第1059話 ストームドレイクの一斉攻撃

 翌日、階段に固定したハンモックの上で起きた俺は周りを見回した。階段の出口ではエルモアが見張りをしており、ジョンソンはまだ寝ている。


 階段に降りてハンモックを片付けると、出口に近付いて外を見る。上空では一匹のストームドレイクが旋回している。復活したという事なのか、それとも他の場所に居たストームドレイクが飛んで来たのだろうか?


「食事にしよう」

 ジョンソンが起きて来て声を上げた。頷いた俺はマジックポーチⅧから執事シャドウパペットのトシゾウが作った焼き魚朝食セットを取り出して食べ始めた。トシゾウが作ったのは、ホテルで出されるような朝食セットで美味しかった。


 ジョンソンはハンバーガーを食べている。そういうのを見るとアメリカ人だな、と思う。

「まだストームドレイクは居るのか?」

 ジョンソンがハンバーガーを片手に持って尋ねた。

「ああ、居るようだ。だけど、今日の狩りは三十二層の奥に移動しないとダメかもしれない」


「そうかもな」

 昨日八十匹くらいを倒したばかりなので、すぐには復活しないだろうとジョンソンも考えたようだ。


 朝食を済ませてから支度して三十二層の荒野へ進み出た。上空を飛んでいたストームドレイクが仲間を呼ぶ鳴き声を上げながら急降下してきた。


 ジョンソンはストームドレイクがブレスを吐く前に『ガイディドブリット』を発動して攻撃した。ストームドレイクが口を開けてブレスを吐こうとした瞬間、D粒子誘導弾が命中して空間振動波が放射されてストームドレイクに致命傷を与えた。


 魔石を回収して少し様子を見たが、二匹のストームドレイクが姿を現しただけ。その二匹を倒すと、この辺の上空にいるストームドレイクは全滅したようだ。


「場所を移動しよう」

 俺たちは三十二層の奥へと進み出す。それから二時間ほど歩いたところで、前方の上空にストームドレイクが数匹飛んでいるのを見付けた。


「この辺なら、集まってきそうだ」

 ジョンソンが声を上げると、それに反応したかのようにストームドレイクたちが鳴き声を上げながら急降下してきた。当然生活魔法を使って迎え撃つと、周囲から次々にストームドレイクが集まってきた。


 その数が三十匹を超えた時、その集団がおかしな行動を始めた。襲い掛かって来ずに、俺たちの上空を一斉に旋回し始めたのだ。


「何をするつもりだ?」

 俺とジョンソンは嫌な予感を覚え、『ハイパーバリア』を発動すると励起魔力バリアを張る準備をした。その時、旋回していた三十匹ほどのストームドレイクが渦を巻きながら急降下する。しかも、同時に口を開けてストームブレスを吐く仕草を見せた。


「励起魔力バリアじゃダメだ。回避するぞ!」

 俺はジョンソンに警告して『フラッシュムーブ』を発動する。その瞬間、ジョンソンも何かの魔法を発動する気配がした。俺は百メートルほど横に移動。俺たちが移動したのに気付く前に、ストームドレイクたちが一斉にブレスを吐き出す。


 魔力を含む竜巻が三十本ほど集まって俺たちが離れた地面を攻撃する。盛大に土砂が舞い上がり、地面に大きな傷が刻まれた。仮に励起魔力バリアを張ったとしても、三十匹のストームドレイクから吐き出されるブレスに耐えられたか分からない。


 ジョンソンが反撃を用意していた。『ダークネスレイン』を発動し、一万五千発の黒炎弾をストームドレイクの群れに撃ち込んだ。前回は俺が囮になってストームドレイクを誘い込んだので密集していたが、今回はストームブレスを吐き終わって散開するタイミングだったので、九匹のストームドレイクを仕留めただけだった。


 その後は乱戦となった。一匹一匹を倒しながら数を減らし、全部を仕留め終わったのは四十分ほど経過した頃である。


「疲れた。この方法は効率がいいけど、滅茶苦茶疲れるぞ」

「同感、次々に襲い掛かってくるので息つく暇もなかった。それにしても、ストームドレイクの一斉ブレスには、驚きですね」

「私もあんなのは初めて見た」


 ストームブレスが叩き付けられた場所に目を向けた。平らだった地面がデコボコになり広範囲に地形が変わっている。


「やはり数は力だな」

 それを聞いたジョンソンは考え込むような顔をする。

「そんな顔をして、どうしたんです?」

「ダンジョン神が、邪神との戦いに連れて行く戦士を、七人に制限した理由を考えていた」


 その言葉を聞いた俺は、嫌な事を思い付き唇を噛み締めた。

「まさか、邪神とダンジョン神が戦い始めると同時に、地球に邪卒やダークセベクみたいな化け物が召喚されるんじゃないだろうな」

「そいつらと戦うために、多くの冒険者を残すという事か。あり得ない事ではない」


 俺はグリーン館を避難場所となるように改造した。それは邪神との戦いで敗北した場合や引き分けで邪神を倒せなかった場合を想定したものだった。


 複数の場所で戦いが始まるとは思っていなかったのだ。

「家族が心配なら、渋紙市に連れて来ればいい。グリーン館はシェルターになっているから、他よりは安全ですよ」


 それを聞いたジョンソンは悩み始めた。

「家族だけならそうしたいが、知り合いや友人たちが居る。それらの全員を渋紙市に連れて来る事はできないだろう。アメリカに避難場所を用意するしかないな」


 そんな話をした後、ドロップ品を回収した。それからジョンソンの魔法レベルが『24』になるまでストームドレイク狩りを続けた。


 ジョンソンは短期間に大きく実力を伸ばして修業を終えた。本当はもう少し長く続けたかったが、アメリカに一度戻り、避難場所を用意してから日本にもう一度来ると決めたそうだ。


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