第1056話 ウシュムガルとジョンソン
俺とジョンソンは鳴神ダンジョンへ向かった。
「バタリオンの秘匿魔法には、どんなものが?」
ジョンソンがバタリオンの秘匿魔法について確認した。
「まずシャドウクレイにD粒子を練り込む魔法の『クレイニード』かな」
「やはり『プチクレイニード』の制限解除版が、あったのか」
『プチクレイニード』はシャドウクレイを七十キロまでしか処理できない。その制限を外そうと改良したのが『クレイニード』だとジョンソンは解釈したようだ。実際は『クレイニード』を先に創り、その後に制限付きの『プチクレイニード』を登録している。
「後は黒炎リングが必要な『黒神雷』と『ダークネスレイン』、それに『プロジェクションバレル』かな」
「魔法庁に登録されているのは、魔法レベルが『20』までの生活魔法だったはず。それ以降の魔法はないの?」
俺が賢者だと知っているジョンソンは、『21』以降の生活魔法が当然あるだろうと考えているようだ。俺は苦笑して魔法レベルが『28』までの生活魔法がどんな魔法か教えた。
「『フライトスーツ』と『アクアスーツ』、それに『スキップハープーン』と『スキップキャノン』か。もしかして、巨獣ジズと巨獣レヴィアタン用の魔法?」
ジョンソンはどんな生活魔法か聞いて目的を言い当てた。
「巨獣に遭遇したら、どうやって倒すかを考えたんだ」
「この魔法で本当に巨獣が倒せるんだったら、嬉しいんだが」
「これらの魔法をどこまで使い熟せるかだな。それにより結果は変わるだろう」
ジョンソンは巨獣を倒したいようだ。そう言えば、俺が巨獣を倒した事はジョンソンに言っていない。
俺たちは一層の転送ルームへ行き、転送ゲートで三十層に移動した。ここの転送ルームはバベルの塔のような建物の二階に存在する。一階の中ボス部屋に行くには長い階段を下りなければならない。
中ボス部屋の主は、海水の女神ティアマトが生み出した十一の魔物の一つであるウシュムガルだ。ウシュムガルは『偉大なる龍』という意味だが、小さな翼を持つ龍だった。蛇のような長い胴体に四本の足があり、頭は東洋の龍という化け物である。
以前に一度倒し、それ以降復活したという話は聞いていない。
「そのウシュムガルを倒したのは、どれくらい前なんだ?」
ウシュムガルの話を聞いたジョンソンが確認した。
「そうだな。もうすぐ二年ほどになるかな」
その時、一階の方で巨大な何かが動く気配がした。俺とジョンソンは目を合わせて頷きあった。二人とも『強運』というか『凶運』の持ち主なので、ウシュムガルが復活したようだ。
俺たちは気配を消して一階の中ボス部屋に近付いた。そして、中を覗くとそこには全長二十メートルほどの龍が居た。俺はジョンソンにウシュムガルに関する情報を伝えた。
「へえー、圧縮した励起魔力のバリアと衝撃ブラストという咆哮、それに鱗手裏剣か。強敵だな」
「以前は、エルモアたちと一緒に倒したんだけど、今回は二人で倒そう」
今回の目的はジョンソンの魔法レベル上げなので、エルモアたちの力を借りずに倒す事にした。俺たちは『ハイパーバリア』を発動し、衝撃ブラストへの対策を準備してから中に入る。
その瞬間、ウシュムガルが俺たちの存在に気付いて吠えた。その吠え声に衝撃ブラストの力は込められていなかったが、俺たちの肝を冷やすほどの迫力があった。
ジョンソンが『ホーリーファントム』を発動し、<ステルス>の特性が付与されたホーリー幻影弾をウシュムガルに向けて放った。その攻撃にウシュムガルは気付かない。その細長い胴体の真ん中に命中したホーリー幻影弾が爆発。ウシュムガルの鱗を吹き飛ばし、内臓を守る筋肉にダメージを与えた。
但し、致命傷ではないので反撃してきた。ウシュムガルが翼を羽ばたかせ鱗手裏剣を飛ばす。涙滴型を上下逆さまにした形で飛んで来た鱗手裏剣がジョンソンに襲い掛かる。
ジョンソンは『ハイパーバリア』の励起魔力バリアを展開し、鱗手裏剣を防いだ。その間にウシュムガルの横に回り込んだ俺は、『ニーズヘッグソード』を発動して空間振動波の刃である拡張振動ブレードを振り下ろす。その刃がウシュムガルを覆っている鱗に当たる寸前に、バリアのようなもので弾かれた。
ウシュムガルのバリアは常時張られている訳ではなく、ウシュムガルが攻撃を防ぐために意識して張るようだ。つまり気付かなかったホーリー幻影弾の場合は、バリアを展開していなかったのだ。
ウシュムガルが俺に向かって飛び掛かってきた。爪や翼を使って襲ってきたので、それを避けながら接近して神剣ヴォルダリルで斬り付ける。この時はバリアがなく斬撃が直径百五十センチほどもある胴体に十センチほど食い込んで止まった。
ウシュムガルは攻撃している時にバリアを張っていないようだ。ウシュムガルの目がギラリと光って口を開けた。
「衝撃ブラストだ!」
ジョンソンに警告してから励起魔力バリアを展開する。そのバリアに衝撃ブラストが当たり、低い唸り声のような音を響かせた。
俺が衝撃ブラストの攻撃を耐えている間に、ジョンソンが『フラッシュムーブ』を使ってウシュムガルの頭上に移動する。そこで落下しながら『ホーリーキック』を発動し、ウシュムガルの頭へと落下。その時点において、俺への攻撃に夢中になっていたウシュムガルは気付いていない。
ジョンソンはウシュムガルの頭に着地すると同時に、足から聖光貫通クラスターを撃ち出した。バリアはなく、聖光貫通クラスターが頑強な頭蓋骨を打ち砕く。そこにロンゴミニアドの穂先を突き入れた。頭蓋骨に遮られる事もなくウシュムガルの脳に突き刺さったロンゴミニアドは【聖雷】を発動する。
ロンゴミニアドの穂先から稲妻が放射され、大きな脳を焼く。それがトドメとなってウシュムガルの息の根が止まって消えた。
ウシュムガルのドロップ品を探すと、魔石と指輪、それに巻物が一つずつ見付かった。まず指輪を調べると『ロキの指輪』だった。これには姿を消し、魔法を遮断する機能があるようだ。
「なるほど、<ステルス>の効果に似ている」
俺はジョンソンが使うように勧めた。そして、巻物を調べると生活魔法の特性が描かれている巻物だと分かった。事情をジョンソンに話して巻物はもらう。
「ところで、魔法レベルは?」
ジョンソンが肩を竦めた。上がらなかったらしい。
「この前、『21』になったばかりだからな」
ストームドレイク狩りを頑張らないとダメなようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます