第1069話 激しさを増す戦い

 ダンジョン神と相打ちになる形で、邪神が地面に倒れている。両方とも死んでいる訳ではないが、かなりのダメージを負ったようだ。


 俺は高速戦闘モードで邪神の近くまで行き、『フラッシュムーブ』で邪神の胸まで移動した。そして、封神剣グラムを巨大な胸に突き立てようとする。その時、邪神の胸から生えている触手が独立しているかのように動き出し、俺に向かって邪気玉を撃ち出す。


 それを横に跳んで躱し、封神剣を邪神の胸に突き立てる。封神剣の切っ先が二十センチほど邪神の胸に潜り込んだ。これでは足りない。そう思って神威エナジーを封神剣に注ぎ込み、上から押し込む。封神剣は神威エナジーを注ぎ込んだだけ、ゆっくりと邪神の胸に沈み始めた。


【そのまま押し込むのだ】

 烏天使の声が頭に響く。全力で神威エナジーを封神剣に流し込み、封神剣の柄を押し込む。封神剣の刃が五十センチほど邪神の体内に沈んだ。封神剣の刃は九十センチほどあるので、後四十センチである。


 邪神が苦しみ始め、胸から振り落とされそうになる。封神剣の柄を持って堪えたが、長く耐えられそうにない。そこで『フライトスーツ』を発動し、封神剣の柄を握ったまま逆立ちするような姿勢になる。その状態で『フライトスーツ』の推進力を下に向かって発生させた。


 封神剣がズズッと沈み、後五センチほどを残すだけとなった。その時、封神剣に組み込まれている封印石が光を放ち始め、封印の効果を発揮する。


 邪神の胸から邪気を吸い上げた封神剣が、純粋な魔力に変換して空中に放出し始める。邪神が胸に手を伸ばし、途轍もない力で俺をはたき落とした。


 『フライトスーツ』を発動していたので、ダンジョンの地面に叩き付けられる事はなかった。だが、空中で嫌というほど回転したので目が回る。


「うっ、気持ち悪くなった」

『しっかりしてください』

 メティスの声が聞こえた。俺は邪神の方へ目を向けた。邪神は封神剣を胸から引き抜こうと手を伸ばすが、封印石が発する光により阻まれている。あの光は聖光に近いものだったらしい。


『封印は成功したのですか?』

「あの様子だと成功したと思うけど、少し不安な点がある。邪神も封印の事は経験済みのはず、何か対策を立てているかもしれない」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その頃、アヴァロンたちと邪卒の戦いが激しさを増していた。アヴァロンは蜘蛛型戦車を使ってダークゴーレムを殲滅し、ターゲットを邪卒王に変更していた。


 蜘蛛型戦車の素早さを活かして駆け回り、磁力発生バレルから砲弾を次々に命中させていた。しかし、全長三十メートルという巨体の邪卒王は、ダークゴーレムと比べて桁違いに防御力が高かった。砲弾を受けても体内の奥にまで届かず、表面で爆発している。


「むっ、砲弾が奥まで届かんのか。攻撃魔法に切り替えるしかないな」

 蜘蛛型戦車の砲塔ハッチから上半身を出した状態のアヴァロンが、『デーモンイレイザー』を発動し、聖光紡錘弾を邪卒王の頭に叩き込んだ。


 邪卒王の頭にある鶏冠を最初に破壊したのである。これで自己治癒能力の強化が無効になる。そう考えたアヴァロンは、邪卒用の攻撃魔法である『キングキラーメテオ』を発動した。


 上空に魔力により形成された聖爆隕石弾が現れ、邪卒王に向かって落下を始める。それが音速の何倍にもなって邪卒王の頭に向かって落下した。ところが、命中する直前に邪卒王が首を振った。そのせいで聖爆隕石弾が邪卒王の頭を掠めて地面に着弾し、そこで爆発した。


 その爆発の威力で邪卒王の顔がズタズタとなったが、それは致命傷にはならない。

「チッ、運のいいやつだ」

 アヴァロンは『クーリングボム』を発動し、狙いを邪卒王の胸に定めて冷却弾を放った。撃ち出した直後に亜空間に消えた冷却弾が、邪卒王の体内に飛び出して効果を発揮する。邪卒王の肺を破壊し、その周辺を凍らせた。心臓も一部だけ凍らせたが、心臓が止まる事はなかった。


 邪卒王がアヴァロンに向かって反撃とばかりに火の玉を吐き出した。アヴァロンはそれを避けるために『フラッシュムーブ』を使用する。すると、邪卒王が回復のための時間を得ようと次々に火の玉を吐き出して攻撃。


 アヴァロンは逃げ回りながら反撃の機会を狙う。そして、邪卒王が四発目の火の玉を吐き出そうとして大口を開けた瞬間、『デーモンイレイザー』を発動して聖光紡錘弾を邪卒王の口の中に放り込んだ。邪卒王の口の中で爆発が起こり、発生した衝撃波が脳まで破壊。邪卒王が黒い霧となって消える。


 一方、アヴァロンから離れた勇者シュライバーは、黒武者の集団と戦っていた。黒武者が次々にシュライバーに襲い掛かり、彼が所有する躬業『鬼雷』が発生させた稲妻で焼かれる。


「これじゃあ、きりがない」

 生き残っている邪卒王が黒武者を召喚しているので、倒しても倒しても黒武者が尽きない。

「誰かどうにかしてくれ」


「ガウッ」

「任せてください」

 シュライバーの声を聞きつけて来たのは、為五郎とエルモアだった。二匹の邪卒王を仕留めた後に、三匹目を倒すために移動してきたのだ。


 為五郎とエルモアのボディには、焼け焦げた痕や傷が刻まれていた。エルモアたちでも楽な戦いではなかったのである。エルモアはオムニスブレード、為五郎はオムニスグレイブを武器にして戦い始めた。


 一匹は神弓シャランガとダスクバスターを使って倒したのだが、二匹目は火の玉で迎撃されるようになった。それで武器をオムニスブレードとオムニスグレイブに持ち換えたのである。邪卒王とエルモアたちの間で激しい戦いは始まった。


 その頃、ジョンソンと三橋師範はダークウルフの群れと戦っていた。高速戦闘が得意なダークウルフは素早い攻撃を二人に仕掛けて数の優位で二人を倒そうとしていたが、卓越した技量で襲い掛かってくるダークウルフを薙ぎ倒し、数を減らしていく。


 ただハインドマンがダークセベクとの戦いで負傷したので、ブラッドリーが『天翼』の躬業を使って治療していた。やはり無傷で邪卒たちを倒すというのは、難しい事なのだ。


―――――――――――――――――

【あとがき】


 明けましておめでとうございます。

 本年もよろしくお願いします。


 明日から新作のSF『ファンタジー銀河』の投稿を始めますので、よろしくお願いします。


【追伸】書籍『生活魔法使いの下剋上』3巻まで発売中です。

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