タイトルなし
人間も動物だ。個の存続よりも、種の存続こそが至上命題だ。
あらゆる生き物がそうであるように個体の数だけ形質の差があり、形質の数だけ種は挑戦している。
無数の挑戦の結果、より環境(これは人間が形成する社会も含む環境だが)に適応できた個が、その個の持つ形質のみが、遺伝子を残す権利を得る。そうすることで種は続いていく。
そういった意味で、遺伝子を残せない個は劣等個体であり、その形質が潰えるのは当然の帰結だ。種を残すのに適さない形質は、遺伝し存続するに値しない。そもそも子孫を残せないのだから形質を残せない。ある意味自浄作用のはたらきがある。
人間が社会を重んじるようになったのは、そうしようと考え、行動してきた個がより効率的に繁殖を成功させたためであって、人間社会というシステムが、相互扶助に基づいた関係性が、人間という種を存続させるに適したものだったためだ。より優秀な形質のみが残るべきであり他は殺すべき、というのはちゃんちゃらおかしい話だ。そんなことをしなくても、種の存続に不適な遺伝子は勝手に消えていく。そして優生思想なんてものは、種を存続させるのに不適切であったからこそマイノリティにいるのだろう。
人間個人の感情が社会を形成しているのではない。
種の存続により適した考え方が結果として今の社会という形に落ち着いているだけだ。
そういった意味で、性的マイノリティは、いつまででもマイノリティであり続けるだろう。
遺伝子を残すことが生物の至上命題だ。種を残すために個は生きるのだ。同性愛者は、同性を愛するという形質は、その善悪好悪などという個人的な考え方以前に子孫を残すことができない。つまりその形質は誰にも引き継がれることなく、その個で潰える。異性を愛するものばかりが遺伝子を残し、結果、異性を愛するものの数が圧倒的に増えやすい。異性愛者がマジョリティであることは生物が生物である以上、当たり前のことなのだ。
しかし、考えてみよう。仮に、同性愛者がマジョリティないしはそれなりの数にまで増える可能性を。
つまり、種の存続と性に関連がなくなるわけだ。同性を愛していても種を残せる世界にならなくてはならない。
体細胞から生殖細胞を作れるようになれば、あり得ない話ではない。好きな相手と自身の体細胞からそれぞれ任意の生殖細胞を作り出し、それを掛け合わせればよい。女性からは女性しか産まれないが、女性同士が愛し合った結果女性しか産まれないのは当然なのかも知れない。男性同士からは男女ともに生まれるが、母胎なしに子を育てることができないと考えれば、それもまた当然なのかも知れない。
そうなると、快感を伴う性交渉という行為はただの娯楽と成り下がる。話は逸れるが、性に快感を得ずとも種が存続するのなら、そもそも性行為を快感に思わない個体、形質すら生まれ、そして遺伝していくかも知れない。
性交渉をせずとも子を成せるのなら、性交渉が娯楽に成り果てるのなら、人間はやがて去勢されていくのではないだろうか。娯楽に妊娠などというリスクがあっては困る。去勢されても、生殖機能を失っても、遺伝子は残せるのだから種の存続に支障はない。
やがてより効率的に種を残すために、人間は遺伝子を管理し始めるのではないだろうか。社会においてよりよい功績を残した個の遺伝子のみが、種を残すことを許される。人類は皆去勢され、あるいは生殖能を持たない個体すら生まれ、体細胞から生殖細胞を人工的に作り出し、それを受精させてのみ種を残していくのだ。よりよい個体が選別され、男女の別を問わず掛け合わされ増えてゆく。
そんな未来は、あり得るのだろうか。
……あり得ようがあり得まいが、さしたる問題ではないのだが。
実のところ、性がどうとか種がどうとか、わたしはさほど気にしていない。異性愛とか同性愛だとか、そういう線引きもわたしにはほとんど関係がない。わたしはそもそも恋愛をしたことがなかったし、むろん性交渉もしたことがないからだ。異性だろうが同性だろうが愛し愛されたことなどない。そういう意味ではわたしの性は、社会的にも生物的にも規定されないふわふわした状態にある。性の……いやさそもそも生命の役割を全うしていない以上、わたしに性の別などないのである。
最近、わたしは、それが結論なのではないかと思っている。
つまり、わたしは、わたしという形質は、劣性であり、異性愛にせよ同性愛にせよ種を残そうというはたらきがない以上は、このまま死ぬべきなのではないかと、そう思うのだ。生きている意味も価値も存在しないのではないかと思うのだ。
死ぬ勇気もないくせに。そんなことばかり考えている。
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