第1053話 トノパーダンジョンの九層

 森の中を進むと、アーマーベアと遭遇した。戦い慣れた魔物なので、襲ってきたところをカウンターの斬撃を加えて倒す。


「さて、そろそろヴァイオレントコングと遭遇しても、良さそうなんだが」

 ジョンソンが呟いた時、大木の反対側から何かが争う音が聞こえてきた。ジョンソンが慎重に近付いて調べると、巨大ゴリラと巨大な猪が戦っていた。


 巨大ゴリラは九層の主であるヴァイオレントコングに間違いなかった。一方巨大猪は尋常な魔物でないという雰囲気を持っていた。


 ジョンソンが鑑定モノクルで巨大猪を調べると『カリュドーンの猪』と表示された。この猪はギリシャ神話に出て来る巨大な猪だったはずだ。戦の神であるアレースの聖獣、または月の聖獣と呼ばれている。


 巨大ゴリラが巨大猪を凄まじいパワーで殴った。巨大猪の巨体を支える足が衝撃で地面にめり込む。

「げっ、とんでもないパワーだ」

 そんな凄まじい攻撃を受けても、巨大猪は呆れるほど頑丈でビクともしない。それどころか口から伸びた凶悪な牙でヴァイオレントコングの腹を突き刺した。


 腹から血を噴き出したヴァイオレントコングがよろよろと後ろに下がる。それを追ってカリュドーンの猪が突撃した。全長十一メートルの巨大ゴリラに匹敵する体格を持つ巨大猪は、牙と頭で相手を上に跳ね飛ばす。


 落ちて来るヴァイオレントコングに向かって二本の牙を突き出し、その首と胸を串刺しにした。ヴァイオレントコングが悲鳴を上げる。だが、その悲鳴と一緒に大量の血を吹き出して声が出なくなった。突き刺された状態で弱々しく藻掻いていた巨大なゴリラが息絶えて消えた。


「九層の主を倒して、自分が主になろうとしているのか?」

 そう呟いたジョンソンがビクッと反応した。巨大猪の視線がジョンソンの方に向けられたのだ。どうやら気付かれたらしい。


 巨大猪が鼻息を荒くし、ジョンソンに向かって突進して来た。ジョンソンは急いで『ティターンプッシュ』で迎え討つ。<ベクトル制御>と<衝撃吸収>の特性が付与されたティターンプレートが巨大猪の突進のエネルギーをそのまま返して弾き飛ばした。


 カリュドーンの猪がドガッという轟音を響かせて地面に叩き付けられる。そのまま転がった巨体が四つの足を使って転がりを止めると、唸るような声を上げる。そして、口を開くと真っ赤な炎を吐き出した。


 ジョンソンは『フラッシュムーブ』で移動して赤い炎を回避する。

「今のはブレスなのか?」

 次のブレスに備えて急いで『マナバリア』を発動する。巨大猪がゆっくりと近付いてジョンソンを踏み潰そうとする。『ティターンプッシュ』を警戒しているようだ。


 踏み潰しの攻撃をジョンソンが全て躱すと、巨大猪が首を振って長い牙でジョンソンを弾き飛ばそうとする。その動きに気付いたジョンソンは『カタパルト』で身体を上に放り投げた。空中で一回転したジョンソンは魔装魔法の『エアリアルマヌーバー』で空中に足場を作り、それを利用して空中機動を行う。


 素早く巨大猪の頭上に移動したジョンソンは、薙ぎ倒す槍ロンゴミニアドの穂先を下に向けて持ち、そのまま落下した。落下の勢いを加えた力でロンゴミニアドを巨大猪の頭に突き刺す。巨大な頭蓋骨にめり込んだロンゴミニアドに魔力を流すと、【聖雷】というロンゴミニアドの機能が発動した。


 ロンゴミニアドの穂先から稲妻が放射され、巨大猪の脳を焼きながら走り抜けた。痛みに吠えた巨大猪が全身をブルブルとする。そのせいでジョンソンが放り投げられた。


 回転しながら宙を舞うジョンソンは『エアバッグ』を発動して着地した。カリュドーンの猪へ目を向けると、地面を転がりながら苦しんでいる。


 すぐにでもトドメを刺したかったが、狙いを定めるのが難しい。ジョンソンの脳裏に『ダークネスレイン』の魔法が浮かんだが、習得していないので使えない。


 仕方なく『ジェットフレア』を発動し、D粒子ジェットシェルを撃ち出した。途中の空気を吸い込み圧縮しながら飛んだD粒子ジェットシェルは、狙いを外して地面に着弾。そのせいで発生した磁気が巨大猪の後ろ足だけを包み込み、圧縮空気がプラズマ化して爆発するように拡散する。超高熱のプラズマが巨大猪の後ろ足を包み込み焼いた。


 痛みを堪えて巨大猪が憎しみが込められた炎のブレスを吐き出した。ジョンソンは魔力バリアを展開してブレスを防ぐ。ブレスが途絶えた瞬間、魔力バリアの陰から飛び出したジョンソンは、愛剣ジョワユーズを抜いて次元断裂刃を発生させた。


 力が尽きた感じで動きが鈍くなった巨大猪に向け、次元断裂刃が飛ぶ。その次元断裂刃が巨大猪の腹を真っ二つにした。その瞬間、ジョンソンの体内でドクンという音が響いた。生活魔法の魔法レベルが上がって『21』になったのだ。


 それに加えて肩に傷みが走った。調べてみると肩に変なタトゥーが刻まれている。

「これはドロップ品みたいなものなのか?」

 ジョンソンは首を傾げた。だが、考えても分からないのでドロップ品を探す事にした。ジョンソンはヴァイオレントコングとカリュドーンの猪がドロップした魔石を回収した。さらに探して真っ黒な弓を見付けた。


 鑑定モノクルで調べると『カオスボウ』だと判明した。これは黒炎エナジーで矢を形成して射る弓のようだ。射程が長くかなりの威力があるようなので、ジョンソンは満足そうな顔をした。


 それから他にドロップ品がないか探す。次に見付かったのは剣だった。それもグレートソードと呼ばれるような大剣である。鑑定モノクルで調べると『デーモンキラー』という名前だと分かった。


 このデーモンキラーは光の剣に属しており、ロンゴミニアドより強力な魔導武器のようだ。このデーモンキラーだったら、ダークセベクを真っ二つにできたかもしれない。


 まだあるかもしれないと探したが見付からず、最後に『マジックストーン』を使った。すると、手の中に一つの指輪が飛んで来た。


「最後は指輪か。これが呪いの指輪だったら、日本に行った時、神社でおはらいをしてもらうかな」

 以前に日本へ行った時、冒険者ギルドの職員から、お祓いという儀式があると聞いたジョンソンは覚えていたのだ。


 早速指輪を調べると『治療の指輪』だった。

「ふふふ……こいつは当たりだ。お祓いに行く必要はないな」

 ドロップ品を回収し、魔法レベルが『21』になったので目的は達成した。ジョンソンは地上に戻り、日本へ行く準備をする事にした。


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