1号車3列

 1歳か2歳の頃、俺は東京に住んでいた。その頃は、よく親父に連れられて「ホリデー快速富士山」に乗ったものだ。あの時は確か…「ホリデー快速河口湖」って名前だったか。ホリデー快速河口湖は快速列車だったから、特急券もいらないから安く乗れたんだよな。その後10歳でこっちに引っ越してきた後も、時々乗りに行ってたなぁ。

 ……懐かしいな。








 「どうだい。やはり1年半置いたままだったから所々傷んでいるがね」

「すげぇ…」

こんな近くで会えるとは。後輩も驚きを隠せないようで、さっきから目を見開いている。

「やっぱりすごいっすね」

「そうだろう。いくら傷んでいるとは言え、国鉄形としての威厳があると思わないかい?」

「思いますね。やっぱり国鉄形は嫌いになれませんね」

「確かにそうだ。そう思う人がJR内部にも多くてね。解体するに出来ないんだよ。」

「それでこのプロジェクトが始まった、と」

「そういう事だ。そうだ。ずっと外にいても寒いだけだから、中に入ってみないかね?」

「え、良いんですか?」

「もちろんだよ」

そういうと、プロジェクト長はポケットからジャラジャラとなる鍵を取り出した。

「えっと、乗務員室の鍵は…これだね」

ガチャ、となると扉を開けてはしごを使って登っていった。

「さあ、足元に気を付けてどうぞ。」

「おい、先行っていいぞ。」

後輩に譲ると、彼は嬉しそうに笑って登っていった。相当嬉しかったようで、俺もあの笑顔は見たことがない。彼はどちらかというと女子的な顔つきをしているので、女子にも男子にもモテるようだが、まるで彼女とどこかに遊びに来たような感覚さえ覚える。だが、彼は男子である。

 続いて俺も車内へと入る。1年半もここに置いてあったとは思えない。すぐにも走り出していくのではないかと思えるほど車内は綺麗だった。というか乗務員室に入るのも初めてだ。

「もう、なんか…すごいっすね。」

「うんうん。先輩の言う通りっすね。本当にすごいわ。」

「さて、じゃあ客室の方も行ってみよう。実は私も引退してここに置いてから車内に入ったことがなかったんだよ。結構綺麗みたいで良かった。」

そういうと、プロジェクト長は客室への扉を開ける。

「さあ、どうぞ。」

「うわぁ、懐かしぃ~。」

俺は思わず声が出てしまった。まさしく幼少期に乗っていた189系だ。やはり189系は、何年経っても色あせることはないようだ。

「先輩、座ってみたらどうです?プロジェクト長、大丈夫ですか?」

彼は笑いながら言った。驚いている俺に向かって、プロジェクト長もニコっと笑いながら

「もちろん。座ってみてくれ。」

「は、はい。ではお言葉に甘えて…」

俺はすぐそばにあった座席に座った。国鉄形特急の特徴的なやわらかさ。倒れすぎとも言えるくらい倒れるリクライニング。本当に懐かしい。

「せ、先輩!?どうしたんですか!?」

気付いたら俺はいつの間にか涙が出ていたようだ。後輩もプロジェクト長も驚いていた。

「あ、ああ…いや、本当に懐かしくて涙が…」

「うんうん。やはり君たちをこのプロジェクトに招いてよかったよ。この目に狂いはなかったようだね。」

「こちらこそ、こんな素晴らしい体験をさせていただいて…本当にありがとうございます。」

「ああ。これからも頼むよ。」

「ええ。よろしくお願いします。」



 「先輩、本当に泣いていましたね。」

「そうだなぁ。やっぱり189系に乗ると心に来るものがあってな…」

「そうだ。君たちにこれを渡しておこう。はい。」

そういうと、プロジェクト長は首から掛ける証明書のようなものを俺たち2人に渡した。

「これはこのプロジェクトのチームだよという証明書だ。次回からここに来るときはそれを正門で見せてくれ。そうしたらスムーズに入ってこれる。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「礼には及ばないよ。こっちから頼んでいるんだからね。」


 「で、みんなは少しでもアイデアは出たかな?」

「すみません、それが全く浮かばなくて…」

「やはりそうか…あ、君たちも座ってくれるかな。」

一体何を悩んでいるのだろうか。するとプロジェクトも座るなり悩みだした。

「いやぁ、実はね。来週金曜日にある定例会議で『189系プロジェクト』の具体的内容について社長に説明しなくてはいけなくてね。アイデアを出そうと思っていたんだが、全く内容が出なくてね。」

「なるほど。やっぱり『ただ保存する』と言っただけでは保存に踏み切れるわけでもないですよね…」

「その通りだ。車籍も消してしまっているからねぇ。改めて修理した後に検査して…と、そんなことをやるためにも予算が必要だ。その予算を落とすには、社長に納得してもらわなければいけない。そんな訳なんだが…実は君たちにもアイデアを出してほしくてね。どうだい?」

「なるほど…。」

俺たちは顔を見合わせて悩む。やはりプロジェクトに参加した以上、プロジェクトに貢献しなければいけないだろう。だが、ここまでかというほどアイデアが浮かび上がらない。

「ちなみに、このプロジェクトは次いつ集まる予定なんですか?」

「うむ。一応次回は水曜、つまり3日後だね。それがどうしたんだい?」

「分かりました。じゃあ、俺たちが水曜日までにアイデアをまとめてきます」

「それはとても助かるし嬉しいが…任せて大丈夫かい?」

「ええ。ただ、一つだけお願いがあります」

「何だい?」

「俺たち以外に高校生を一人、連れてきても大丈夫ですか?」

「もちろんだよ。手伝ってくれるというなら何人だって歓迎するよ」

「ありがとうございます。では、俺たちはまとめてきますので、これで」

「ああ。よろしく頼むよ。」




 「先輩、どうするんですか?」

「ああ。俺にとっておきのアイデアがある。お前はあいつを呼んでくれないか」

「あいつって、誰ですか?」

俺は彼の耳に向かってある人の名前を出す。すると彼は、

「なるほど。彼女、先輩と仲いいっすもんね。しかし、受けてくれますかねぇ?」

「ああ、あいつなら絶対やってくれるさ。よろしく頼むよ」

「分かりました」



 さて、アイデアをまとめるとするか…!


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