第1068話 邪神vsグリム
特大邪気玉の爆発で飛ばされた俺は、五メートルほど飛んで地面に叩き付けられるとゴロゴロと転がった。その俺を追撃しようとした邪神へ、ダンジョン神が攻撃を仕掛けたようだ。
ダンジョン神の全身から神威エナジーが溢れ出し、それが巨大な槍の形となって放たれた。凄まじい速さで飛翔した槍は、邪神の触手から撃ち出される邪神玉を潜り抜け、俺を攻撃しょうと近付く邪神の脇腹に突き刺さると爆発した。
邪神が不気味な声で叫び声を上げる。それは聞いた者に心の底から恐怖を湧き起こらせるような叫びだ。ブルッと震えた俺は、全身に痛みを感じながら起き上がると『フラッシュムーブ』を使って邪神から離れた。
『大丈夫ですか?』
メティスの声が頭に響いた。俺は『大丈夫』と返事をすると、初級治癒魔法薬を取り出して一気に飲み干した。痛みが薄れていくのを感じながら、邪神に視線を向ける。ダンジョン神の攻撃を受けた邪神は、脇腹に傷を負っていた。だが、その傷が急速に塞がり、元通りになっていく。
ダンジョン神は神威エナジーの光弾で攻撃しているが、邪気玉で迎撃されている。その時、膨大な神威エナジーを感じ、そちらに視線を向ける。
「烏天使……」
神威エナジーを放出しているのは烏天使だった。烏天使は銀色に輝く巨大な弓を引き絞り、邪神の胸に狙いを付けると放った。その矢は神威エナジーで形成されており、烏天使が放出した神威エナジーを吸収して巨大化しながら飛翔する。
その矢に対しても邪気玉が撃ち出されたが、矢の周りにはバリアが形成されていて邪気玉は弾き返された。それに気付いた邪神は、両腕で胸を守った。神威エナジーの矢は邪神の左腕に突き刺さって爆発した。爆散した神威エナジーには、烏天使の破邪の念が込められていて邪神の腕に大きな傷を残した。
『烏天使が放った矢は、どうして邪神を深く傷付ける事ができたのでしょう?』
メティスには感じられなかったが、俺は神威エナジーの矢に強い破邪の念が込められているのを感じた。その念の事をメティスに伝える。
『そうすると、魔法にも破邪の念を込めねば、大きなダメージを与えられないという事ですか?』
「そうらしい。早い段階で分かったので良かった。だけど、魔法に破邪の念を込められるだろうか?」
『神威エナジーを使う魔法なら、可能なのでは』
神威エナジーは人の強い意志に反応し、それを神威エナジーに込める事ができる。なので、メティスが神威エナジーを使う魔法なら可能だと言ったのだろう。だが、それだと魔法の発動に時間が掛かる事になるので、発動するタイミングが難しくなる。
神威エナジーを使って攻撃する手段は、『神威閃斬』『神威迅禍』『神斬翔』の三つ魔法、それに神剣ヴォルダリルの機能である【神威飛翔刃】もある。その中で破邪の念を込めやすいのは【神威飛翔刃】であるが、邪神に大きなダメージを与えるには威力が弱い。
俺は神剣ヴォルダリルを上段に構えると、ありったけの神威エナジーと破邪の念を注ぎ込んで振り下ろす。神剣ヴォルダリルの【神威飛翔刃】が起動し、神威エナジーの刃が邪神に向けて飛び出す。それは邪神の腹部に食い込んだ。
【神威飛翔刃】は神威エナジーを刃の形にして飛ばし、相手を斬り裂いた瞬間に爆散する。邪神に食い込んだ神威エナジーの刃は、それ以上食い込む事ができずに爆散した。それにより傷口を広げたが、表面だけのようだ。
「邪神は呆れるほど頑丈だ。巨獣ベヒモスでも、大ダメージになるくらいの威力はあったのに」
大したダメージを与えられなかったと分かり、ちょっと絶望しそうになる。
『他の魔法を試してみましょう。その前に逃げた方が良さそうです』
邪神が俺を標的に定めて特大邪気玉を放った。今度は『フラッシュムーブ』が間に合い、百メートルほど移動できた。それから高速戦闘モードに移行して逃げる。
後ろで特大邪気玉が着弾して爆発する音が鳴り響く。次に来るのは爆風である。後ろの方を中心に神威エナジーを纏わせて衝撃に備える。次の瞬間、爆風が俺の身体を撥ね飛ばした。今回はどれほどの衝撃が来そうか分かっていたので、衝撃をある程度受け流す事ができた。
地面を転がりながら衝撃を逃し、パッと立ち上がる。邪神を見ると、隙を見付けたダンジョン神の攻撃を受け、地面に倒れていた。但し、深刻なダメージは受けていないようだ。
【人間よ。こちらでチャンスを作る。封神剣を用意しろ】
頭の中で声が響いたので、俺は神剣ヴォルダリルを仕舞って封神剣グラム取り出した。
『封神剣は、邪神の胸の中央へ突き刺さないといけません。大丈夫でしょうか?』
「ダンジョン神様が、チャンスを作ると言っているんだ。大丈夫だと思う」
その後、ダンジョン神と烏天使は力を合わせて一つの攻撃技を繰り出した。ダンジョン神が膨大な神威エナジーを放出し、それを烏天使が圧縮して紡錘体の圧縮砲弾を作って撃ち出したのだ。
その圧縮砲弾に込められている神威エナジーの量は、『神威迅禍』で作る圧縮貫通弾の十倍を超えているだろう。圧縮砲弾は邪神の頭に命中した。そして、圧縮砲弾に込められた念が効果を発揮する。今回は破邪の念だけではなく消滅という概念を念にして込めていたようだ。
圧縮砲弾が邪神の肉体を食い破り消滅させていく。頭蓋骨を食い破って中の脳を破壊したが、脳の半分ほどが無事に残った。頭の中心に命中しなかったのだ。それでも脳の半分を破壊したのだ。見ていた俺は邪神を倒したと思った。
俺だけではないダンジョン神と烏天使も、そう思って動きが止まった。その時、邪神の手が伸びてダンジョン神の身体を掴むと高く放り投げた。それと同時に膨大な邪気が立ち昇り、上空で発生した紫色の雷がダンジョン神に落ちた。
【……】
声にならない苦悶の叫びが聞こえた。そして、ダンジョン神が地面に落ちた。但し、邪神が無事だった訳ではない。ダンジョン神に雷を落とした邪神は、ゆっくりと倒れて凄まじい音を響かせながら地面に激突した。
その時、烏天使の声が頭に響いた。
【人間よ。役目を果たせ】
封神剣を使えという事だと分かり、俺は邪神に向かって走り出した。
―――――――――――――――――
【年末年始のお知らせ】
12/31~1/3の間は、投稿はお休みです。次の投稿は1/4になります。
この1年ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
良いお年を。
【追伸】『生活魔法使いの下剋上』3巻まで発売中です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます