第1067話 邪神の一撃

 俺は黒武者を蹴散らしながら奥へと進み、邪神が見えるところまで来た。邪神ハスターは巨獣並みの巨体を持つおぞましい化け物だった。基本のスタイルはリザードマンのようなトカゲ人間なのだが、全身にイソギンチャクのような触手を生やしていた。


 その触手がうねうねと動いており、ひと目で人間とは相容れない存在なのだと感じさせる邪気を放っている。もし、この邪気を『邪気耐性の指輪』を嵌めない状態で浴びたら、精神にダメージを受けて病んでいたかもしれない。それほど凄まじい邪気を放出する存在が邪神だった。


 巨獣並みの巨体を持つ邪神と戦っているダンジョン神が小さく見える。ダンジョン神は身長三メートルほどで引き締まった身体をしている。そして、背中には翼を持っており、頭はホワイトタイガーだ。俺が斬った翼は七割ほどまで再生しているが、まだ完全ではないようだ。


 そのダンジョン神は全身から膨大な量の神威エナジーを放出し、邪神に向けて放出している。一方、邪神も神威エナジーに対抗するために、全身から邪気を放出している。これは一種の力比べをしているのだろう。そのせいで周囲の空間が高密度のエネルギーで満たされ、沸騰したお湯のように危険な状態となっている。


 ダンジョン神の横では烏天使が槍を構えて戦っている。その烏天使が持っている槍を邪神に向けて投擲した。凄まじい速さで飛んだ槍が邪神の胸に命中しようとした時、邪神の全身を覆っている触手から邪気の玉が撃ち出された。


 それが槍を迎え撃って跳ね返す。その邪気玉は半透明で薄い紫色をしていたので、その動きと威力が分かった。バリア以上に厄介そうなものだ。


「メティス、あの触手から撃ち出される邪気玉をどう思う?」

『一発が『ホーリーファントム』並みの威力がありそうです。それだけの威力がある邪気玉を全身に生えている触手から撃ち出せるのだとすると、脅威です』


 メティスはエルモアに指示を出しながら、邪神の事も分析していたようだ。その邪神が俺に視線を向け、指差すと何かに命じた。すると、邪神の後ろからダークセベクが飛び出してきた。邪神はダークセベクに俺を倒せと命じたのだ。


 邪神自身が俺に攻撃して来るかと思ったが、ダンジョン神とのせめぎ合いでそれどころではないらしい。三メートルの鰐人間であるダークセベクは大きな戦斧を持って襲い掛かってきた。


 俺は急いで『ハイパーバリア』を発動して防御の準備をすると、神剣ヴォルダリルを持って迎え討つ。ダークセベクが戦斧を振ると、邪気の刃が形成されて俺に向かって飛んで来た。それを横に跳躍して躱すと、お返しとばかりに神威エナジーを注ぎ込んだ神剣ヴォルダリルを振る。その瞬間、神剣ヴォルダリルの【神威飛翔刃】が起動して神威エナジーの刃がダークセベクを襲う。


 ダークセベクは盾のように戦斧を前に突き出し、邪気を注ぎ込んだ。すると、邪気の盾のようなものが発生して神威エナジーの刃を受け止める。


「へえー、そんな事もできるのか」

 そう言った時、ダークセベクの手からバチバチと火花を飛ばす光球が撃ち出された。こちらに向かって迫って来る光球を励起魔力バリアを展開して受け止める。バリアにぶつかった光球が盛大に火花を撒き散らして突き抜けようとするが、励起魔力バリアはそれに耐えた。


 励起魔力バリアの陰から飛び出した俺は、『スキップキャノン』を発動してダークセベクをロックオンするとスキップ砲弾を撃ち出す。それに気付いたダークセベクが戦斧を振って邪気の刃を飛ばし、スキップ砲弾が亜空間に消える前に撃ち落とした。


 ここで引いたら攻められると判断した俺は、『フラッシュムーブ』を発動してダークセベクの懐に飛び込んだ。神剣ヴォルダリルに神威エナジーを注ぎ込むと、ダークセベクの腹に叩き込む。ダークセベクにはバリアや<邪神の加護>などの守りがあったのだが、神威エナジーは全てを斬り裂いた。


 跳んで下がったダークセベクが、苦しみながら両手を突き出す。魔法を使うのだと気付いた俺は、もう一度励起魔力バリアを展開した。すると、ダークセベクの身体から大量の邪気が溢れ出し、それが渦を巻く炎となって伸びてきた。


 その渦巻く炎が励起魔力バリアとぶつかり、力比べを始める。励起魔力バリアに励起魔力を供給している励魔球が低い唸り声のような音を発し始め、大量の励起魔力を発生させる。それほどのエネルギーを供給しないとバリアが維持できなくなっているのだ。


 反撃の準備として『ホーリーキック』を発動した時、励魔球が赤い光を放ち始めたので危ないと感じてバリアから跳び出す。その瞬間、バリアが崩壊してダークセベクの渦巻く炎が今まで居た場所を通り過ぎる。


「危ねえ」

 思わず声を上げ、危機を感じたので高速戦闘モードに移行した。高速でダークセベクの足元に跳び込むと太腿に蹴りを叩き込む。その衝撃で聖光貫通クラスターが足の甲から飛び出した。聖光貫通クラスターはダークセベクの強靭な足の筋肉を破壊して穴を開ける。


 片足が機能しなくなったダークセベクは、叫びながら転んだ。チャンスだ。ダークセベクの首近くに跳んだ俺は、その首に神剣ヴォルダリルを振り下ろして刎ねた。


「はあっ、しんどい」

 収納ピアスから不変ボトルを取り出し、万能回復薬を飲んで魔力と体力を回復する。ダンジョン神の方を見ると、形勢が悪くなっている。邪神の触手から大量の邪気玉が撃ち出され、ダンジョン神と烏天使に降り注いでいる。


『援護しないと、まずいです』

 何が効果的な援護になるか分からなかったので、大量の神威エナジーを邪神にぶつける事にした。神威エナジーをギリギリまで神剣ヴォルダリルに注ぎ込み、【神威飛翔刃】を起動させて神威エナジーの刃を邪神に向けて撃ち出す。


 その神威エナジーの刃が邪神に命中。普通なら真っ二つになるか大きなダメージを与えるかなのだが、邪神は弾き飛ばされて尻餅をついただけである。邪神玉の攻撃がやんでダンジョン神たちは、ホッとしたような感じだ。


 しかし、邪神はプライドを傷付けられて激怒した。憤怒の表情でこちらを睨んで咆哮を上げた。

『ヤバイです』

 丁寧な言葉遣いのメティスまで慌てている。邪神から膨大な邪気が放出され、それが大きな邪気玉のようになって超高速で飛んで来る。魔法を発動する時間はない。高速戦闘モードで逃げ出し、神威エナジーを放出して身体を包み込む。


 次の瞬間、近くの地面に特大邪気玉が着弾して爆発し、俺の身体は強烈な力で弾き飛ばされた。


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