唯一の理解者

 唯一、こんな悲惨な家庭でしたが、私を理解してくれる人がいました。

 人、ではないですね。犬です。犬のころんです。

 理解をしてくれていた、というのは私の勝手な思い込みでしょう。

 でも、それでもよかったんです。


 口を開けばわけのわからない事ばかりをいう親よりも、言葉が通じなくてもただそばにいてくれるころんのほうがずっと温かかった。



 ころんを家にお迎えしたのは私が中学一年生の時でした。父が「犬飼おう」と急に言い出したのがきっかけです。


 ペットショップにみんなでいって、マルチーズの女の子に決めました。名前は私が決めました。(実際はころんではありません。一応こちらも名前を変えています)

 お世話は母と父と私がよくやっていました。妹も大きくなるにつれてやるようになりました。弟はあまりやりません。


 ころんがいるおかげで私は家での暮らしを続けることができました。彼女がいなかったら私はもっと早くに家にいることに耐えられなくなっていたんじゃないかなと思います。


 ころんはとても元気でした。寝るときでなければ、そばでおとなしくしてくれることなんてないくらいに。

 でも、寝るとき以外に唯一、おとなしくしてくれる瞬間があるんです。

 それは、私が泣いているときでした。

 家に誰もいないとき、私は一人で泣いていました。そんな時、そっとそばに来てくれて、座ってくれるんです。

 いつもなら絶対そんなことしないのに。

 私がどんなに泣いて毛を濡らしても動きません。

 抱きついても逃げようとしません。


 でも、それがよかった。何よりも救いでした。


 ただそばにいてくれるだけの存在がこんなにも大きなものだと、初めて知りました。

 何か気の利いたことを言ってほしいわけじゃないんです。

 無条件で私を受け入れてくれる人。許してくれる人。味方でいてくれる人。

 そんな存在がずっとほしかった。


 私にとって初めてそんな存在になったのは親ではなく、たった一匹の犬――ころんでした。


 親に贅沢なものを望んではいません。

 無償の愛がほしかった。ただ無条件で愛されたかった。


 家族という普通の存在がほしかった。


 お金とか家とか、そんなものはあとで自分でいくらでも手に入れられるんです。

 でももう親は替えがきかない唯一のもの。

 いつか自分で家族というものを作ることはできるけれど。

 やっぱり私にとってたった一つ、これから先どうやっても手に入れることができないのが普通の親の存在でした。

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