七本目 影を引きずる


 『引っ越すことになったの』


 『夏に母親が再婚したんだけど、あたしどうにもその人と合わなくてさ』


 『ううん。暴力とかは全然、むしろ優しいくらい。ただ苦手というか、認めたくないというか……まあ、あたしのわがままだよね』


 『たぶん、忘れられないんだろうな……ん?あー、このカメラをくれた人のことだよ』


 『とにかくその再婚相手が嫌で、いや以前からそうだけど、あまり家が好きじゃなかったんだ。だから休日はどこかに出かけて、趣味の写真を撮ってた』


 『ずっと逃げてたんだよ。嫌なことから。背を向けていれば見なくて済むし、ほっとけば、いつか解決するんじゃないかとも思ってた。ダメな奴だよね、あたし』


 『でもそれは良くないことだって、最近思うようになったんだ。どうしてだろね?』


 『引っ越しの話があったのはそんな時。ちょうどいいと思った。前を向くなら、環境の変化は絶好のチャンスだもん』


 『実はね、あんたに黙ってたことがあるの。初めて話した日からずっと、あたし嘘ついてた。あんたにも、あたし自身にも』


 『嘘の内容?んー、教えない。だって教えたら、過ごした時間もぜんぶ偽物になる気がするから』


 『だから代わりにこれをあげる。いい曲だったでしょ?あれ、あたしのお気に入りなの。大事にしてくれたら嬉しいけど』


 『……泣かないでよ。歌にもそうあったでしょ。別れに涙は見せちゃダメなんだって』


 『無理だよ、ちゃんと向き合うって決めたから。もう戻れない。あたしの時間は動き出したの。あんただってそれは同じ。いつかはここを出なくちゃいけない』


 『うん、ここは“さよなら”じゃないよね。笑って手を振らなきゃダメだし……なら、いつも通りにしよっか』


 『それじゃ、

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