第1065話  邪神戦の始まり

 ダンジョン神たちは邪神の動きを確認して地球への到着時間を割り出した。そして、降臨場所がどこかを推理する。


【邪神は、地球から発せられる誘導波を辿って、飛翔しているようでございます】

【すると、人類の裏切り者が設置した誘導装置がある場所に降臨する確率が高いな】

【ならば、そこに歓迎の仕掛けを施しましょう】

 ダンジョン神が笑った。

【そうだな。遥か遠くから来たのだ。十分にもてなしてやらねば……】


【代理神様、回復の具合は如何ですか?】

【心配するな。七割ほどまで回復している。邪神ハスターも万全な状態ではないから、五分五分というところだろう】


【そうなりますと、配下の我々と地球の戦士が勝負を左右するかもしれないという事でございますね?】

【うむ、特にここへ来た者が勝敗の鍵となるだろう】

【あの者は複数の躬業を手に入れておりますので、強力な戦士となっています】

【それに封神剣も持っている】


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 そんな会話があった次の日、世界各国にまた邪卒が現れた。今度は黒武者の集団とダークウルフの群れだった。日本の東京にも邪卒たちが現れた。冒険者ギルドは邪卒と戦える冒険者を東京に派遣する事にした。


 当然、俺も呼ばれて東京へ向かう事になった。一緒に行くのは、三橋師範とタイチ、それにシュンである。アリサや千佳は渋紙市に残る事にする。戦力としては四人で十分だと判断したのだ。


 俺たちは冒険者ギルドのワンボックスカーで東京に向かった。その途中、東京から脱出しようとする車と擦れ違う。


「グリム先生、もうすぐ邪神が降臨するというのは本当なんですか?」

 タイチが尋ねてきた。

「今日降臨するかどうかは分からないが、近々降臨するのは間違いないだろう」

「その時、ダンジョン神に選ばれた七人が召喚され、邪神と戦う事になると聞きました。先生もその一人では?」


「たぶんな。三橋師範も候補だと思う」

「えっ、三橋師範もですか?」

 それ聞いた三橋師範がジロリとタイチを睨む。

「儂では実力不足だと言うのか?」

 タイチが顔の前で手を振って否定した。


「そんな事は言っていませんよ。ただ師範はA級になったばかりだから、どういう基準で選んでいるんだろうと思っただけです」


「選んだ基準は、どれだけ強い魔物を倒したかだと聞いている。但し、倒し方も基準の一つになっていると思う」


 俺が言うとタイチが納得したように頷いた。東京に近付くに連れ、歩いて東京を脱出しようとしている人々を見る事が多くなった。電車やバスは止まっており、車もないので歩くしかなかったのだ。


 邪卒が暴れ回っている秋葉原に近付くと、車から降りて徒歩で現場に近付く。

「手分けして邪卒を倒そう」

 そう言うと他の三人が別々の道へと走って行った。俺は駅に向かって進み始め、黒武者と冒険者が戦っているところに遭遇した。周囲に気を配ると、そういう状況が多数起きているのに気付く。


「くたばれ!」

 攻撃魔法使いらしい冒険者が、『デビルキラー』で黒武者にトドメを刺した。俺は邪卒の数が多いところを探して移動する。そして、九匹のダークウルフが密集しているのを見付けた。高速戦闘ができるダークウルフは厄介な邪卒である。


 俺は『ダークネスレイン』を発動し、一万五千発の黒炎弾をダークウルフの群れに向けて撃ち込む。高速で飛翔した黒炎弾は雨のようにダークウルフに降り注いだ。逃げられないように広範囲を指定して撃ち込んだので黒炎弾の密度が薄くなり、運の良いダークウルフは黒炎弾が命中しなかった。


 だが、それらの運が良いダークウルフは二匹だけだった。神威エナジーを注ぎ込んだインドラブレードを手にした俺は、高速戦闘モードに切り替えてダークウルフに向かって走り出す。ダークウルフもそれに気付いて高速戦闘モードで向かって来た。


 先頭を走るダークウルフにインドラブレードを振り下ろす。ダークウルフは斜め前に飛んで攻撃を避けると、俺の側面を狙って飛び掛かってきた。


 それを『カーリープッシュ』の聖光反射プレートをぶつけて止め、そこにもう一度インドラブレードを振り下ろした。今度は避けられなかったダークウルフの頭が真っ二つとなった。その時、もう一匹が襲い掛かってきたが、『ホーリーソード』を発動して聖光ブレードで斬り捨てる。


 以前に比べて短時間で倒せるようになった。俺自身もジョンソンたちと同じく特訓したので技量が上がっている。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 同時刻、宇宙を飛んで来た邪神が地球の大気圏に突入した。その身体は分厚い邪気を纏っているので、大気との摩擦で燃え上がる事はない。ただ大気と邪気がぶつかり紫色の光を放ち始める。


 その光をロシアの首都に住む人々が目撃する事となった。邪神はモスクワを目指して降臨してきたのだ。ソコルニキ公園に落下した衝撃で爆発が起き、着地点の半径一キロがクレーターとなる。そして、爆風が首都モスクワを襲い、それにより多くの建物が崩壊した。


 次の瞬間、神域で準備していた仕掛けを烏天使が作動させる。すると、邪神を囲うように光の魔法陣が浮かび上がり、そこに新しいダンジョンが発生した。タイミング的に避ける時間がなかった邪神は、ダンジョンに呑み込まれて大規模ダンジョンの一層に放り込まれた。


 そして、世界の人々の頭にダンジョン神の言葉が響き渡る。

【地球の者たちよ、決戦の時が来た。そなたらの代表である七人の戦士を召喚する】


 その言葉は七人の戦士たちの頭にも響き渡り、身体が何かに包み込まれて放り投げられる。気付くとダンジョンらしい場所に転移させられていた。


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