人として

 人として、言ってはいけない言葉、あると思うんです。

 皆さんにも、言われたくない言葉、これだけは言ってはいけないだろうという言葉、それぞれの中に持っていると思うんです。


 私は人生でたった一度だけ、親に言われました。


「きもちわるい」


 と。


 小学何年生のころだったのかは覚えていません。ですが、その時のことはしっかり覚えています。


 その時、家で妹と喧嘩していたんです。

 喧嘩の原因については全く覚えていません。

 妹が私にずっと怒っていて、私が何度「ごめんね」と言っても「絶対に許さない」と言っていました。

 私は何とか許してもらおうと「ごめん」「ごめんね」「ごめんって」「ごめんなさい」と、たくさん言い方を変えて謝りました。

 小学生くらいだととにかく「ごめんね」と「いいよ」を必ずする、みたいなところがありますよね。

 それでも妹は私を許してはくれませんでした。

 そこを通りかかった父が私に言ったんです。

「お前の謝り方気持ち悪い。特に最後のほう」

 と。


 いや、まず喧嘩とめろよ?

 というか、なんで私だけ怒られるの?

 妹に「なんで許してあげないの?」とか言わないの?

 え、私が全部悪いの?

 っていうか――キモチワルイッテナニ?


 本当に冷たい目で、淡々とした声で言い放ったんです。

 はっきりと「気持ち悪い」と、私に向かって。

 そしてそのままトイレに行きました。出てきてからは、何事もなかったように無視していきました。

 自分の子供に、そんな目を向けるの? そんな言葉を、そんな声で言うの?

 あんたの感想を勝手に述べるだけ述べておしまいなの?


 私は、誰かに対して「気持ち悪い」なんてことは絶対に言いません。


 だからこそ、理解ができませんでした。

 まだ、ただ無視をしてくれればよかったんです。なのにわざわざいう必要のない言葉のみをかけていくなんて意味が分かりませんでした。


 その時のことを母は何も知らないと思います。確かキッチンにいたので。

 弟も関わってはいないです。

 そしてその時妹が何を思っていたのかもわかりません。

 ただ私は自分の父に対して絶望しました。

 人として終わっていると。


 その時のことをずっと引きずっているような感覚は自分の中にはありません。

 ただ、忘れはしません。

 父が私の中で人として終わったことを実感した瞬間でした。

 あの人は自分の子供に対して一体どんな感情を持っていたんでしょう。

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