第1060話 ルカショフ大統領
モスクワに戻った影の大統領ルカショフは頭を抱えた。
「なぜ、失敗した。やはり強化結晶でないとダメだったのか?」
アメリカから持ち帰った召喚石を手に取ったルカショフは、それをジッと見詰めた。五分ほどした時、頭の中で声が聞こえた。
【我を信じる者よ。召喚石に純粋な魔力を注ぎ込め、召喚石を
「道標でございますか?」
【星に至る道を示すのだ】
邪神はアメリカに召喚される途中でグリムに攻撃され、通常空間から弾き飛ばされて次元の
「もちろん、しもべとして全力を尽くします。ですが、何か褒美を頂けたなら励みになるのですが」
【……良かろう。そちに『
「躬業と申しますと、アメリカが探していたものですな。その『沌焉』はどのようなものなのでしょう?」
【生物に死をもたらすものだ。使い方によっては支配する事もできる】
ルカショフは『支配』という言葉を聞いて決心した。その瞬間、召喚石を媒介として邪神と繋がっていたルカショフに、人間にとって異質な力が流れ込んできた。それは『混沌』と『終焉』を司る力であり、地球にある生命とは
その力を受け入れたルカショフの精神が変化を始める。人間を捨て心の底から邪神の下僕となり、その眼の瞳が紫色に染まる。それは邪神の下僕となった印だった。
ルカショフはマゴメドフ情報局部長を呼んだ。部屋に入って来たマゴメドフ情報局部長は、ルカショフを目にしてビクッと反応し、怯えたような表情を浮かべる。
「ご、ご用件は何でしょう?」
ルカショフは大型の魔石リアクターと大量の魔石を用意するように命じた。それを聞いたマゴメドフ情報局部長は逃げるように部屋から出た。
そして、十分に離れたと思った時、呟いた。
「ルカショフは、人間をやめて化け物になってしまった」
マゴメドフ情報局部長は、ルカショフが化け物になったと感じた。しかし、それを本当の大統領に報告する事はしなかった。恐怖が植え付けられ、命令に逆らう事ができなかったのだ。
その数日後、モスクワのある建物の屋上に大型魔石リアクターが設置され、大量の魔石が集められた。用意が整った日、その建物の屋上にルカショフが現れた。
その姿を見たマゴメドフ情報局部長は、心臓が何者かの手で掴まれたような感じになった。
「よ、用意は整っております」
ルカショフが頷いた。
「これから神のために道標を作る。誰にも邪魔をさせるな」
「畏まりました」
マゴメドフ情報局部長は、部下に建物の警備を命じると逃げ出した。亡命するために家族を連れてイギリス行きの飛行機に乗った。
一方、屋上に残ったルカショフは、魔石リアクターが発生する純粋な魔力を召喚石に注ぎ込んだ。すると、召喚石が紫色の光と未知の力を放った。
それは次元の狭間に落ちた邪神にまで届き、神と呼ばれる存在が全力で動き始める。次元の狭間に亀裂が生まれ、そこから邪神が抜け出した。その抜け出した先は、一つの恒星が見えた。
【やっとここまで来たか。我に攻撃を加えたやつは、八つ裂きにして魂まで消滅させてやる】
邪神はその恒星の周りを回る三番目の惑星に向けて飛び始めた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
その頃、イギリスのアヴァロンはアメリカのハインドマンを鍛えていた。血反吐を吐くほどの特訓で、ハインドマンは痩せて人相まで変わった。
「私も日本へ行けば良かった」
訓練を終えたハインドマンは、激しく後悔していた。アヴァロンは教える事に慣れていなかった。そこで自分を基準にして訓練方法を決めたらしいのだが、それはハインドマンにとって地獄となった。とは言え、その特訓の御蔭でハインドマンの実力は急激に上がった。
これならソロで邪卒王も倒せると思えるほどだ。そんな時にロシアでクーデターが起きた。ロシアの大統領が殺され、影の大統領ルカショフが政府を掌握したのだ。
ロシアほどの大国でクーデターが成功するなど考えられない事だった。だが、ルカショフはクーデターを成功させ、正式な大統領になった。
それどころか、諸外国との連絡を絶って入国の制限を始めた。諸外国は不安になり、ロシアの情報を手に入れようとしたが、非常に難しくなっている。
その話を聞いたアヴァロンとハインドマンも不安になり、ロシアの動きをチェックしていた。すると、ロシアと国境を接するフィンランドで邪卒王が発見されたというニュースが流れてきた。
その邪卒王はロシアの領土からフィンランドへ入って来たらしい。
「フィンランドか。あの国に邪卒王を倒せる冒険者が居たかな?」
アヴァロンが首を傾げた。それを聞いたハインドマンが難しい顔になる。
「確かフィンランドのトップは、B級だったはずです」
「まずいな。フィンランドの人口はイギリスの一割ほどで、軍事力も小さい。邪卒王に蹂躙されるぞ」
「ヨーロッパ諸国は、援軍を出すでしょうか?」
ハインドマンが質問した。
「この場合に必要なのは正規軍より、冒険者の派遣だろう。冒険者ギルドのトップがどう判断するかだな」
そう言った次の日、アヴァロンとチャリスがロンドンにある冒険者ギルド本部に呼ばれた。用件は大体予想がついたので、アヴァロンも急いでロンドンに向かう。その時、ハインドマンも一緒に行った。訓練した成果を試せるチャンスが来たと考えたのだ。
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