第1061話 フィンランドの邪卒王

 アヴァロンとハインドマンがロンドンの冒険者ギルド本部に入ると、すぐに理事長室へ案内された。そこには先に来ていたチャリスが待っていた。


「お前も呼ばれたのか?」

 アヴァロンがチャリスに声を掛けた。

「これでもA級十三位ですからね」

「そうだったな。だが、いいのか?」

 アヴァロンはコリンズ理事長に顔を向けて言った。

「いいのかとは?」


 コリンズ理事長は意味が分からなかったようだ。

「ここに私とチャリスを呼び出したという事は、フィンランドの邪卒王を討伐してくれという依頼じゃないのか?」


 理事長が頷いた。

「その通りだ。二人には邪卒王を駆除して欲しいのです」

「自分で言うのもなんだが、私とチャリスは国でトップクラスの戦力だ。両方をフィンランドへ行かせると、我が国の守りが薄くなる」


 理事長が苦笑いする。

「その心配は必要ありません。他の冒険者も随分と腕を上げましたから」

 何となく危機が迫っていると感じている冒険者は多く、ハインドマンのように特訓を始めている者も多い。なので、最近の冒険者の技量は上がっている。


「この国に、邪卒王が現れる恐れはないという考えなのか?」

「邪卒王は火山のある場所に現れるのでは?」

 確かにそういう傾向があるのも事実だが、確実なものではない。イギリスのグレートブリテン島や北アイルランドには火山がないが、フィンランドにも火山はなかったはずだとアヴァロンが指摘した。


「いやいや、もう一つ理由があるのだ」

 理事長が言い出した。

「その理由というのは?」

「今回の邪卒王は、ロシアで出現したものがフィンランドへ移動した。ロシアが邪卒王の出現に協力しているのではないかと、我々は疑っている」


 アヴァロンたちは腑に落ちないという顔をする。邪神は一般的に人類を滅ぼす存在だと言われている。なので、人間や国家が邪神に協力するなど、あり得ない。


「納得できないというのは、理解できる。だが、ロシアの新しい大統領ルカショフは、邪神の眷属になったようだ」


「信者でなく眷属というのは?」

 理事長が不快そうに顔を歪めた。

「人間をやめて、邪神眷属となったという情報を入手している。これはロシアからの亡命者が伝えたもので、確度の高い情報なのだ」


「マジですか?」

 チャリスが確かめると理事長が真面目な顔で頷いた。

「本当の事だ。ルカショフは邪神眷属になり、反対勢力の者たちを何人も殺して政府を掌握したそうだ」


「しかし、どうやって邪卒王の出現に協力しているのです?」

「そこまでは分からない。だが、ロシアと国境を接している国には警告を出している」

 ハインドマンは邪神が近付いているという感じがして不安になった。


 結局、アヴァロンとチャリス、それにハインドマンの三人はフィンランドへ行く事になった。他のヨーロッパ諸国からも冒険者が派遣されるようだが、イギリスのようにトップを送る国はなかった。それぞれの国は自国の安全を一番に考えたのである。


 アヴァロンたちは飛行機でヘルシンキまで飛び、そこから冒険者ギルドの車でロシアとの国境近くにあるリエクサという町に向かった。町に近付き、その様子が見えてくる。普段は森に囲まれた静かな町なのだが、今は町全体が燃えているように見える。


 町の中央には巨大なサンショウウオが鎮座していた。この巨大で真っ赤な邪卒王は高熱を出しており、その周囲は燃え上がっている。


「住民は避難したのか?」

 アヴァロンが冒険者ギルドの職員に問う。職員が暗い顔になって頷いた。

「はい。生きている一般人は避難しています。残っているのは冒険者だけです」

 その答えを聞いて死傷者が大勢出たのだろうとアヴァロンは推測した。周りを見回すと多くの家が燃え、ビルなども破壊されている。そして、邪卒王の見張りをしている地元冒険者たちの顔に憎悪が浮かんでいた。


「他の国の冒険者は?」

「少し遅れているようです。彼らを待ってから攻撃を始めてください」

 邪卒王は配下の邪卒を召喚できるので、その方が良いだろうとアヴァロンたちも判断した。そして、少し離れたところに戻って待とうと思った時に、邪卒王が町の教会を破壊した。


 それを見た地元の冒険者が切れた。

「畜生!」

 地元の冒険者の中の一人が『デビルキラー』を発動し、<破邪光>の効能が付与された徹甲魔力弾を放った。その攻撃は邪卒王のバリアを貫通したが、そこで力尽きて消える。


 邪卒王は近くに敵が潜んでいる事に気付き、全身に力を漲らせると真っ赤な頭の上に瘤がボコッとせり上がらせる。その直後、その瘤に悪魔の顔が浮かび上がって不気味で不快な声を張り上げた。


「まずい。邪卒を召喚するぞ」

 アヴァロンが声を上げた。すると、邪卒王の周囲に次々に黒武者やダークウルフ、ダークゴーレムなどの邪卒が現れ、地元冒険者に襲い掛かり始めた。


 この町に残った地元冒険者は精鋭集団であり、邪卒を倒す手段を持っていた。攻撃魔法使いは『デビルキラー』で迎撃し、魔装魔法使いは生活魔法の『ホーリーメタル』により<清神光>の特性を付与された蒼銀製の剣や槍で邪卒を攻撃した。


 生活魔法使いも少数だが居るようで、『ホーリーソード』や『ホーリーキャノン』で戦っている。但し、残念ながら高レベルの生活魔法使いは居ないようだ。


「仕方ない。戦いが始まったからには、あの邪卒王を倒すぞ」

 アヴァロンが声を上げると、チャリスとハインドマンが頷いた。ハインドマンは特訓の成果を試すために跳び出すと、『デーモンイレイザー』を発動して聖光に似た光を放つ聖光紡錘弾を邪卒王に向かって放った。


 聖光紡錘弾は邪卒王のバリアを突破し、<邪神の加護>も無効化して邪卒王の横腹にめり込むと爆発。その爆発で邪卒王の横腹に直径二メートルほどの穴が開いた。


「さすがに三十メートルほどの邪卒王だと、一発では仕留められないな」

 ハインドマンが渋い顔をする。

「一発でダメなら二発、三発と続けろ。それと急所を狙え」

 アヴァロンがアドバイスした。


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