第1066話 邪卒たちとの戦い

 気付いた時には知らない場所に立っており、周りには躬業を持つ戦士たちが居た。『神声』の三橋師範、『創僕』のアヴァロン、『天閃』のジョンソン、『御空』のハインドマン、『天翼』のブラッドリー、『鬼雷』の勇者シュライバーである。


「千佳は選ばれなかったか。それで良かったかもしれないな」

 俺は選ばれた戦士たちを見て呟いた。


「どういう事だ?」

 アヴァロンが疑問を口にする。俺はすぐに気が付いたので分かる事だけを説明する事にした。

「たぶん、ここに邪神が居るのだと思います。そして、俺たちは邪神と戦うために召喚されたんです」


 それを聞いたジョンソンが顔をしかめた。

「もし入浴中だったら、真っ裸で召喚されたのか? 無茶しやがるな」

「その時は、装備も一緒に転送すると思いますよ」


 その時、頭の中にダンジョン神の声が響いた。

【人類の戦士たちよ。邪神が強力な邪卒を召喚した。その邪卒を倒すのが、そちたちの役目だ】

 頭の中に指示と同時に、どこで戦いが始まっているかという情報が流れ込んできた。ここが新しく創られたダンジョンだという事が分かり、戦いは広大なダンジョンの中央付近で始まっているらしい。


「まず指輪を配布します」

 俺は『邪気耐性の指輪』を配布した。それを受け取ったハインドマンが首を傾げる。

「この指輪は?」

「『邪気耐性の指輪』です。邪神が発する邪気から、身体と精神を守ってくれると思います」


 俺はホバービークルを出して全員を乗せた。本当は六人乗りなのだが、無理をすれば七人乗れる。ホバービークルで決戦場となっているダンジョンの中央付近まで飛ぶと、邪神側とダンジョン神側が戦っている様子が見えてきた。


 着陸して全員を下ろすと作戦をどうするかという話になった。

「すでに戦いは始まっている。今から作戦を練る暇などない。ここはそれぞれの戦力で少しでも多くの邪卒を倒すしかないだろう」


 アヴァロンが結論を出した。それで皆が納得したようだ。そうとなれば戦いの状況を見極めなければ、と思い戦場を観察する。


 邪神は邪卒王やダークセベク、ダークゴーレム、それに多数の黒武者を召喚したようだ。黒武者は三百体ほど、邪卒王、ダークセベク、ダークゴーレムは数体ずつ召喚している。


 それに対するダンジョン神側は、烏天使の配下らしい白い巨狼が数多く召喚されて戦っていた。あちこちで何かが爆発する音が響き渡り、ここが戦場だという事を知らせている。残念ながら、邪神やダンジョン神の姿は見えない。もっと奥で戦っているようだ。


 俺はアヴァロンたちにダンジョン神と烏天使の特徴を教えた。間違ってもダンジョン神を攻撃するような事があってはならないと考えたのだ。


 それから魔物と間違われて攻撃されてはたまらないので、影からエルモアと為五郎を出して紹介した。

「そういう事なら、私も紹介しておこう」

 アヴァロンがそう言うと、収納アイテムの中から巨大なゴーレムを出した。それは全長が七メートルほどもある大蜘蛛で、朱鋼で造られているようだ。しかも背中には砲塔のようなものがある。蜘蛛型戦車という事だろうか?


「背中のものは、砲塔ですよね? 普通の砲弾だと邪卒には効きませんよ」

 俺が声を上げるとアヴァロンがニヤッと笑う。

「砲弾は生活魔法の『ホーリーメタル』で<清神光>を付与した蒼銀製だ。邪卒のバリアを貫通できる事は確かめてある」


 蒼銀製の砲弾か。一発いくらするのだろう? 余計な事を考えていると他の冒険者たちが敵を定めて動き出した。俺もエルモアたちと一緒に走り出す。


 最初に戦う相手として選んだのは、黒武者の集団だった。俺たちに気付いた黒武者集団が、武器を持って迫っている。この戦場において、黒武者は雑魚である。その雑魚集団に一匹の白い巨狼が襲い掛かろうとしていた。


「待て!」

 俺は白い巨狼に向かって叫んだ。日本語を理解しているかどうかは分からないが、止めたのは分かったようだ。白い巨狼が止まったのを確かめ、『ダークネスレイン』を発動して一万五千発の黒炎弾を放った。


 黒炎弾は次々に黒武者を貫いて仕留めていく。その攻撃で二十体以上の黒武者が黒い霧となって消えた。後は残党狩りである。俺とエルモアたちが武器を持って走り出すと、白い巨狼も走り出して生き残った黒武者に襲い掛かった。


 白い巨狼は黒武者の頭に噛み付くと、振り回して地面に叩き付けた。その衝撃で黒武者の首が千切れ、黒い霧となって消える。白い巨狼はかなりの強者らしい。


 アヴァロンの戦いが目に入った。アヴァロンは蜘蛛型戦車と生活魔法の『プロジェクションバレル』を組み合わせ、電磁投射砲戦車として活用している。蜘蛛の足で駆け回りながら、ダークゴーレムに砲弾を叩き込んで破壊している。


 それに触発されたのか。エルモアが神弓シャランガを取り出し、ボディに内蔵している励起魔儺発生装置から発生する励起魔儺をシャランガに注ぎ込む。そして、励起魔儺の矢を形成すると邪卒王を狙って放った。


 膨大なパワーを秘めた励起魔儺の矢は、大気を切り裂いて音速の何倍もの速さで飛翔して邪卒王の頭にある鶏冠に向かう。その鶏冠が邪卒王の自己治癒能力を高めているという情報は広まっていた。バリアを突き抜けて<邪神の加護>も撥ね退けた励起魔儺の矢が、鶏冠がある頭に命中して爆発。


 その爆発で邪卒王の鶏冠が吹き飛んだ。それを見た為五郎がダスクバスターを取り出す。ダスクバスターに魔儺を注ぎ込んだ為五郎が邪卒王の頭を狙って引き金を引いた。ダスクバスターの銃身が光り輝き、凄まじい威力を持つ朱色の光線が撃ち出された。


 朱色の光線は邪卒王のバリアを貫通し、巨大な頭に命中して頭蓋骨を分解して脳に穴を開ける。その一撃は致命傷にはならなかったが、邪卒王に大きなダメージを与えた。


「エルモアと為五郎は、そのまま邪卒を倒してくれ。俺は奥へ移動して邪神がどんなやつか確かめてくる」

『危険ですよ』

「負けたら人類が終わりなんだ。今は勝負を掛ける時だ」


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