第1063話 ロシアの公式発表
ダンジョンの入り口前で停止した邪卒王に向け、アヴァロンは『クーリングボム』を発動して冷却弾を放った。冷却弾は邪卒王の手前で亜空間に入り、その邪卒王の心臓がある辺りに飛び込もうとした。同時にハインドマンが『デーモンイレイザー』を発動して聖光紡錘弾を邪卒王の脳天に向けて放つ。
聖光紡錘弾と冷却弾は命中するかと思えたが、一瞬だけ早く邪卒王の姿が空中に溶けるように消えた。
「しまった」
アヴァロンはダンジョンの入り口近くに着陸し、ホバーバイクをハインドマンに預けた。
「まさか、中に入るのですか? 今は封鎖中だから中は灼熱地獄ですよ」
「生活魔法の中に熱を防ぐ魔法がある。それがあれば、大丈夫なはずだ」
「くっ、攻撃魔法にそんな便利な魔法があれば、一緒に行くのに」
「君は邪卒の始末を頼む」
ハインドマンは頷き、ホバーバイクのハンドルを握った。特訓中にホバーバイクの操縦を教えてもらったので、ハインドマンも操縦できる。
ハインドマンが地元冒険者と邪卒が戦っている場所に向かって行くと、アヴァロンは炎獄ダンジョンの扉を魔法で爆破した。
中に入ったアヴァロンは、溶鉱炉の近くに居るような熱気を受けて『ヒートレジストコート』を発動する。熱気が遮断されると、アヴァロンはホッとした。
「あいつ、どこへ行った」
魔力感知を使って邪卒王を探すと、一層の中央にある火山の近くで中に潜り込もうとしているところだった。
「させるか!」
そう叫んだアヴァロンが『ダークネスレイン』を発動し、一万五千発の黒炎弾を邪卒王に叩き込む。邪卒王の巨大な背中を追って飛翔する黒炎弾に気付いた邪卒王は、大きな尻尾を盾のように持ち上げた。
黒炎弾は尻尾に命中して邪卒王の皮に穴を開ける。別の黒炎弾がその穴に食い込んで筋肉を切り刻むと、次々に黒炎弾が命中して傷口を広げて大きな穴を穿った。その結果、邪卒王の尻尾が千切れて黒い霧となって消える。
邪卒王は尻尾を犠牲にして火山の中に潜り込んだ。それを見たアヴァロンは悔しがったが、諦めてはいない。魔力感知を使って邪卒王の位置を探り始める。
火山の中に入った邪卒王はマグマ溜まりを目指して掘り進んだ。そして、マグマ溜まりの中に入ると、その熱エネルギーを吸収する。そして、熱を別のエネルギーに変換して宇宙空間を飛んでいる邪神に向かって送り出す。
そのエネルギーを受け取った邪神は、地球に向かって加速した。その顔には人間が見たなら卒倒しそうなほどの邪悪な喜びが浮かび上がった。
一方、炎獄ダンジョンのアヴァロンは邪卒王の位置を探り出して『クーリングボム』を発動すると冷却弾を放った。亜空間に消えた冷却弾は、邪卒王の傍に飛び出して効果を発揮する。すると、周囲のマグマが冷えてエネルギーの回収ができなくなった。
それを嫌った邪卒王はマグマ溜まりの中を熱を求めて動き回る。そうして邪神にエネルギーを送り続けていた。
魔力が心細くなったアヴァロンは不変ボトルを取り出して万能回復薬を飲んで魔力を回復。それから連続で『クーリングボム』を発動し、マグマ溜まりの中に次々と冷却弾を放り込む。邪卒王を捉えようとするが、動き回る邪卒王に中々命中しない。
そして、四つ目の冷却弾を放り込んだ時、邪卒王に直接ヒットする。怒り狂った邪卒王が火山から飛び出してきた。姿を見せた邪卒王は口から火の玉を吐き出してアヴァロンを攻撃する。
「あいつの治癒能力が邪魔だな」
アヴァロンは治癒能力と関係していると思われる邪卒王の鶏冠を破壊しようと考えた。飛んで来る火の玉を避けながら『ホーリーメテオ』を発動し、聖爆隕石弾を邪卒王の脳天を狙って落とす。
邪卒王はアヴァロンを狙って火の玉を吐き出す攻撃を繰り返していたので、聖爆隕石弾の存在に気付くのが遅れた。その結果、聖爆隕石弾が邪卒王の頭に命中する。そこには紫色の鶏冠があり、爆発により鶏冠が粉々になった。
「やったぜ」
アヴァロンはニヤッと笑い『ダークネスレイン』を発動する。そして、一万五千発の黒炎弾を邪卒王の首に撃ち込んだ。黒炎弾の一発一発はそれほど威力がない。だが、一万五千発が集中すると邪卒王の首に大穴が開いた。
苦しみ藻掻く邪卒王に近付いたアヴァロンは、慎重に狙いを付けて『スキップハープーン』のスキップ銛弾を邪卒王の心臓があると思われる位置に送り込んだ。亜空間に消えたスキップ銛弾が邪卒王の体内に飛び込み、心臓の近くで爆発。それにより邪卒王の心臓が破壊された。
邪卒王がビクンと痙攣してから動かなくなった。アヴァロンは仕留めたかどうかを確認するまで気を抜かない。そして、邪卒王の巨体が黒い霧となって消え始めるとホッとした。
アヴァロンは灼熱地獄のダンジョンから急いで出ると、邪卒たちがどうなったか確認した。百匹ほど居た邪卒は僅か数匹にまで減っている。
その邪卒にチャリスが『アンチイービルバレット』を発動し、<破邪光>の効能を付与した魔力弾を放った。この魔法は最近になってステイシーが開発したもので、攻撃魔法の『バレット』に<破邪光>の効能を追加したものだ。邪卒や邪神眷属に有効だが、威力は攻撃魔法の基本である『バレット』より少し上という程度である。
『アンチイービルバレット』は習得できる魔法レベルが『6』になっており、比較的習得しやすい攻撃魔法だ。チャリスが威力が低い『アンチイービルバレット』を使っているのは、魔力消費を抑えるためだろう。
アヴァロンが様子を確かめている間に、生きている邪卒は居なくなった。チャリスとハインドマンがアヴァロンのところへ来る。
「アヴァロンさん、邪卒王は倒したんですか?」
チャリスが確認した。
「ああ、倒した。だが、ちょっとの時間だが、やつを火山に潜らせてしまった」
それを聞いたハインドマンの顔色が変わる。
「グリム先生と親しいジョンソンから聞いたのですが、邪卒王が火山に潜るのは火山の熱エネルギーを変換して邪神に送るためだという話です」
チャリスが苦虫を噛み潰したような顔になる。
「邪神がパワーアップするという事ですよね。……人類はどうなるんでしょう?」
「暗い顔をするな。ダンジョン神と一緒に戦い、勝つしかないだろう。そのために修業したんじゃないのか?」
チャリスは頷いたが、顔に浮かんだ暗い表情はそのままだった。
それから邪卒の生き残りが居ないかという確認は、地元冒険者に任せ、アヴァロンたちは飛行機でイギリスに向かった。その帰国途中、大ニュースがロシアから発表された。邪神ハスターが三日後に降臨するというロシア大統領の公式発表である。
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