五本目 暗い雨
結論から言えば、見つからずに絵を描くなんてことは無理だった。当たり前だけど。ここは駅のホームで、時刻表に従って列車はやって来る。ベンチしかない殺風景な場所なので隠れることもできず、わたしたちの作業は筒抜けだった。
でもどういうわけか、ホームでペンキを塗りたくる姿に、駅員は怒らなかった。なかには車掌室の窓から声をかけてくれる人すらいた。
みんな心のどこかでこのくたびれたベンチをどうにかしたいと思っていたのかもしれない。
そんな風に応援されて、わたしは胸が熱くなった。それは初めての感覚で、飛び跳ねたいくらい嬉しかった。
美誠が列車からの声援に応えようと、ハケを持った腕をぶんぶん振ったせいで大変なこともあった。
『ペンキが飛散して悲惨だ』とか、聴かされるこっちが顔を覆いたくなるようなやり取りもあり、完成には夕方までかかり、帰宅後はお母さんに怒られたりで散々だったけど、それも含めてとても楽しいと思える一日だった――。
あれから一週間。
わたしはまたここにいる。
すっかり乾いたベンチに腰かけて、虹色の背もたれと活力に満ちた向日葵畑、それから書き込んだ二人のための
背後で列車が去っていく。
その光景が訪れるのは、今日はもう何度目になるんだろう。
美誠の姿はまだない。
わたしはひとりベンチに座って彼女を待つ。
夕闇に降り注ぐ雨は、ひどく黒ずんでみえた。
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