第1057話 ストームドレイク狩り

 ウシュムガルを倒した俺たちは、中ボス部屋がある塔から出ると、大きな沼がある方向に向かった。その沼の近くに階段があるのだ。階段を見付けて下りると三十一層の砂漠が目に入る。


「砂漠か。暑いな」

 ムッとするような温かい風が顔に吹きつける。しかも乾燥している風に細かい砂が混じっているようだ。俺はゴーグルを出して装着した。横を見るとジョンソンも同じようなゴーグルを取り出す。


「この砂漠に居る魔物は、サソリ系とトカゲ系の魔物だったな?」

 ジョンソンが確認するように質問した。

「ええ、手強いのはクイックサラマンダーですね」

 この砂漠にはサラマンダーの上位種と思われるクイックサラマンダーが居る。体長が六メートルほどでドラゴンの火炎ブレスほどではないが、口から火炎を吐き出す。


 しかもクイックサラマンダーは素早い。と言っても、総合的な強さはストームドレイクより下なので、クイックサラマンダーを瞬殺するくらいでないと、ストームドレイクの群れとは戦えないだろう。


 俺がホバービークルを出そうとしていた時、ジョンソンが遠くにクイックサラマンダーの姿を発見した。

「あれはクイックサラマンダーじゃないか?」


 ジョンソンが指差した方向に目を向けた俺は、足の長いサラマンダーの姿が見えた。そのクイックサラマンダーが俺たちを見付け、砂の上を信じられない速さで近付いて来る。砂の上なので走り難いはずなのだが、それを物ともせずに爆走して口から火を吐いた。


「うわっ」

 俺は叫びながら『カタパルト』を発動して火を避ける。ジョンソンは素早さを強化して火を回避するために高速戦闘モードで走り出した。もろい砂の上を高速戦闘モードで走ると、一歩ごとに砂が爆発したように舞い上がる。


 クイックサラマンダーに接近したジョンソンは、『天閃』の躬業を使って七重起動の『ハイブレード』を発動し、長大なD粒子の刃をクイックサラマンダーに叩き付けた。その一撃でクイックサラマンダーの首が切り裂かれた。


「躬業の力か。『ハイブレード』を高速戦闘中に使えるようになるのに、三ヶ月ほど特訓しなければならなかったんだが……羨ましい」


 【超速視覚】でジョンソンの動きを見ていた俺は溜息を漏らす。ただジョンソンが『天閃』を持っているように、俺もいくつかの躬業を持っている。全く羨む必要はないと分かっていた。


「高速戦闘中に砂の上を走るもんじゃないな。全身砂だらけになってしまった」

 ジョンソンがぶつぶつ言いながら戻って来ると、俺は『パペットウォッシュ』を自分に掛けるように言う。


「えっ、『パペットウォッシュ』はシャドウパペットを綺麗にする魔法じゃないのか?」

「そうだけど、人間に対しても使えるんだ」

 ジョンソンは『パペットウォッシュ』を発動し、身体中の砂をD粒子が掻き集めて綺麗になる感覚を体験した。


「これは便利だ。けれど、こんな使い方は魔法庁でもらった説明書には書かれていなかったぞ」

 俺は苦笑いした。

「この『パペットウォッシュ』を人間に使うと、身体の表面に付いている脂分まで取り除くので、皮膚が荒れる場合があるんだ。だから、人間に使うのは推奨していない」


 ジョンソンが納得した顔になった。

「そう言えば、説明書の最後の方にシャドウパペット以外に使う場合は、自己責任でとか書いてあった」

 訴訟社会であるアメリカに生まれたジョンソンは、俺の一言で理解したようだ。


 それからホバービークルを出して二人で乗り込む。三十一層の砂漠は広大で、歩いて階段まで行くと何時間掛かるか分からないほどだ。


 ホバービークルで階段近くまで飛んだ俺たちは、ストームドレイクが棲み家としている三十二層に下りた。三十二層は土と岩しかない荒野で、その上空には一匹のストームドレイクがゆうゆうと飛んでいるのが見えた。


「あのストームドレイクを一匹でも攻撃すると、仲間の群れが集まって来るそうだ」

 俺がジョンソンに説明する。ジョンソンはストームドレイクを値踏みするように見詰めた。


「何とかなりそうだ」

 そう言ったジョンソンは、飛んでいるストームドレイクに向かって『ガイディドブリット』を発動し、ロックオンするとD粒子誘導弾を放った。


 その攻撃に気付いたストームドレイクが叫びながら避けようと急旋回する。それを追い掛けるようにD粒子誘導弾が曲がった。追い付いたD粒子誘導弾が空間振動波を放射。それによりストームドレイクはトドメを刺されて消えた。


 ただストームドレイクの叫びは仲間を呼び寄せたらしい。

「集まって来るぞ」

 俺が声を上げると、ジョンソンが手に持つデーモンキラーを握り締めた。遠い空にポツポツと点のようなものが現れ、それが近付いて来る。


 そして、その点が大きな翼を持つストームドレイクだと見分けられるようになった。

「五匹のストームドレイクか。俺も手伝おうか?」

「無用だ。私だけで十分だよ」

 ジョンソンは俺から離れて前に進み出た。しばらくすると、ストームドレイクたちがジョンソンを敵だと認識する。次の瞬間、ジョンソンを狙って三匹のストームドレイクが急降下を始めた。


 それを迎え討つジョンソンは『ダークネスレイン』を発動し、一万五千発の黒炎弾をストームドレイクたちに向かって放った。三匹のストームドレイクを捉えるように指定した多数の黒炎弾が上昇し、ストームドレイクの身体を撃ち抜く。


 その黒炎弾だけでトドメを刺された三匹は空中で消えた。残った二匹のストームドレイクが大きな鳴き声を上げる。それは仲間を集める声だったようだ。


 四方からストームドレイクが集まり、その数が二十匹を超えた当たりから正確に数え切れなくなる。それらのストームドレイクがジョンソンに向かって急降下を始めた。


 ジョンソンは初めから空中戦をする気はないようだ。ストームドレイクが得意な空中戦では負けると判断したのだろう。急降下して近付いたストームドレイクが、口を開けてストームブレスを放つ。魔力が込められた風が竜巻となって地上を襲う。


 ジョンソンは高速戦闘モードで素早く避けながら、『デスクレセント』を発動して三日月形のD粒子ブーメランを上空に放った。回転しながら上昇したD粒子ブーメランは、二匹のストームドレイクを切り裂いて消える。


 一匹のストームドレイクが足の爪を伸ばして襲い掛かる。その攻撃を『ニーズヘッグソード』を発動して拡張振動ブレードで迎え討つジョンソン。


 段々とジョンソン一人では手に負えない状況になり始めたようだ。俺は参戦する事にした。


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