私って?

 こうして私は親からいろいろなものを諦め、周りからたくさんのものを吸収し、未来のために頑張る日々が続きました。

 しかし、私は所詮、何も知らない未熟な子どもです。純粋な、普通の子どもです。


「やっぱり親に愛されたい」

「頑張ればなんとかなるんじゃないか?」


 そんな考えが全くないわけではありませんでした。

 

「いい子になれば愛されるかもしれない」

「すごいことをすれば褒めてもらえるかもしれない」


 そう思って、できるだけ愛されるように、褒められるようにと、そっちの努力も並行して行いました。

 代わりのいない唯一無二の存在である親に愛されたいという欲求がなくなったわけではありませんでした。

 しかし、現実はそう甘くはありませんでした。

 私には、褒めてもらえるようなことがありませんでした。

 妹はコツコツと頑張るタイプで、それが家でも見えているため、母に褒められていました。

 弟はサッカーをしていて、父はそれを気に入っているようで、試合は毎回見に行っていました。


 私には、何もありませんでした。

 私には、小説もあるし、学校でもとってもいい子で、みんなと仲もいいし、勉強だって一応上のほうではありました。

 でも、両親の目に見える何か気に入ってもらえるものは何ひとつ、ありませんでした。


「妹と弟は愛されていて、私だけ愛されていないんだ」


 そう思いました。

 それから私は、「誰からも嫌われたくない。誰でもいいから愛されたい」と、愛されることに対して貪欲に、歪んでいきました。

「クラスの誰からも嫌われたくない」

 私はそう思って、誰からも好かれる私を演じました。

 

 その頃の私はもうすでに両親に対して恐怖心を抱いており、

「怒られないように、なるべく何も起きないように穏便に、我慢して我慢して早く大人になろう」

 そうやって、家の中で細心の注意を払いながら、常に気を遣う生活を送っていました。

 そして、家族以外からも愛を求め始めた私は、外でも常に人の顔色を伺うようになってしまいました。


「私って、なんだろう?」


 次第に、そう思うようになってしまいました。

 全部人に合わせるだけ。自分の意思が完全になくなり、人に合わせるだけのロボットになりました。

 自分で選択する、ということができなくなったんです。

「どれがいい?」

 は、もちろん。

「どっちがいい?」

 という、二択さえ、私は選べなくなっていました。

「相手は私に二択を迫ってきたけど、どっちを選べば相手の思うようになるんだろう?」

 私の意見を聞いてくれているはずなのに、相手が望む私の答えにしたい。

 当時、小学校というのはクラス内で手を挙げて多数決で決めごとをすることが多く、私は怖くて手を挙げることができませんでした。


 こうして、私は私という人格を失っていきました。

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