第1052話 トノパーダンジョンのジョンソン
病院で目を覚ましたジョンソンは、ベッド脇の椅子に若い女性が座っているのに気付いた。
「良かった。このまま目を覚まさないんじゃないかと心配したんですよ」
「心配掛けたようで済まない。ところで、君は?」
「申し遅れました。冒険者ギルドのパメラ・グレイディです」
「ギルド職員か、状況を教えてくれ」
「ダークセベクを倒すために、ジョンソンさんたち四人がメサダンジョンへ入り、ダークセベクと戦ったのですが、ダンジョンコアをダークセベクが呑み込んだ瞬間、ダンジョンが崩壊してジョンソンさんたちは地上に飛ばされたようです」
「ダークセベクはどうなった?」
「一人だけ気を失わなかったグリム先生が、トドメを刺したそうです」
ジョンソンがホッとした表情を浮かべる。
「ハインドマンさんは?」
「少し前に気がついて、今は検査室へ行っています」
「クレイトン少佐……」
「残念ながら亡くなられました。遺体も回収できなかったそうで、遺族の方も悲しんでおられました」
それを聞いたジョンソンは暗い顔になった。
「グリム先生は?」
「何度か見舞いに来られたのですが、昨日日本に戻られました。あっ、これを渡してくれと……」
パメラが黒い指輪と魔法陣が書かれた紙をジョンソンに渡す。
「それは『黒炎リング』と『ダークネスレイン』という生活魔法の魔法陣だそうです。魔法レベルが『21』になったら習得してくれ、という事でした」
魔法陣が書かれた紙をチェックすると、裏に説明書きがあった。この魔法は黒炎リングから放出される黒炎エナジーを使って発動する魔法らしい。邪卒や邪神眷属にも有効で範囲攻撃ができると分かり、ジョンソンは喜んだ。
以前から範囲攻撃できる魔法が欲しかったのだ。
「それから『邪気耐性の指輪』は返してもらう、と言っておられました」
「あの指輪は、グリム先生から借りていたものだからな」
あれがなかったら恐怖で戦えなかっただろうと、グリムに感謝した。ちなみにジョンソンが邪神と戦う七人に選ばれていたら、グリムも回収しなかっただろう。
その後、検査から戻ったハインドマンと話し合った。
「結局、私はあまり役に立たなかったようだね」
ハインドマンが残念そうに言う。
「自分も同じですよ」
「いや、君はダークセベクの足にダメージを与えた」
ジョンソンが苦笑いする。
「あれは失敗でした。足ではなく腹か腰を刺した方が良かった」
それを聞いたハインドマンが溜息を吐いた。
「自分の実力不足を痛感したよ。それで修業し直そうと思う」
「えっ、どうするんです?」
「攻撃魔法使いとして、圧倒的な実力を持つアヴァロンさんに教えを請う」
それを聞いたジョンソンは感心した。ハインドマンほどの実力者が、今更他人に師事するなど中々できる事ではなかったからだ。
「そうか。私もグリム先生に教えを請うかな」
ハインドマンが変な顔をした。
「ちょっと待て。グリム先生は生活魔法使いだぞ。同じ魔装魔法使いのブラッドリーがいいんじゃないのか?」
ジョンソンが肩を竦めた。
「ブラッドリーさんの戦い方は、所有する魔導武器の機能を中心に組み立てられています。真似できませんよ」
「そうなのか。でも、グリム先生なのは意外な感じがする」
「グリム先生は高速戦闘もできるし、接近戦も得意ですからね」
「しかし、そういうのは魔装魔法使いの君の方が、上じゃないのか?」
「グリム先生は、生活魔法と接近戦を組み合わせた戦い方が上手いんですよ。それに生活魔法は邪卒に有効な魔法が多い」
ジョンソンは戦い方を学ぶために日本へ行く事を決意した。しかし、その前に生活魔法の魔法レベルを上げて『ダークネスレイン』を習得しておかなければ、と思った。
退院したジョンソンはトノパーダンジョンに戻った。今度はヴァイオレントコングという九層の主を倒し、魔法レベルを上げようと考えたのだ。
ヴァイオレントコングは全長十一メートルほどの巨大ゴリラである。額に一本の角があり、その角から雷撃を放つと言われている。
トノパーダンジョンに入って二層の草原を進んでいると、三匹のハンターサウルスと遭遇した。体高が二メートルほどで素早い動きをする二足歩行の恐竜型魔物である。短い前足には鋭い爪があり、その爪が凶悪な凶器となる。
ジョンソンは愛剣ジョワユーズを持って走り出した。ハンターサウルスが鋭い爪でジョンソンを引き裂こうとする。その攻撃を右にステップして躱し、ジョワユーズでハンターサウルスの足を斬り裂いた。
バランスを崩したハンターサウルスに向かって跳躍したジョンソンが、首を斬り飛ばす。すると、残りの二匹が同時に左右から襲ってきた。ジョンソンはその場でクルリと回転しながら『クラッシュソード』を発動し、空間振動ブレードを横薙ぎに振る。
その一撃で二匹のハンターサウルスの腹が斬り裂かれた。ハンターサウルスを倒したジョンソンは魔石を回収して先に進んだ。
前回トノパーダンジョンに潜った時に、八層までの主は倒したので順調に進む事ができた。そして、九層の森に下りた。ここは巨木が生い茂る場所で、この中央付近にヴァイオレントコングが居るはずだった。
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