それでも言えなかった
小学生の頃、給食当番というものがありました。
多分、ほとんどの小学校にはありましたよね?
班ごとに1週間、給食着を着てみんなの給食を盛りつける係。
私はそのことで嫌な思い出があります。
1週間当番をやった後、その使った給食着を家に持って帰って洗って月曜日に持ってくるルールでした。
そして私が給食着を洗って持って行った日、
「なんか、この給食着臭いんだけど」
「洗ったの誰?」
どきり。
それ、私が持ってきたやつだ。
恥ずかしくてたまりませんでした。
ちゃんと洗ってもらったのにどうして匂うのかわからなくて。
そしてある時知りました。
匂いの正体はタバコであると。
うちは洗濯物は部屋干しでした。
ベランダに出るための窓が荷物で塞がっていて、外に出ることは愚か、カーテンを開けることすら滅多にありませんでした。
そして、その洗濯物が干されている目の前でタバコを吸っているんです。
そりゃ、臭うに決まってますよね。
それが原因でいじめられるとかはありませんでしたが、当番になった次の週の月曜日だけは怖くて怖くて仕方ありませんでした。
そして、匂いを嗅いでも何も感じられない自分のことも嫌でした。
自分もその匂いに染まってしまったんだと実感してしまうことがたまらなく嫌でした。
でも、私はそのことを親に言えませんでした。
私は何も悪くないのに。
怒られるわけないのに。
むしろ謝って欲しいことなのに。
ただ怖くて言うことができませんでした。
私は学校に行く前に洗われた給食着を布団叩きの要領で思いっきり叩いていました。
私には臭いを消す方法はこれしか思いつかなくて。
でも親に見られたらきっと怒られると思って、バレないように、でも念入りに。
叩いた後の給食着の匂いを嗅いでも、私には全く違いがわからなかったけど。
それでもクラスメイトから匂いの事を言われることが減ったので、おそらく効果はあったんだと思います。
私は何も悪くないのになんでこんな思いをしなきゃいけないんだ。
ただそれだけを思っていました。
今思えばこんなことも親に言えなくなっていたんだなと。
学校であった楽しいことも嫌なことも、親に話すことはありませんでしたし、聞いてくることもありませんでした。
そうやって、きっと初めから、何も話せない家族として育っていました。
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