンッ!!」
耳元で大声を出してやったロキ。その後、笑みを浮かべる。
「刀を売ってどうすんだよ。刀があってもランギさんに勝てないだろうが、まさか、素手でやるつもりじゃないよな?」
「ご心配ありがとう。特別に教えてやるよ。ウチには戦闘はからっきしでも、刀を創る事ができる神がいてね。お前達が散々イイ的にしてくれた時雨だよ。時雨と言うのは仮の名前、田(た)霧(きり)姫(ひめ)が真名さ」
「へっ、そんなことができるか。そんなことが」
信じられないのに弱気な声、より多く流れる汗。
「妹の凛陽こと湍津(たぎつ)姫(ひめ)が持っている炎の刀は、田霧姫が丹精込めて作った刀だ。テキトーに創った刀を売ったら、後はお前さんが泊まりたいホテルに運んでおいてやるよ。ハハハハハハ」
時雨と凛陽は力こそあれど、田霧姫と湍津姫では無い。高天原の神を知らないエリックはロキの話をすっかり信じてしまう。居場所を吐けばボスを売った事になる。このまま拷問を耐え抜いても、刀を横領した事になってしまう。
「わかったよ、ちくしょう。場所を教えてやる」
素直すぎる答えに、ロキは一瞬つまらなさそうにした。
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