ちやほや

 二〇二四年一月二四日、二二時半を回ったところ。苦しい。眠れない。眠れない夜の一つや二つ、あるのは知っている。誰にでもあることで、だからきっと、わたしの苦悩は等し並みのありふれた、つまらない感情であろうことも、わかっている。大音量で音楽を聴いた。SNSを眺めた。それでも収まらない、心のぐちゃぐちゃを、ようやく、こうして、文章に起こせばよいのだと思い至る。文章はいい。こうして書き殴る、その過程でさえも、どこか論理を整えなければならい気持ちにさせてくれる。実際のところ、果たしてこれが、他者にとっても読みやすいものであるのか、それはわからない。しかし、なにか、冷静な部分を思い出させてくれる。それでいて、わたしの感情を、なによりも正しく象ってくれる気がする。

 発端はなんだろう。やはり、あのひとからのラインだろうか。わたしが勝手に期待しているだけ。でも、残酷じゃないか。あなたは、恋人を作る気も、結婚をする気も、今はないのだと、それよりは自身の夢を追いかけたいのだと言った。だから、わたしは、なにをあなたに求めるつもりもないけれど、だから、わたしのことなんか、いっそ無視してくれたらよいのに。

 いや、ほんとうはどうなのだろう。あのひとのことなど、どうでもよいのかも知れない。そんな心持ちがしてきた。それよりも、わたしに、正しく恋愛をする機能が欠けているように思えることが怖ろしい。ひとを好きになることはできる。それは、できる。でも、ひとに好かれることができない。ひとに好かれたことがない……とは言わないまでも、気のない相手に向けた優しさばかりが、他者の好意を喚起させるように思う。どうでもいい人間に対してだけ、わたしは正しく接することができる。気になるひとに相対するとき、わたしはきっと、よほど嫌悪感を催すような態度をとるに違いない。好かれたい相手には、好かれたことがないな、と思う。

 それにきっと、わたしは、好かれたところで満足しないのだろう。そして、同時に、好かれ続ける努力は決してしないのだろう。さらには、相手から向けられる好意に疑いを持つだろう。友人知人に対しても、わたしは常に両価的な思いを抱いている。彼らのことを、わたしはどうしようもなく欲していて、必要としているけれど、彼らはきっと、わたしなどいてもいなくても構わない存在だと感じているし、ことによれば、わたしのいないところでわたしを悪く言って、嘲笑って、次の瞬間には態度を豹変させて、わたしに対して、ひどく侮蔑の籠った視線を向けるに違いないのだ。それならばいっそ、わたしが嫌ってしまえばよいのだ。傷つけられるくらいなら、それより先に傷つけてしまえばいい。でも、そういうのは、きっと社会的にとても悪いこと。それならばせめて、嫌われる前に、距離をとりたい。好かれ続けなければならないのも、つらいから、そういう努力を怠るためにも、距離を取りたい。

 ああ、こうして書いている間だけでも、手首を切りたい衝動を抑えられている。これを書き終えたとき……そもそも、何をもってこれを書き終えたとするかは、今のわたしにはわからないけれど、わたしがこれを書き終えたと思えた時に、この衝動は消えているだろうか。だって、傷が残ると、仕事に支障をきたす。万が一にも他者に見られるわけにはいかないのだ。今まで、見られたことはないけれど、でも、得られるリターンに対して、背負うリスクが大きすぎる。容易に巻き込まれかねない他者が周囲にいすぎる。ミイラ取りがミイラになるどころか、手当たりしだいに人を殺して自らミイラを作り出してしまうような、そんな惨事は避けねばならない。

 少し、心が落ち着いてきている。こうして、言葉にして、落ち着いてしまっている。いいことだけれど、でも、この程度で平穏を取り戻せてしまいそうな、小さな悩みしか抱えられない自分にはちょっと呆れている。つまらないと思っている。世の中には、ひどく苦しんで生きているひともいる。その結果、やむにやまれず、身を滅ぼしそうな行動に移るひとも数多いる。或いは病に罹るひともいる。そんななか、わたしはこの通り、あっさりと冷静な己を取り戻そうとしている。つまらない人間だ。いや、苦悩の最中にいるひとたちを羨むことは、いくらなんでも無神経か。しかし、自分にも陰があるのだと思わなければ、あんまりにわたし自身の人格がうすっぺらくて、面白みがなくて、受け入れられない。なんの特徴もない、十把一絡げかれもこぼれ落ちた、忘れ去られた、いてもいなくてもよい人間で、それならば死んでしまえばよいと思う。

 死にたくない。でも、生きている価値を認められない。誰かに、認められたい。でもきっと、認められていることを、わたしは認められない。仮に愛されるようなことがあったなら、その瞬間に、やはりわたしは、わたしという特徴を失ってしまうと思うから。それにどのみち、必要とされていることを、信じられることもないのだろうと思うから。

 この文章にオチなんかない。オチを作れるような、面白みのある人間だったら、こんなつまらない文章を書かない。

 あーあ、ちやほやされたいな。茶々瀬はとってもちやほやされたい。

 いえーい。

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