第1062話 邪卒王の狙い

 アヴァロンは近くで邪卒王を観察した。邪神がなぜ火山がないフィンランドへ移動したのか疑問に思っていたので、以前に倒した邪卒王と差がないかチェックしたのだ。


「ん? あいつの頭に紫色の鶏冠とさかのようなものがあるな。以前に戦った邪卒王にはなかった。あの鶏冠に何の意味があるんだ?」


 アヴァロンは少し前までハインドマンに任せるつもりでいた。だが、あの邪卒王を危険だと判断して全力で倒すべきだと考え始めた。まずは邪魔な邪卒の数を減らす事にする。『ダークネスレイン』を発動したアヴァロンは、一万五千発の黒炎弾を後方に居る邪卒たちを狙って撃ち出した。


 雨にように降り注いだ黒炎弾は、四十匹ほどの邪卒を貫いて倒した。残りの邪卒はチャリスと地元冒険者に任せ、アヴァロンは邪卒王に目を向ける。


「ハインドマン、速攻で仕留めるぞ」

「任せてくれるんじゃなかったんですか?」

「あの邪卒王は何か違う。嫌な予感がするんだ」

 それを聞いたハインドマンは顔色を変えた。アヴァロンの勘は的中する確率が高いのだ。

「分かりました」


 アヴァロンは生活魔法の魔法レベルを『26』にまで上げていた。その御蔭で『クーリングボム』や『スキップハープーン』も使える。但し、『スキップハープーン』は追尾機能に魔力感知を使っているので、有効射程が短くなっている。これは『スキップハープーン』が水中で使う魔法なので、<電磁波感知>の特性が使えなかったからだ。


 邪卒王が口を開けて直径が一メートルもありそうな火の玉を吐き出した。その火の玉がハインドマンを襲う。ハインドマンは『フリーズキャノン』を発動して氷結炸裂弾で迎撃した。火の玉と氷結炸裂弾がぶつかり、大規模な爆発が起きた。


 その爆発の間に邪卒王の横に回り込んだアヴァロンは、『クーリングボム』を発動して冷却弾を邪卒王に放つ。亜空間に跳び込んでバリアを突破した冷却弾は、<邪神の加護>も無効化して邪卒王の体内に飛び込んで効果を発揮した。だが、狙いが浅く邪卒王の分厚い脂肪の中だったので、大きなダメージを与えられなかった。


 邪卒王は南に向かって歩き出した。それは何か目的があるように感じたアヴァロンは、その方角に何があるかを冒険者ギルドの職員に確かめようと思った。


 邪卒王から離れたアヴァロンは、職員を探して確認した。

「あの方角には、封鎖ダンジョンがあります」

「フィンランドに、封鎖ダンジョンがあったとは知らなかった。どういうダンジョンなんだ?」

「一層が火山地帯となっており、炎獄ダンジョンと呼ばれています」


「まずい。ダンジョンの中にある火山は、全然考えていなかった」

 アヴァロンは邪卒王が炎獄ダンジョンに入る前に仕留めようと決意した。『フライ』を使って飛んで邪卒王に追い付くと、戦っているはずのハインドマンを探した。


 ハインドマンは『ペネトレイトドゥーム』を発動し、魔儺で形成された砲弾を邪卒王に撃ち込んだところだった。邪卒王の背中に命中した砲弾は爆発し、その背中にクレーターを作る。


 アヴァロンはハインドマンの横に着地して話し掛けた。

「邪卒王の狙いが分かった」

「その狙いというのは?」

「あいつは向こうにある炎獄ダンジョンの火山に潜り込もうとしているんだ」


 ハインドマンが首を傾げた。

「炎獄ダンジョン? 聞いた事がないです」

「封鎖ダンジョンの一つらしい。一層に火山があるそうだ」

「なるほど。その火山を邪卒王が狙っているという事ですか」

 アヴァロンとハインドマンは、全力で邪卒王を倒そうと攻撃を仕掛けた。だが、邪卒王はラストスパートするように急ぎ始めた。炎獄ダンジョンに近付いたのだ。


 アヴァロンは『デーモンイレイザー』の聖光紡錘弾を邪卒王の背中に撃ち込んだ。その攻撃は巨大な背中に命中して大きなクレーターを作る。追撃しようとしたアヴァロンは邪卒王の鶏冠が光ったのに気付いた。その直後から急速に傷が塞がり始める。


「おかしいぞ。『デーモンイレイザー』で出来た傷痕が消えていく」

 ハインドマンが頷いた。

「これほどの自己治癒能力があるとは、知りませんでした」

 アヴァロンは唇を噛み締めた。以前に戦った邪卒王には、これほどの治癒能力はなかった。

「チッ。邪神のやつ、邪卒王を改良したな。これだと一気に仕留めるしかない」


 アヴァロンとハインドマンは、邪卒王の両脇に回り込むと首を一斉に攻撃して仕留める作戦を実行した。『デーモンイレイザー』の聖光紡錘弾が、二発とも邪卒王の首に命中して爆発。前回戦った時は、聖光紡錘弾二発を邪卒王の首に命中させて倒した。今回もと考えたのだが、この邪卒王は死ななかった。


 苦しそうにしていたが、頭の鶏冠を光らせて見ているうちに傷口が塞がり、首が再生していく。

「もう一発だ!」

 アヴァロンが怒鳴る。ハインドマンがもう一度『デーモンイレイザー』の準備を始めた。その時、邪卒王が急に走り出した。


 ドガドガと音を響かせて炎獄ダンジョンに向かう邪卒王。もう一度首を狙うには、邪卒王に追い付いて横から首を狙うか、飛んで上から首を狙うかしかない。


 アヴァロンたちは、ホバーバイクに乗って邪卒王を追い掛けた。追い付いて攻撃しようとした時、邪卒王の背中にある複数の瘤から炎が噴き出した。


 アヴァロンは慌てて旋回すると炎を避ける。その後も何回か攻撃をしようとするが、そのたびに背中から炎を噴き出して邪魔された。


「クソッ」

 アヴァロンが悔しそうに声を上げる。

「あれは……炎獄ダンジョンの入り口じゃないですか?」

 ハインドマンが声を上げる。

「あの入り口の大きさだと、邪卒王は普通の方法で中に入れない。きっと立ち止まって転移するはずだ」


 巨大な魔物がダンジョンの外に出る時、転移しているらしいという説がある。アヴァロンはその現場を見た事があるという。


「分かりました。その止まった時に攻撃するんですね」

 ホバーバイクの後ろに乗っているハインドマンが言った。その直後、邪卒王がダンジョンの入り口の前で止まった。


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