第1054話 グリムvsジョンソン
ジョンソンからの連絡だと今日到着するはずなので、俺は到着するのを屋敷で待っていた。飛行機が遅れたらしく、夕方になった頃にジョンソンが屋敷に現れた。
ジョンソンの姿を見た瞬間、彼の身体から発する神威エナジーに気付いた。しかも、覚えのあるものだ。三橋師範の肩に刻まれたタトゥーから放出される神威エナジーと同じだと感じた。
「グリム先生、ありがとう」
ジョンソンがいきなり感謝した。今回の訪問は俺に戦い方を習いたいという事だったので、その件で感謝しているのだろう。
「俺も練習相手が欲しかったので、ちょうど良かったです」
「練習相手か。厳しい修業になりそうだな」
「三橋師範も一緒に修業しますから、もしかするとキツイものになるかもしれません」
「三橋師範というのは?」
俺は三橋師範の事を説明した。
「ほう、グリム先生の空手の師匠か。強いんだろうな」
「間違いなく強いです。魔法なしの接近戦で勝てるとしたら、アヴァロンさんくらいですよ」
アヴァロンは総合格闘技の世界大会で優勝した事がある。得意なのは組技と寝技で、小さい頃からレスリングをしていたという。打撃なら三橋師範、寝技になったらアヴァロンが勝つだろうと俺は予想している。
ジョンソンに生活魔法の基礎を教えるために、『干渉力鍛練法』を教えた。この鍛錬法はD粒子に対する干渉力を鍛えるもので、一段目は広い範囲のD粒子の存在を感じ取る鍛練、二段目の鍛練法であるD粒子を動かす鍛練、三段目は励起魔力を発生できるまでD粒子を操作する鍛錬である。
一段目は最初からクリアしているので、実際の鍛錬は二段目からになる。俺が見本としてD粒子を操作するところをジョンソンに見せた。
周りに存在するD粒子に干渉して集め、それが目に見えるほど濃厚なものになると蛇行する川の流れのように動かし、空中で舞いを披露する。それを見ていたジョンソンが、呆然とした表情でD粒子の流れを見ていた。
そして、その流れに圧力を掛けるとD粒子の結晶が生まれる。その結晶を自在に操作する事で励起魔力が発生する。
「生活魔法は、かなりの技量になったと考えていたんだが、間違いだったようだな」
俺はジョンソンに生活魔法の基礎から叩き込んだ。冒険者としての実力は文句ないので、鍛えれば短期間で習得するだろうと予想していた。その予想に間違いはなく、ジョンソンは短期間で三段目までできるようになった。その鍛錬によりD粒子への干渉力が強化され、生活魔法の発動時間が短縮された。
もちろん『干渉力鍛練法』だけを修業させていた訳ではない。午前中は『干渉力鍛練法』と早撃ちの練習、午後からは一緒に三橋師範の道場へ行った。
「ほう、ここが三橋師範の道場なのか。意外と小さいのだな」
ジョンソンは俺の師匠が運営している道場なので、巨大なものだと勘違いしていたようだ。但し、三橋師範の道場は昔のボロい道場ではない。
三橋師範が冒険者として稼げるようになると、ボロ道場を取り壊して新築している。それは鉄筋コンクリート製の天井が高い道場で、壁には衝撃吸収マットが貼り付けられている。そして、広さは十数人の弟子が一緒に稽古するのに必要な広さがある。
道場では三橋師範が型の稽古をしていた。
「師範、この前話したジョンソンさんを連れて来ました」
ジョンソンが三橋師範に自己紹介をしてから、俺と一緒にロッカールームで着替えた。ロッカールームから出て来ると、三橋師範が値踏みするようにジョンソンを見る。
「しっかりと鍛えられた身体だ。最初に実力が見たい」
「どうすればいいですか?」
ジョンソンが三橋師範に尋ねた。
「グリムと組手をしてもらおう」
俺は苦笑いして道場の中央に進み出た。
「言っておきますが、魔法はなしですよ」
俺が言うとジョンソンが承知したと頷く。俺とジョンソンは向き合いお互いに隙を探り合う。先に仕掛けたのはジョンソンだった。
ジョンソンはブラジルの伝統格闘技であるカポエイラを習得しているらしい。アクロバティックな動きで俺に近付くと、踊るように左右にステップして後ろ回し蹴りを放った。腕で受けると身体が弾き飛ばされそうになり、その後ろ回し蹴りが強烈だと感じた。
それから休む事なく次々と攻撃を仕掛けられる。前宙からの蹴りや回し蹴りは威力があり、捌くのに苦労した。俺はローキックを放ってジョンソンの動きを止めようとした。
だが、ジョンソンはバク転して回避。ちょっとびっくりだ。そこから床に手を着いたジョンソンが
床に身を投げ出すと回転して起き上がる。ジョンソンと戦ううちに、その戦い方が分かってきた。アクロバティックな動きで相手の意表を突き、素早く強力な蹴りで相手を倒すというものだろう。ジョンソンの攻撃は一撃でもまともに命中すれば、相手を倒せる。
但し、その攻撃は大きく、それが弱点となると判断した。『攻撃を恐れるな』と心の中で自分を叱咤し、ジョンソンが攻撃する気配を読んで前に出ると、ジョンソンの攻撃を潰して素早い膝蹴りを当てる。
ジョンソンの攻撃が止まった。それからは前に進み続けながら小さな攻撃を当ててジョンソンを追い込み、最後に回し蹴りで決めた。
「そこまで!」
三橋師範の声が上がる。俺は後ろに下がって稽古着を整えた。ジョンソンを見ると悔しそうな顔をしている。今回の組手は俺の勝利となったが、次に戦えば負けるかもしれない。経験豊富なジョンソンなら、今回勝利した戦い方に対応する手段を持っていると思うからだ。
その後、三橋師範の厳しい指摘を受けながら、ジョンソンの練習内容を決めていった。
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