第1005話 グリーン館への攻撃

 グリムが南禅ダンジョンへ行っている頃、屋敷を覗く怪しい人影があった。屋敷の前にある通りの向こう側に寺があり、その庭に高さ二十メートルほどもある大きなクスノキがあった。


 そのクスノキに登っている二人の不審者が居た。時刻は夜中の一時を過ぎている。その不審者は暗視機能が付いている魔導具の双眼鏡で、グリーン館と屋敷を調べていた。


 不審者たちは、黒っぽい服を着て顔をオーガのマスクで隠している。

「建物の配置を記録しろ。それを基に攻撃計画を立てるそうだ」

「ボスは、どうしてもグリムという冒険者を殺したいようですね」

「あいつがパルミロ様を殺した、とボスは考えているらしい」


 それを聞いた不審者の男が首を傾げた。

「しかし、パルミロ様もボスの手駒の一つに過ぎなかったんだろ?」

「そのせいでボスの計画が狂ったと聞いている。それを怒っているのかもしれんな」

「でも、相手はA級冒険者だ。リスクが大きいと思うんだが?」

「ボスなりの考えがあるんだろ。それよりしっかりと記録しろ」


 その不審者たちを見張っている者が居た。アリサの猫人型シャドウパペットであるサクラだ。警備シャドウパペットからクスノキに不審な人物が居ると報告を受けたアリサが、サクラに確かめさせたのである。


 サクラは不審者たちの会話を記憶しただけで、不審者を捕まえようとはしなかった。建物の配置を調べ終えた不審者が去ると、サクラも屋敷に戻った。


 サクラからの報告を聞いたアリサは、どうするか迷った。

「トモエ、どうしたらいいと思う?」

 アリサはベビーシッター用シャドウパペットであるトモエに尋ねた。と言っても、答えを期待している訳ではなく、会話する相手が欲しかったのだ。


「この屋敷は、警備シャドウパペットと為五郎さんに守られています。心配する必要はないと思います」

 アリサは床に座って虎太郎を見守っている為五郎に目を向けた。

「そう思うけど、虎太郎も居るから不安なのよ」


 その虎太郎はベビーベッドの上ですやすやと眠っている。虎太郎を連れて実家に帰る事も考えたが、守ってくれる警備シャドウパペットが居ない実家で襲われる恐れもある。


 警察にも『闇の隠者』のアジトがある雑居ビルの事は通報しているのだが、証拠がないので手を出せないようだ。ただアジトを見張る警官を手配すると言われたので、ハクロは見張りを警官にバトンタッチしていた。ちなみに、刑事ではなく警官なのは渋紙市で殺人事件が起き、刑事はそちらの捜査をしているからだ。


 その三日後、グリムが渋紙市に戻った。アリサが不審者の話をグリムに伝えると顔をしかめていた。

「攻撃が近いのかもしれない。またハクロに見張ってもらおう」

 グリムは影からハクロを出すと、『闇の隠者』のアジトを見張るように命じた。


「これがドラゴンゴーレムのゴーレムコアだ」

 グリムは四個のゴーレムコアをアリサに渡す。そのゴーレムコアに『トランスファーバリア』の魔法を刻み、魔法回路コアCに加工するのだが、その作業に一週間ほど必要だった。


 その翌日の夜、警官とハクロが見張る雑居ビルに動きがあった。

「連中、何を屋上に運び上げたんだ」

 『闇の隠者』のメンバーが何かを屋上に運んだのを見て、三人の警官が話し合う。

「とにかく署に連絡する」

 警官の一人が電話のところへ向かった。


 警官が見張っていると、怪しい男たちは屋上で何かを組み立てている。しばらくして完成したらしく、男たちが離れた。


「何をするつもりなんだ?」

 警官たちには予想がつかなかった。次の瞬間、屋上からミサイルのようなものが撃ち出された。

「なぁ……嘘だろ」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


『雑居ビルから、ミサイルが発射されました』

 メティスの警告を聞いた俺は、屋敷の屋根に上がった。そこには警備シャドウパペットも居て雑居ビルがある方向を見詰めている。


 そちらに目を向けるとミサイルが噴き出す炎が近付いて来るのが見えた。即座に神威エナジーを利用して『神威結界』を展開する。グリーン館と屋敷の両方を守るような広範囲の結界やバリアは、『神威結界』と『トランスファーバリア』しかないが、新しく創った『トランスファーバリア』は展開するのに時間が掛かる。


 警備シャドウパペットたちは『神威結界』が間に合わなかった場合に備え、『ティターンプッシュ』を発動する準備をしていた。但し、『ティターンプッシュ』の射程は短いので、迎撃したとしても爆風で怪我人が出るかもしれなかった。


 グリーン館と屋敷の周囲を結界が包み込む。次の瞬間、結界に命中したミサイルが爆発した。屋敷を吹き飛ばすほどの威力がある爆発だったが、神威エナジーの結界はビクともしない。


 俺は次のミサイルがあるかもしれないと思い、しばらく屋根の上で待機していた。だが、次のミサイルはなかった。


「雑居ビルの連中は、どうしている?」

『ハクロからの報告だと、連中は逃げようとしているようです』

 メティスもハクロに使われている魔導コアの指輪を持っているので、ハクロからの報告を直接受け取る事ができる。


「警察は?」

『応援が来るのを待っています』

 アリサと虎太郎を攻撃された俺は、頭にきていた。『フライトスーツ』を発動すると飛び上がり、雑居ビルに向かう。


 すぐに雑居ビル上空に到達し、屋上に着地した。屋上から三階に階段を駆け下りると、『闇の隠者』のアジトに飛び込んだ。すると、敵は荷物を掻き集め逃げようとしていた。その数は五人、全員が俺を目にして懐から拳銃を取り出す。


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